27. 薬草採取講座
ジルコットをスピネルに乗せたお礼として、ラズにも薬草採取の基本を教えてもらうことになった。
さて、どんな薬草を探してくれるのだろう。
ボクが口を挟むことではないし、後ろから見学していることにしようかな。
「薬草採取の基本だが、まず薬草はいろいろな場所に生えているということを覚えておけ。薬草はどこにでも生えている」
「え、薬草って特別な場所にしか生えていないんじゃ」
「特別な場所にしか生えていない物は『薬草』ではなく『霊草』だ。薬草はどこにでも生えている草の中から人にとって都合のいい成分を持っている草の総称だ」
なるほど、本当に基本的な知識から教えるみたいだな。
薬草は本当にどこにでも生えている。
種類によって生育環境は様々だが、種類を問わないのであれば砂漠にだって水中にだって薬効成分のある草や水草はあるのだ。
それらの総称が『薬草』なのであり、特定の草を指すわけではない。
ジルコットの言う通り、特別な環境でしか育たない薬草のことは『霊草』として区別されることが多いな。
「例えば……ほれ、そこの草むらに生えている葉の鈴なりになっている草。それも薬草だ。効用は腹の痛み止めだな」
おや、こんなところにも生えていたのか。
確かにあの薬草は腹下しに対する痛み止めとして働く。
ただ、適切な薬効の抽出をしないと薬にならないのだが。
そこのところはどう教えるのだろう。
「だが、薬草と言っても草をそのまま食べて効果のある物と特別な処理をしなければいけない物の2種類がある。その草は特別な処理が必要な物だな」
「特別な処理?」
「その草だったら……乾燥させて煮詰めるんだったか? 俺もそこまで詳しくないんだ。処理が簡単な物は覚えているが、複雑な物になるとそもそも個人で手を出しにくい。鮮度がいいうちに冒険者ギルドへ納品するのが確実だ」
「それじゃあ旅の間に見つけた物は?」
「効能がわかっていて処理もはっきり覚えているなら自分で薬にしてしまうといい。それがわからないなら無理に採取する必要はないな。草といえども荷物になるし、薬にならない薬草なんてただの草と一緒だ」
極端な話ではあるが、その通りだろう。
無理に集める理由なんてない。
貴重な薬草を採取したところで薬にできないんだったら役に立たないからな。
それなら食事に使える山菜を探した方がましである。
「薬草採取の依頼は基本的にどの冒険者ギルドでも出しているはずだ。だが、鮮度の悪い薬草は買い取ってもらえない。薬草採取をするなら冒険者ギルドから日帰りできる範囲で行うことを薦める」
「冒険者ギルドだけですか?」
「物によっては商業ギルドや錬金術士ギルドでも買い取ってもらえるが、それぞれのギルドで買い取ってもらえる薬草はまちまちだ。物によっては冒険者ギルドの倍近くなる物もあるが、買い取ってくれる物も品不足になっている物がほとんどで安定していない。大人しく冒険者ギルドに持ち込むべきだな」
そうだな、冒険者ギルドに持ち込むのが一番手っ取り早い。
冒険者ギルドは冒険者から薬草を買い取ったあと、薬士や別のギルドなどに販売する。
確固たる流通網があるからこそなんでも買い取っているわけで、別のギルドでは鮮度がよく不足している物しか買い取らない。
そこは冒険者ギルドを頼るべきだな。
いろいろな知識を教える座学が終わり、いよいよ実際に薬草採取をする段階になった。
そこでジルコットが連れてきた冒険者たちがひとりずつ先ほどの採取していくのだが、全員が薬草を素手でちぎり取っている。
それではだめだな。
最後にラズの番になったとき、初めてラズが採取用のナイフを取り出しきれいに切り取ってみせた。
ラズには植物用の採取ナイフも与えてあったからな。
有効活用してくれたようでなによりだ。
「お、ラズ。採取ナイフを使うのはアイオライトから学んだのか?」
「いえ。村で薬草を集めるときも刃物で切り取っていましたから。基本的には刃物で切り取るんですよね?」
「そうだ。基本的に薬草はナイフで切り取る。ちぎり取るときれいに採れないこともあるからな。葉がきれいに採れてなければカウントされないし、植物用の採取ナイフも用意しておくのは基本だ」
「解体用のナイフじゃだめなんですね」
「解体用のナイフはモンスターの血が付くからな。それが原因で薬草が汚染されることがある。というか、モンスターの血には毒があることが多い。森の中で山菜を採るにせよ果物を取るにせよ、解体用のナイフとは別にもう一本持っておくべきだ」
ふむ、ちゃんと教えることができているじゃないか。
解体用のナイフはどれだけきれいに洗ってもモンスターの血が残っていることがある。
モンスターの血で汚染された薬草で薬を作ると、本来薬になるはずの物が毒物になることもあるからね。
そこのところもしっかり教えているな。
今日指導を受けに来た冒険者が採取ナイフを持ってきていないのは予想済みだったのか、ジルコットは予備の採取ナイフを取り出してそれを使わせ、実際に採取のコツを教えている。
薬草によって切り方も異なることはあるが、基本的に葉から少し離れたところを切り取るのがいい。
保存をしたいなら切り離したところをきれいな布で包めばいいしね。
こういった知識は冒険者同士で教え合わないとなかなか伝授されないのだろう。
ラズは村娘だったから薬草の取り扱いも知っていたようだが、街出身の冒険者にとっては薬草採取だって未知の領域だ。
誰かに教わらなければこういったことも知られていかないな。
そう考えるとジルコットの言っていた通り、冒険者ギルドからの依頼で後進の冒険者を育成するというのも仕事としてはありなのかもしれないな。
テイマーは個人差が分かれるのでなかなか難しいが、冒険者なら共通する知識も多いだろう。
まったく、よく考えられている。
大きな街でしかやっていないのかはわからないが、これも技術継承のひとつだな。
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