25. 新しい武器
オオタチネズミの討伐を終えた次の日はラズに知識を付けさせることに集中することにした。
向かった先は冒険者ギルドの資料室である。
ここならば冒険者であれば誰でも入れるし、ボクもテイマーギルドの身分証があるから入れてもらうことができた。
早速、最初にモンスターについて書かれている辞典を読ませようとしたのだが、ここであることが判明する。
ラズは文字の読み書きができないらしい。
そういえば、ここに来るまで宿の台帳への記入はすべてボクがやっていたし、地図を見るのもボクの仕事だった。
こんな出だしでつまずくとは。
仕方がない、文字の読み聞かせができるように簡単な本を使おう。
「なるほど、この文字はこう読むんですね」
「基本的にはな。単語によっては微妙に変わることがある」
「そうなんですか?」
「文字そのものに特別な意味合いがあることは少ない。単語として使われて初めて意味をなす」
「ふむふむ。単語というのはどれくらいあるんでしょう?」
「基本的には物の数より多い。物の名称を表す名詞のほかに、動きなどを表す動詞や状態などを表す形容詞などがあるからな。こつこつ覚えていくしかない」
言葉の勉強ほど地味で単純な物もないだろう。
それぞれの言葉の意味や内容を覚え、実際に使われている内容を読み解くしかないのだから。
お決まりである自分の名前の読み書きを覚えさせ、あとはひたすら本と向き合ってもらう。
ラズも文字を読み書きできることの重要性は理解してくれているようで頑張って付いてきてくれた。
一日でどうにかなるものではないが。
一日中勉強に時間を費やすのも息が詰まるだろうと考え、午後は装備選びのために街を歩くことにした。
まずはラズの装備だが果たしてどのようなものがあるかな?
冒険者ギルドで聞いた店に立ち寄り少し見学する。
ほほう、これはまた。
「……ふむ、鋼の剣にエンチャントを施したものか」
「おうよ。この店一番の売れ筋だぜ」
「さすがはヘメトらしいな。エンチャントは誰が?」
「さあな。エンチャントは魔法学府の先生方に任せてるんだ。誰がかけたものかはわからん」
なるほど、この国の魔法権威『魔法学府』による品か。
いまいちエンチャントの強度が一定じゃないのもそのためだな。
おそらく上位の学者のものではなく、下位の学者が研究生に命じてやらせているのだろう。
小遣い稼ぎにはちょうどいいというところかな。
「わかった。ほかの店も見てみてよさげな物がなかったらまた来るよ」
「はいよ。気を付けてな」
ボクはラズを引き連れほかの店へと向かう。
だが、どこに行っても魔法学府でエンチャントを施された装備を薦められるだけで代わり映えがしない。
武器としての性能は平凡で、エンチャントを使って底上げしているという感じだ。
魔法学府がどれだけ料金を取っているのかはわからないが、全体として割高になっている。
ラズの武器が青銅の剣のままでは不安が残るが、こんな半端なエンチャントがかかった品というのもな。
諦めかけて一件の鍛冶屋に入ったとき、いままでの武具屋とは違う輝きを見つけた。
置いてある品から魔法の気配がしない。
それでいてしっかりと鍛えられた武具から感じる気配は熟練の技を感じさせる。
これは当たりの店を引いたかもしれないな。
「おう、なんの用だ」
店の奥から筋骨たくましい男が出てくる。
背が低くひげがたくさん、ドワーフか?
「ああ、武器を探しているんだが、この店では魔法学府にエンチャントを頼んでいないのか?」
「ああ、あれか。あんな子供だましに金を払えるか。そういう武器がほしいなら他を当たれ」
なるほど、信念としてエンチャントのかかった武器は置いていないと。
ますます気に入った。
「いや、子供だましのエンチャントには興味がない。この店で選ばせてもらおう」
「そうか。まあ、決まったら呼んでくれ」
男はまた店の奥へと消えてしまった。
あれでいいのだろうか?
「アイオライトさん、この店で装備を買うんですか?」
「そうだな。ちょうどいいものがあればここで買うとしよう。店主も言っていたが、ほかの店の武器に施されているエンチャントは子供だましみたいな物だ。かかっていない方がまだまともさ」
「そうなんですか? よくわかりません」
「深いことは考えるな。それよりも武器探しだ」
「はい」
この店の中には様々な武器が置いてある。
定番の剣類のほかにも斧や槍、メイス、ハルバートなど多種多彩だ。
ラズのメイン武器はラズに選ばせるとしてボクはサブ武器の方を選んでおこう。
ラズは剣を選ぶだろうからサブ武器は打撃系のメイスやハンマー、あるいは刺突系のレイピアや槍か。
レイピアはまた癖のある武器だから除外するとして、ラズにはなにを持たせるべきか。
悩ましいな。
「ラズ、どれにするか決めたのか?」
「悩んでいます。どれもよさそうな装備ばかりで」
「よさそうではなく本当に良い装備ばかりだぞ。外れと言っていいようなものはない」
「そうなんですね。ちなみに、武器を選ぶときのコツはなんでしょう?」
「いま持っている武器とあまり変わらないサイズの物を選ぶことかな。サイズが変わるとリーチが変わる。いままでは当たっていた攻撃が急に当たらなくなるのはラズには難しいだろう。いまの剣と同じサイズの剣を選べ」
「わかりました、それにしても、剣と一言で言ってもいろいろとあるんですね」
「短剣、ショートソード、バスタードソード、ロングソード、両手剣。それぞれの用途に応じて長さも重さも違う。ラズなら長めのショートソードがいいだろう。刀身もそこまで短くないし重さもほどほど、まだ力の弱いラズでも振り回せる」
「はい。となると、これかな」
ラズは一本の剣を取り出していた。
いま持っている青銅の剣と比較しても長さはそれほど変わらない。
いまのラズならそれで十分だろう。
「決まったようだな」
「はい。それにしても、鋼って思ったよりも軽いんですね」
「青銅が重いとも言えるがな。店主よ、買う物が決まったぞ!」
「おう! いま行く!」
店の奥から再び店主が現れ、ラズの買う剣のバランスを取る。
ラズも2回目とあって少し余裕があるな。
一通り調べてもらい金を払ったら、剣はすぐに仕上げてくれるらしく少し待つことになった。
その間にラズにはサブの武器としてメイスを買い与える。
ただ殴ればいいという単純な武器だからラズでもすぐに慣れるだろう。
武器の調整が終わって戻ってきた店主にメイスの分の代金も払ったら今日の買い物はここまで。
明日も午前中はラズの勉強、午後は装備の更新だな。
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