24. ラズの戦闘
ジルコットから情報を聞いた翌日、とりあえずラズの冒険者資格を更新するためのクエストを受けることにした。
クエストを受けるといっても、難しいクエストを受けるのではなく常設のモンスター退治を行うだけだ。
今回のターゲットはオオタチネズミ、Fランクに分類されるモンスターである。
数匹で群れる習性があるため注意は必要だが、厄介な毒を持っているわけでもなく動きも単調なので倒しやすい。
ラズでもなんとかなるだろう。
時間的な制約がないならラズの武器だけでも更新したかったんだが、あまり余裕がないなら仕方がないのである。
「アイオライトさん、オオタチネズミってどんなモンスターなんです?」
「一言で言ってしまえば子供くらいのサイズのネズミだ。ただ、尾が長く、
「……それ、ゴブリンより危険なんじゃ」
「ゴブリンのように道具を使うことはないし罠も使わない。尻尾にだけ注意していればなんてことはない相手だ」
「うう、頑張ります」
「頑張れ。これくらいに対応できないようでは冒険者なんてやってられないぞ」
ボクたちは街をでて北西へと進み背の高い草が生えている草原へと足を踏み入れる。
足場がぬかるんでいることもなく、ただ腰ぐらいまで長さがある草がまばらに生えているだけの草原だ。
注意していれば不意打ちを受けることもないだろう。
スピネルから降りたラズは注意深く周囲を確認し草の中へと向かって行った。
最初は見ているだけにしようか。
ラズが恐る恐る草原を歩くこと10分、ようやく1匹目のオオタチネズミを発見した。
ただ、こちらが風上だな。
ラズは不意を突くつもりのようだが、あちらにはもう気付かれているだろう。
それでも逃げ出さないということは仲間が近くにいるのか?
「キュキィー!」
「えっ!? なに!?」
ラズが背の高い草のそばまで行ったところ、足元から灰色のかたまりが彼女に向かって飛びかかっていく。
言うまでもなくオオタチネズミの仲間だ。
ラズは完全に不意を突かれてしまったが、オオタチネズミの一撃はなんとか盾で防げた。
さて、ここからどうする?
「く、2対1……どうすれば」
「キュキィ!」
「キュキィー!」
今度は2匹同時にラズへと襲いかかって行く。
1匹は足元、もう1匹は首を狙った攻撃だ。
さて、ラズはどうでるかな?
「こんのぉ!」
ラズは足元に来ていたオオタチネズミを無視し、首元に飛びかかってきていたオオタチネズミを盾で弾き飛ばす。
その結果、飛びかかってきていた方のオオタチネズミは大きく弾き飛ばされて草むらの中に姿を隠し、足元に襲いかかってきていたオオタチネズミはラズの太ももにその尻尾を絡めて棘を突き刺した状態で止まった。
もちろん、防具で防ぐことなどできておらず、服に突き刺さり血が微かににじみ出てきている。
わりと考えなしにいったな。
「でぇぇい!」
「キュキ!?」
ラズが青銅の剣を振り下ろすとオオタチネズミの頭が潰れ、血が飛び散った。
1匹はこれで倒せたことになるな。
「もう1匹! どこ!?」
「はあ、焦るな。もう逃げ出している」
そう、もう1匹のオオタチネズミは草むらの中に落ちると同時に逃げの一手を打った。
その気配はボクでも感じ取れないほど遠くに行ってしまっている。
これでは追撃のしようもないな。
「まったく。初心者に最適だと考えオオタチネズミを選んで正解だった。もっと強いモンスターが相手だったらとっくに殺されているぞ」
「そうなんですか?」
「当然だ。自分の脚を見てみろ」
「脚? あ、オオタチネズミの尻尾が絡んで血がにじんでる」
「いまは興奮状態だから痛みも気にならないだろうが落ち着けばかなり痛みを伴うはずだぞ。まったく、後先を考えない」
「す、すみません」
「ひとまず尻尾を脚から外せ。そのあとズボンを脱げ。傷薬を塗ってやる」
「え、回復魔法は使ってくれないんですか?」
「魔法を使うにも魔力は有限だということを忘れるな。その程度の傷に回復魔法は普通使わん。いいからさっさとしろ。オオタチネズミ自体には毒がなくとも傷を放置すれば悪化することがある。ほら、早く」
「は、はい」
ラズは痛そうにしながらも自分の脚からオオタチネズミの尻尾を抜く。
返しが付いてないからこそすぐに外れるが、返しの付いている爪などだったら肉を引き裂かないとなかなか抜けない。
もう少し安全な狩り方も教えないといけないな。
ラズは痛みが強くなってきたのか、尻尾の攻撃を受けた脚を動かさないようにしてズボンを下ろした。
太ももには無数の傷口があってすぐにでも消毒しないと雑菌が入り込むことが考えられる。
本当に素人な娘だ。
「では傷の手当ての方法を教えるぞ。本来なら清潔な水で傷口を洗うのが先決だ。でも、いまは水がない。代わりに消毒薬を塗る」
「消毒薬ですか?」
「傷口を清潔にするための薬だ。本来なら肉に挟まっているだろう砂や埃を洗い流すべきなんだが、この場には水がないからな」
「わかりました」
「では塗るぞ。傷口にしみるから口を閉じて舌を噛まないようにしておけ」
「は、はい。ッー!?」
こうなるのが当然だろう。
ボクの消毒薬はよく効くが同時に傷口にしみるからな。
傷口の消毒を終えたら痛み止めの薬を塗って清潔な布で傷口を巻き治療完了だ。
本当に1匹目から負傷するとは、情けない。
「傷の治療は完了だ。ズボンをはけ」
「はい。ありがとうございます」
「傷口を放っておいて動けなくなられても困る。それよりも、先ほどの戦いで得た教訓はなんだ?」
「えーと、足元への攻撃を疎かにしない……でしょうか?」
「それ以前に数的不利な場合、1対1を作れるような状況を整えるんだ。先ほどなら足元への攻撃は剣に尻尾を巻き付かせるようにして防ぎ、首元への攻撃は盾で受け止めオオタチネズミ本体を弾き飛ばす。そうすれば足元のオオタチネズミだけを相手にできる時間を作れる。オオタチネズミの尻尾は木にすら締め付けが利かないからな、武器を取られる心配もない。そのようにして有利な環境を作り1匹ずつ処理していくんだ」
「でも、それだと2匹目には逃げられませんか?」
「逃げられたら逃げられたときだ。オオタチネズミを取り逃がしたとしても、群れで反撃してくることはないし倒す対象が減った分にはまた探せばいい。怪我をしないことを優先だ」
「そうなんですね。私、モンスターは倒せばいいものだとばかり」
「モンスターによっては逃がすわけにはいかないものもいる。だが、冒険者が手傷を負えば、最悪それが原因で死ぬこともあるし、死ななかったとしてもまともに動けなくなることだってある。仲間がいないなら怪我をしないことが優先だ」
「わかりました、気を付けます」
「本当に気を付けてくれ。それで、オオタチネズミの討伐証明部位はどこだ?」
「えっと……」
うん、なにも調べていないな。
今回は仕方がないが先に知識を付けさせる方が先決か?
「尻尾だ。それ以外の部位は買い取りもしてくれない。尻尾だけ切り離し魔石を取り出したら、残りは土を掘って埋めろ。モンスターをそのまま放置しておくと共食いなどで繁殖することがあるからな」
「わかりました。魔石は心臓の近くにある石でしたっけ?」
「そうだ。大抵のモンスターには魔石がある。基本的には紫色をした石だ」
「はい。……どうやって解体すればいいんでしょう?」
「……解体用のナイフも持っていないのか」
本当に先が思いやられる。
今日はオオタチネズミを規定数の10匹倒させるだけにして明日以降は装備の更新に充てよう。
あと、冒険者ギルドの資料室で資料を読ませていろいろ教えることも必要だな。
やることは多そうだ。
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