22. ヘメトに到着

 ブラジを出たあとは少々急いだこともあり3週間でヘメトまで到着した。

 ラズの股とお尻は毎日犠牲になっていたが仕方がないだろう。

 街でゆっくりできるようになったら、しっかりと乗馬の基本も教えなくては。

 ともかく、街の中に入って冒険者ギルドとテイマーギルドに顔を出さないと。


 ヘメトの街はこの国で一番魔法技術が発展している都市だ。

 その技術は魔術書の類いから最新の魔道具まで多岐にわたる。

 この街に来たのもラズが魔法を使えるようにならないか確認するため。

 うまくことが運べばいいのだが。


「いらっしゃいませ。冒険者ギルドへようこそ」


 ボクたちが冒険者ギルドに入ると、受付係の女性が声をかけてきた。

 この街の冒険者ギルドは若い女性が受付を担当しているのか。

 治安がそれなりにいい証拠だな。


「サバトンから来たのだが、冒険者ギルドから依頼されて荷物を届けにきた。受け取りを頼む」


「サバトンからですか? 荷物はなんでしょう?」


「一受付は知らない方がいいものだ。禁制の品ではないが、ギルドの上位層だけ知って置いた方がいいものだろう」


「なるほど、危険なものなんですね。わかりました、荷物と冒険者証をお願いします」


「荷物はあるが冒険者証はないんだ。ボクはテイマーであって冒険者じゃないからね」


 受付嬢は怪訝そうな顔をしてボクの顔をうかがってきたが、実際冒険者じゃないのだから仕方がない。

 そのため、代わりにテイマーの証である腕輪を見せる。

 それを見た受付嬢はひとつ頷き、姿勢を正してから改めて話しかけてきた。


「失礼いたしました。上位のテイマーでしたか」


「おや、そこまでわかるのかい?」


「ランクまではわかりませんが、貴金属の腕輪を付けているということは相当上位のランクでしょう。申し訳ありませんでした」


「構わないよ。ボクはこの見た目だから侮られることも多い。それで、荷物は出してもいいかな?」


「はい。よろしくお願いいたします」


 ボクはマジックバッグから笛を入れた箱と冒険者ギルドで預かってきた手紙を取り出す。

 受付嬢はそれを受け取って手紙の内容を確認すると、「少しお待ちください」と言い残しカウンターの奥へと小走りで去っていった。

 おそらくはギルドの上長に手紙を見せに行ったのだろう。

 仕方がない、ここで待たせてもらうか。


 ややあって、受付の奥からひとりの男性がやってきた。

 厳つい顔をした強面の人間族の男性だ。


「君か、あの荷物を運んできたのは?」


「そうだ。アイオライトという。こっちは同行者のラズ、一応冒険者でFランクだ」


「そうか。あの手紙によると、サバトンを出てからまだ1カ月ほどしかかかっていないようだが、どうやって来た?」


「ボクはスレイプニルに乗って移動している。同行者用に途中でアタックホースとも契約して移動してきた。サバトンから歩きだと3カ月ほどだが、馬なら1カ月と少しで着けてもおかしくないだろう?」


「……なるほど、おかしなところはない。疑ってすまなかった。手紙に強力な魔法の品と書いてあったので身構えてしまったようだ」


「構わないさ。それくらい用心深い方がいい」


「そう言ってもらえると助かる。それで、報酬はテイマーギルド経由で構わないのか?」


「そうしてくれ。テイマーギルド経由で受けた依頼の報酬を勝手に受け取ると面倒なことになりかねん」


 奥から出てきた男は「明日の午前中には受け取れるようにしておく」と言い残し、再び受付の奥へと消えていった。

 冒険者ギルドでの用事は完了かな。

 そう思っていたら、今度はラズが受付でなにかを話している。

 あっちはあっちでなにかあったのだろうか?


「あなたの冒険者証ですが、有効期限が間もなく切れます。その前になにかクエストの達成をお願いいたします」


「えっ!? 冒険者証に有効期限なんてあったんですか!?」


「そこについても冒険者になるとき説明をされているはずですが?」


「いやぁ、そのぉ。冒険者になれたことに浮かれてあまり話を聞いていなくて……」


「そういう方もたまにいますが、期限ぎりぎりまでクエストを受けていないというのも呆れたものです」


「えっと、サバトンから急ぎで移動してきたものでつい」


「はぁ。まあいいでしょう。冒険者ギルドの資格は……」


 あちらはあちらで冒険者ギルドの資格について説明が始まっているな。

 ボクもテイマーになりたてのころは戸惑ったものだ。

 あの頃は手札も少なく、荷運びくらいしかできなかったからな。

 いまのラズも大差ない状況だろう。

 さて、ラズのためにも早めになにかクエストを受けさせないといけないがなにがいいかな?


 ボクは冒険者ギルドのクエストボードの前に移動して依頼内容を見る。

 冒険者ギルドのクエストはあまり見たことがないが、このようになっているのか。

 簡単なものでは草むしりから側溝の清掃、建築作業の手伝い。

 定番でいえばモンスター討伐がずらっと並んでいる。

 お、納品依頼なんてものもあるな。

 薬草の納品とあるがこれはどんな薬草を納品すればいいんだ?

 傷の治癒力を高めるアードックに炎症を抑えるミルニード、腐敗防止のワムッド、解毒作用のあるデボイドなど薬草といってもさまざまだ。

 この依頼ではどれを納品すればいいんだ?


「おっ、なんだ少女よ。依頼のことが気になるのか?」


 ボクの後ろから声をかけてきたのは、チェーンアーマーとプレートメイルで身を固めた青年だった。

 耳の形が細長く突き出していながら先端は丸くなっているのでハーフエルフ族だろう。

 結構な重装備だが重たそうにしている様子もない。

 かなり鍛えられた戦士だな。


「依頼のことというか『薬草納品』の『薬草』とはなにを指すのかと考えてな。薬草といってもいろいろ種類があるだろう? どれを納品すれば依頼達成になるんだ?」


「へえ、子供だと思っていたが博識なんだな。結論から言うと、どの薬草であっても問題なく受け取ってくれる。薬草に似たただの草や毒草などは検品ではじかれるけどな」


 おや、意外だな。

 どの草でもいいのか。

 薬草以外がはじかれるのは当然としてなんでもいいとは太っ腹な。


「……お前、そんな簡単なことでいいのか、って考えてるだろ?」


「ああ。薬草を集めて簡単な薬を作っておくのは旅人にとって最低限の備えだ。どの薬草でもいいというのは意外すぎる」


「そう簡単に言ってはくれるが、駆け出し冒険者にとって薬草とそうでない草とを見分けるのは結構大変なんだ。図鑑を見ても色や特徴しか載っていない。あとは慣れるまで自分の目で見て数多く採取し、冒険者ギルドでだめだしされてようやくわかるもんなんだよ」


 なるほど、合点がいった。

 ボクは幼い頃から薬草についての知識を教えられていたから当たり前のように見分けるが、そうでないものにとっては難しいのか。

 自分を基準に考えすぎていたな。

 うん、反省だ。


「ところでお嬢ちゃん。ずいぶんと若いが冒険者志望か? まともな職業に就けるならやめておいた方がいいぞ。数年たてばほとんどのやつが死んでいる世界だ、無理に足を踏み入れる必要もない」


「ああ、勘違いさせたな。ボクはテイマーだ。連れが冒険者で、いま冒険者証の更新期限が近いとかで説教を受けていてな。その間にどんなクエストがあるのか調べていたところだ」


「ふうん、テイマーね。嬢ちゃん、名前は? ああ、先に自分が名乗らないと失礼か。俺はジルコットという。Cランク冒険者だ」


「ボクはアイオライト。テイマーのアイオライトだ」


「……テイマーのアイオライト? 本物か?」


「君の言う『本物』が誰かは知らないが、ボクはアイオライトだよ」


 ジルコットと名乗った冒険者はボクのことを見定めるように眺め、やがて結論を出したようだ。


「まあ、どっちでもいいか。よろしく、アイオライト」


 ジルコットが指しだしてきた手をつかみ軽く握手する。

 ふむ、悪い男ではなさそうだ。


「よろしく、ジルコット。そうだ、この街周辺で初心者でも狩れるモンスターの生息域を知らないか? ゴブリンに負けるような冒険者でも安心して狩れるようなモンスターがいいな」


「ふむ、それなら心当たりがある。だが、ただでは教えてやれないな」


 ジルコットは口元でなにかを傾けるようなジェスチャーをする。

 やれやれ、まだ真っ昼間だというのに。

 この男も冒険者だな。


「わかった。ボクは酒を嗜まないので果実水などになるが構わないか?」


「話がわかるね。構わないぜ、それじゃお前さんの連れを拾って酒場に行こうか」


 ラズの方を見やれば、お説教と説明はいま終わったようだ。

 ラズにも旅の間は携帯食と山菜ばかりの食事をさせていたし、息抜きとしてちょうどいいだろう。

 さて、この男からどれくらいの情報が引き出せるかな?

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