20. 真夜中の粛正

「あの店……です……あそこが……俺たち……『黒ヤモリの爪』のアジトです……」


「あの店がね。見た目は裏通りにある、いかがわしい雰囲気の酒場にしか見えないが」


『そのようなものなのだろう。どうする?』


「いつも通りに。アレクは逃げ出した者の担当、ランプとロインは僕に続け」


「メェー」


 ランプたち3頭のうちオファールはスピネルの護衛としておいてきた。

 残るランプとロインはボクと一緒に『黒ヤモリの爪』とやらのアジトを襲撃だ。

 逃げ出した者がいればアレクに任せよう。


 ボクは透明化の魔法をかけ、案内役の盗賊と一緒にアジトとなっている酒場へと足を踏み入れる。

 その中では露出の多い服の女性と柄の悪い男たちが酒を酌み交わしていた。

 なんともお似合いの場所だ。


「なんだ、マドラブ。もう仕事が終わったのか?」


 カウンターの奥からやってきた男がボクを案内してきた男に声をかける。

 それに対してマドラブと呼ばれた男は反応を返さない。

 しまった、アレクの精神支配が強くかかりすぎているか。


「……おい、テメエら。マドラブを始末しろ」


「へい」


 酒を飲んでいた男たちが隠し持っていた武器を取りだし近づいてくる。

 このマドラブとかいう男を守る義理はないが、案内役がいなくなるのは惜しい。

 守ってやるとするか。


 ボクは透明状態のまま棒を振り回し、近くにいた男たちをなぎ払う。

 それにより透明化の魔法は解けたが、ボクの登場に動揺した男どもの隙を逃すほどボクは甘くない。

 近くにあった食器を投げつけひとり片付けると、一気に奥まで駆け寄って更に4人を撃破、そしてそのままカウンターの中へと飛び込み奥から出てきた男に棒を突きつける。

 それでこの店にいたすべての者たちの動きが止まった。

 この男、相当立場が上のようだ。


「悪いね。ボクの勝ちみたい」


「貴様、何者だ?」


「君たちが今夜狙っていたアタックホースの主だよ。名前はアイオライト。テイマーのアイオライトだ」


「……待て、テイマーのアイオライトだと? 濃紺髪の猫獣人、片眼金色のオッドアイ、それに宝石の棒を持つ。本物のアイオライトだというのか? あの、『菫青石きんせいせきのアイオライト』と?」


「ふむ、その名は知っているか。どうする? 君たちのボスの下まで案内してくれるなら命は取らないが」


 ボクの提案に男はわずかに眉を寄せて目をつぶり、数秒間考えてから口を開く。


「……お前たち、武器を下ろせ」


「しかし!」


「もう俺たちは終わりなんだよ! 菫青石のアイオライトに手を出した時点でな!」


 ずいぶんと悲観的になっているじゃないか。

 ボクは話がわかる奴となら交渉にも応じるのにね。


「それで、アイオライト。俺になにを望む?」


「とりあえず、君たちのボスの元に案内してもらおう。それから、ボクのアタックホースを盗むように指示した馬鹿貴族の屋敷にも」


「……組織のボスは俺だ、信じてくれ。アタックホースに手を出すよう指示してきた貴族はわからん。俺たちも上の指示を受けて動いた末端でしかないからな」


「そうか。では、君たちに指示を出してきた組織の元に案内を願おう。残りはそこで聞く」


「わかった。子分ども、お前らはさっさと荷物をまとめてブラジを逃げ出せ。明日の日の出までがタイムリミットだ。それまでなら逃げ出す隙がある」


「ボス、しかし……」


「さっきも言ったが、菫青石のアイオライトに手を出した時点で終わりなんだよ。この街の裏社会も様変わりするだろう。その抗争の中で死にたくなければほかの街に移れ!」


「へ、へい!」


 店の中にいた者たちは全員武器を捨てたまま逃げ出していった。

 なかなかいい判断だ。

 武器を持ったままだったら外にいるアレクが逃がしはしないだろう。


「……すまないが、マドラブのやつも解放してやってくれないか?」


「ああ、いいだろう。アレク、精神支配を解け」


『承知した』


 店の出入り口から姿を現したアレクがマドラブという男に近づき、軽く頭を額で小突く。

 すると、マドラブの目に光が宿り、精神支配から解放されたようだ


「俺は……ボス!?」


「ああ、俺たちはしくじった。マドラブ、お前も日が昇る前に街から逃げろ。命が惜しかったらな」


「……すみません、ボス」


「気にするな。触れちゃいけないものに手を出した時点で、この街の裏社会は終わったようなもんだからよ」


 マドラブも外へと飛び出していき、アジトの中にはボクとアレク、それからボスと呼ばれていた男だけが残った。

 さて、残りの始末を付けてこようか。


「……そういえば、ずいぶんと部下に優しいんだな、お前」


「俺も下っ端のころはボスにかわいがられたからな。で、上の組織に案内すればよかったんだったか?」


「ああ、それで構わない。嘘をつこうとするんじゃないぞ?」


「菫青石相手に小手先の嘘が通じるとなんて思わねえよ。できれば、俺が逃げるだけの時間も稼いでくれるとありがたいんだが?」


「善処しよう。それでは次へ向かおうか」


 このようにしてこの夜は次々と街の裏ギルドを潰していった。

 最終的には両手の指で足りない程度には潰したかな。

 ボクたちを襲うように指示を出した貴族にも警告はしたし、これで万事解決だろう。

 明日は寝不足との戦いかな。

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