18. ブラジの街
スピネルが仲間になってから11日後、ブラジの街へ到着した。
ボクが予想していたよりも10日は早い。
早く着く分にはいいことなんだが、携帯食料の消費が怪しいんだよな。
マジックバッグに入れておけば腐る物でもないし、保存にだけ注意しておけばいいのだけど。
さて、ブラジの街だが、この国の南部地方から首都アムズに抜けるためには基本的に通ることになる街だ。
ブラジを経由せずにアムズに行こうとすると、東部地方か西部地方を迂回せねばならず非常に遠回りになる。
逆に南部地方に行くときの玄関口でもあるため様々な物が集まる交易拠点でもある。
……というのが表の顔。
裏の顔は貧富の差が激しく、悪徳商人やスリなどがごろごろしている街でもある。
この街で一旗揚げるならほかの街に行った方がいいといわれるほど治安が悪い。
ボクもあまり長居したい街じゃない。
用件だけ済ませたらさっさとヘメトへ向かうとしよう。
「アイオライトさん、今日はどうするんですか?」
「テイマーギルドでスピネルを登録する。そのあとは一泊の宿を取って保存食を補充し、明日の朝にはブラジを出発だ」
「この街ではゆっくりしていかないんですね」
「この街はあまり長くいる場所じゃない。ああ、スピネルから降りるならスリには気を付けろ。この街ではスリなんてどこにでもいるようなものだ」
「……そんなに治安の悪い街なんですか」
「だから長居をしたくない。特に、ラズのような田舎娘を連れているときはな」
ラズもなにか言いたそうだったが、実際田舎から飛び出してきた小娘なので反論はできなかったようだ。
街の目抜き通りを進みテイマーギルドの看板を見つけたため、そこでアレクから降りギルドの中に入る。
テイマーギルドの中もなんというかあまりよろしくない雰囲気だ。
ギルドでさえ悪影響を受けるのか、世も末だな。
「いらっしゃいませ。当ギルドへどのようなご用事でしょう?」
「テイムモンスターが1頭増えたので登録をお願いしたい。雌のアタックホースだ」
ボクがモンスターの種類を告げた途端、ギルドの中が静まりかえる。
バトルホース種の登録は珍しくもないはずだが、なにがあった?
「お客様、そのテイムモンスターを当ギルドへお売りいただくことはできませんでしょうか?」
「なぜだ?」
「とある貴族がバトルホースの繁殖を行うべくバトルホース種の牝馬を探しておられるのです。どうです、悪いようにはしませんよ?」
呆れた。
ギルド職員が貴族のご機嫌伺いか。
本当にこの街は居心地がよくない。
「断る。その貴族にもバトルホース種の繁殖を行いたいなら自力で集めろと伝えるといい」
「お客様、後悔しますよ?」
「後悔させられるものならさせてみろ。お前たちが後悔することになるぞ」
「調子に乗って、このガキが!」
「ふん。この街ではテイムモンスターの新規登録は受け付けていないようだ。行くぞ、ラズ」
「は、はい。アイオライトさん」
ボクはまだなにかを言おうとしているギルド職員を放っておき外に出る。
そして、ボクの従魔を連れてさっさとその場を離れた。
まったく、ギルド職員ともあろう者がなにを考えているのか。
「いいんですか、アイオライトさん。あんなことを言って?」
「構わないよ。どうせあちらからなにかをすることはできない。テイマーはテイムモンスターの登録を義務付けられているが、どこの街で行っても構わないことになっている。さっさとヘメトの街へ向かいそこで登録するとしよう」
「わかりました。今日の宿はどうしましょう」
「今日一晩だけは泊まっていこう。いまから街を出てもそんなに進めないし、それならゆっくり休んだ方がいいだろう」
「はい」
ラズも納得してくれたようだし宿を決めるとしようか。
この街で安い宿は泥棒に入ってくれと言っているようなものだから高級宿を探さないといけない。
そこもまた面倒なところだな。
ボクはこの街一番の高級宿が建ち並ぶ宿屋街へと足を踏み入れた。
さすがは高級宿の並ぶ通りだけあって掃除も行き届いている。
ボクの探すような宿はあるかな?
「アイオライトさん、こんな豪華な宿に泊まるんですか?」
「この街では金で買える安全は金で買った方がいいんだよ。……あそこの宿がテイマー向けの部屋も用意しているようだ。少し寄っていこう」
「あ、はい」
ボクが見つけた宿はまだ空きがあったので宿泊の手続きを済ませる。
ラズの冒険者ランクが低いことを不審がられたが、ボクの腕輪を見せることで了解してもらった。
あまり身分をひけらかすような真似はしたくないけど、こんなときは便利だ。
ラズと同室で一泊泊まることにしてボクは部屋を確認したあと、ラズを連れ再び街に繰り出し旅の食糧などを補充した。
やっぱりこの街の物価は高いな。
どんな品物も同質でサバトンの街の倍はする。
金に執着はないが出費を少なくするのは旅の基本、やはりこの街はあまり寄りたくないな。
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