17. 新たな仲間との旅路

 アタックホースが仲間になったあとは順調に移動距離を稼げた。

 そう、移動距離を稼げただけなのだ。

 移動がスムーズになったからと言ってすべてがうまく行くわけでもない。


 例えば道中の宿場町での扱い。

 テイマーは専用の宿がないとなかなか宿に泊まることができない。

 結果として野宿をすることが増え、ゆっくり休むことはできなくなってしまう。


 それから、一緒にいるテイムモンスターの食事も問題だ。

 テイムモンスターの食事は種族によって様々な物を用意しなくてはならない。

 幸い、いまのボクのテイムモンスターたちは全員草食なので、草原地帯を進む分には食糧に困ることはないだろう。

 しかし、荒野や砂漠などを進む場合は注意が必要になる。

 それがテイマーの宿命だ。


 あと、現在発生している問題はもうひとつある。

 ラズが乗馬慣れしていないのだ。

 要するに、毎日馬に揺られて移動するのがきついのである。

 ちょっとそこまでは予想していなかった。

 まあ、駆け出し冒険者が乗馬訓練を受けている可能性があるかと言えば、そんなことはないのだろうが。


「アイオライトさん、もう少し進むペースを遅くしませんか?」


「だめだ。それにいまは走ってもいないんだぞ。激しく動くようになる前に正しい姿勢を身に着けないでどうする」


「そうは言われても、難しいです」


「本当に情けないな。何度も言っているが姿勢は垂直に保て。腰から頭までまっすぐだ」


「頑張ってはいるんですが……」


「それができないと、股間や尻の痛みと毎晩戦うことになるぞ?」


「それは嫌です! 努力します!」


「そうしてくれ。これでも、馬に乗らずに歩くよりははるかに速いんだ。早く慣れろ」


「はい、頑張ります」


 なんとも不安なものだ。

 しかし、乗馬の姿勢は自分でなんとかしてもらうよりほかない。

 歩くだけでもまともに乗りこなせないようでは、戦闘時の動きになど付いていけないのだからな。


 それにしても、この国はあまりテイマーに寛容ではないようだ。

 どの宿場町に行っても入るのを断られてしまう。

 物資の補充をするために入りたいと言っても断られるのだから排他的にも程がある。

 まったく、これほどひどい扱いをする国は最近だと珍しいぞ。


「あ、アイオライトさん、街が見えてきました」


「本当だな。今度こそ街には入れるといいが」


「どうしてそこまでテイマーを嫌うんでしょうね?」


「テイマーが連れているのがモンスターだからだろう。テイマーに従っているとはいえ、モンスターはモンスターだ。暴れ出せば押さえつけられん。それを恐れているのだろうさ」


「なるほど。でも、そんなことをするテイマーっているんですか?」


「さあ? そんなことをすればテイマーギルドから追放になるし追手もかかる。自分の身の安全を考えれば短絡的なことは行わないだろうよ」


「うーん、そう考えるとなおさらテイマーを嫌う理由がわからないような」


「それはそうだがボクたちが頭を悩ませたところでなんとかなる問題でもない。街に入れてもらえることを祈ろう」


「はい。私もたまには宿で寝たいです」


 ボクだって旅慣れているとはいえ、たまには街で休みたいものだ。

 遠くに見えていた街は10分ほどで入り口が見えるところにやってきた。

 だが、入り口でなにかもめごとが起こっているらしい。

 荷馬車の馭者と門衛が言い争っている。

 わざわざ厄介ごとが待っている場所に近づく必要もない。

 騒ぎが収まるまでここで事態を見守っていよう。


「一体なんの騒ぎでしょう?」


「わからないよ。どちらにせよ、あまり首を突っ込むことはいいこととは言えないな」


「アイオライトさんなら簡単に解決できるんじゃ?」


「暴力で解決した物ごとはまた繰り返されるものだ。力尽くの解決は最終手段と覚えておけ」


「わかりました。でも、なんなんでしょうね?」


 しばらくすると、馭者が諦めたのか街から離れてこちらへとやってきた。

 そして、ボクの連れている従魔たちを見て声をかけてくる。

 一体何用だろう?


「あんた、テイマーか?」


「そうだが、どうかしたのか?」


「なら、あの街に立ち寄ろうとするのはやめた方がいい。いま、あの街は西部貴族の関係者が泊まっているとかで門を通してもらえないぞ」


「西部貴族の関係者がいると門を通してもらえないのか?」


「あんた、この国の出身じゃないのか。この国の西部貴族はモンスターテイマーの排斥派だ。テイマーギルドも西部方面には支部を置いていない。ともかく、触らぬ神に祟りなしだ」


「忠告をありがとう。あなたもモンスターテイマーか?」


「正確には違うが似たようなもんかな。故郷でモンスターシープを飼っていてその羊毛を売り歩いているんだ。まったく、モンスター素材ですら受け入れないとは」


 ふむ、頭の固い貴族があの街にはいるようだ。

 それなら近づかない方が身のためだろう。


 荷馬車の主に別れを告げて、ボクたちは宿場町の前を通り過ぎる。

 確かに、門衛たちはこちらのことをじっとにらんできているな。

 これでは街に入れても居心地はよくないだろう。

 宿で寝るのはまたお預けだな。

 食糧などはまだまだあるし、このままブラジを目指すのも悪くはないかもしれない。

 宿場町には泊まれたら泊まる、程度の気持ちでいこう。

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