16. アタックホースとの交渉
アタックホースたちの前に向けて一歩足を踏み出す。
すると、アタックホースの群れは少し後ろに下がろうとしてしまう。
ランプたちが少し驚かせすぎてしまったな。
とりあえず、落ち着いてもらうことにしよう。
「驚かせて済まない。ボクはアイオライト。今日は君たちの中からボクの仲間になってくれる者を探しにやってきた」
ボクはアタックホースに語りかけるが反応は芳しくない。
バトルホースは勇敢でたくましいが、アタックホースはそうではないのかもしれないな。
無理矢理集めたのはよくなかったかもしれない。
ボクが声をかけて少し時間が経ち、アタックホースの群れの中から1頭歩出てくる者が現れた。
美しいたてがみを持つ、まだ成熟しきっていない馬だ。
前に出てきたアタックホースはボクのことをじっと見つめ、やがていきなり走り出しボクに突進してきた。
なるほど、そう来るか。
ボクは慌てずに
アタックホースも一度ぶつかっただけでは諦めず、前脚で踏みつけたり後ろ脚で蹴飛ばしたりいろいろな方法でボクの防壁を壊せないか試していた。
やがて、ボクの防壁が壊せないことを確認すると、落ち着き改めてボクのことを見つめてくる。
ああ、そうか、念話が使えないのか。
バトルホースだと念話が使えるからすっかり失念していた。
ボクはマジックバッグから一枚の葉を取り出して再度語りかける。
「これは食べると一時的に念話が使えるようになる草だ。少々苦いが我慢して食べてほしい」
ボクの言葉は通じるらしく、アタックホースはゆっくりと近づいてきて草を食べた。
一瞬、目を閉じたが仕方がないだろう。
ボクが試食したときも本当に苦かったのだから。
『……美味しくないわ』
「仕方がない。そういう品だ。ところで、君はボクのことを認めてくれたのかな?」
『気に入ったわね。あなたと一緒にいればもっと強くなれそう』
「強くなることは保証しよう。少々大変な道程になるがね」
『強くなるためには相応の訓練が必要でしょう? 私も速く走れるようになるために相当走り込んだわ。それと同じなら理解できるし乗り越える自信もある』
「なら話は早いな。ボクと一緒に来てくれれば空いた時間に君を鍛えてあげよう。その代わり、普段はボクの同行者の足となってくれ。それでどうかな?」
『美味しい食事も約束してくれるなら一緒に行ってあげてもいいわ』
なるほど、美味しい食事ときたか。
モンスターといえど食事は必須、それが美味しいならなお嬉しいということだな。
それくらいのことであれば同意できる。
「お安いご用だ。旅の間までは保証しかねるが、拠点で休んでいるときは美味しい食事を用意しよう。どうだ、ボクの仲間になってくれるか?」
『いいわ。仲間になってあげる。よろしくね、アイオライト』
「よろしく頼む。……ところで君は雌か?」
『そうよ?』
「なるほど、それならば名は……スピネルでどうだろう?」
『変わった名前ね。由来は?』
「宝石の名だ。様々な色で産出される宝石で、君のような赤い色の石もある」
『ふうん、気に入ったわ。私は『スピネル』、よろしく』
「ああ、よろしく頼む」
ボクとスピネルとの間で交渉が成立したことにより、スピネルの額に宝石のような輝きを持つ石が生まれる。
これがボクの従魔であることを表す従魔紋だ。
人によって種類は様々だが僕の場合は青い石である。
ランプたちは体毛に覆われて普段見えないがアレクの額には同じ物が付いているのがわかる。
ともかく、これでスピネルが仲間になった。
目的は果たしたことになるが、この集まったほかのアタックホースの群れはどうするべきか。
『ちょっと群れのみんなにお別れを言ってくるわ。少し待っていて』
「ああ、よろしく頼む。ついでに騒がせてしまったお詫びも言っておいてもらえると助かる」
『ええ。では、後ほど』
スピネルがアタックホースの群れへ近づきいななき始めた。
すると、ほかのアタックホースたちもいななき始め、周囲にはアタックホースたちのかん高い鳴き声が響き渡る。
その声はしばらくの間続き、鳴き終わるとアタックホースたちはゆっくりと去っていった。
あれが別れのあいさつだったらしい。
種族が変わればあいさつの仕方も変わるものだ。
『お待たせ。それで、もう出発するの?』
「そのつもりだ。問題ないかい?」
『馬が身支度をする必要はないわ。雨もやんできたことだし早く出発しましょう』
スピネルに言われて空を見上げると、目覚めたときから降っていた小雨はいつの間にかその勢いを弱めていた。
これなら出発するのに持って来いだろう。
スピネル用の馬具はまだないが、これもある程度大きな街に着いたら発注するとする。
それでは出発だな。
アタックホースを無事従えることができて本当によかったよ。
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