14. サバトンの街を出発
旅の必需品を買いそろえた翌日、宿を出発しようとするとテイマーギルドから連絡が入っていると伝言を受ける。
なんでも依頼したいことがあるらしい。
ボクがラズというお荷物を抱えていることをテイマーギルドは知っているだろうし、そんな難しい依頼はしてこないだろう。
とりあえずラズを引き連れてテイマーギルドへと向かった。
そして、受付でどんな依頼かを聞くと、冒険者ギルドからの依頼で『ゴブリンのリーダーが持っていた笛を魔術都市ヘメトまで持っていってもらいたい』というものだ。
ふむ、この依頼をボクが受ける理由はなんだろうか?
「なんでも冒険者ギルドで依頼をしようとしたところ、ヘメトへ向かう冒険者が見つからなかったそうです。それで、こちらに依頼が回って来て」
「ボクがヘメトに向かう理由もないんだけどね。……待てよ、ヘメトに行けば魔術書も買えるか」
ボクには無用の長物だがラズが使えるかもしれない。
魔法適性が高ければ魔術師系の育て方もありだ。
特に急ぐ旅でもないし、ヘメトに立ち寄るとしよう。
「わかった。期限はあるのかな?」
「4カ月以内となっています。歩いてでも十分たどり着ける距離かと」
サバトンの街からヘメトだとブラジを経由して歩きで3カ月ほどの旅か。
ブラジに行くには北の街道を通る必要があるし都合がいい。
よし、引き受けよう。
「引き受けることにするよ。物は冒険者ギルドまで取りに行けばいいのかな?」
「はい。よろしくお願いいたします」
街を出る前に冒険者ギルドに立ち寄りゴブリンのリーダーが持っていた笛を預かった。
今回は冒険者ギルドで絡んでくるやつもいない。
つい先日大騒ぎがあったばかりだし、そこまで頭の悪い連中ばかりではないということだろう。
ともかく、騒ぎがないことはいいことだ。
このまま街の北門から街道へと出る。
ここしばらく天気のいい日が続いているらしく、街道も歩きやすい。
これならなんとかなるだろう。
……最初はそう思っていたが、思わぬところで足を引っ張られた。
ラズの体力が予想以上にないのだ。
どうにもこの娘、街まで出てくるときは馬車持ちの行商人と一緒に来たらしく長く歩くことには慣れていないらしい。
足運びもなんというか頼りないし、どうしたものか。
「はぁはぁ……」
「ラズ、そのペースだと今日の野営予定地まで日が暮れる前にたどり着かないぞ」
「そんなことを言われても」
「そもそも、冒険者として君は体力がなさ過ぎる。冒険者がひとつの街だけに留まっていられるのはEランクくらいまでで、Dランクになれば商人の護衛などで都市の間を移動する機会も増える。その時、疲れたから動けませんは通用しないぞ」
「そうですが……」
「ともかく、周囲の警戒はボクやアレク、ランプたちに任せて君は速く歩くことに集中しろ。遅れるなよ」
「はい」
今日の野営地を目指しひたすら歩かせる。
荷物もアレクに持たせたしだいぶ変わるだろう。
どちらにせよ、走るだけではなく長時間歩くための持久力を付けるための訓練は必須なようだ。
落ち着いたらそれも訓練に加えよう。
少し遅くなったが今晩の野営地に着いた。
ボクの使う野営地は普通の旅人が使う野営地ではない。
すべてのことを自分たちだけで完結しているボクが旅人の共同野営地に泊まる必要性はないのだ。
それに見た目子供の女ひとり旅なんて目を付けられやすいからね。
自己防衛のためにも人が寄りつかない場所の方が都合はいい。
今日の野営地は街道から30分ほど離れた場所にある川の畔だ。
街道までの間に林があるから火を使っても街道から気付かれる恐れはない。
ボクはこういった野営地をいくつも知っている。
まあ、年の功というやつだ。
疲れ果てているラズを休ませ、ボクは林の中から小枝などたき火の薪になる物を探してくる。
ほどよく枯れ枝も落ちていて本当に都合がいい。
今回は当たりの場所を使ったな。
野営地に戻って火をおこし、水を出す
鍋の具材は干したキノコに干し肉、干した海藻でいいだろう。
キノコは自分で集めたから毒キノコが混じっている心配はないし、海藻は水で戻すとそれなりに増えて食べ甲斐がある。
この辺りは海がないから海藻は手に入らないけど、前に海辺の街に寄ったとき大量に仕入れておいたから問題はない。
ふむ、ヘメトに行くとなると内陸方面に行くことになるな。
海藻も干してあるからすぐに悪くなることはないが、気を付けよう。
「……いい匂いがします」
「ああ、起きたのか、ラズ。鍋が煮えるまでもう少しかかる。もっと休んでいてもいいぞ」
「いえ。それよりもキノコを煮込んでいるんですか? 毒とかは大丈夫ですか?」
「ボクが自分で毒のないキノコを集めて干した物だから心配はいらない。旅の間はよく食べている」
「それならいいんですが。やっぱりキノコって危険でしょうか?」
「知識がないなら危険だな。うかつに手を出さないことを勧めるよ」
「わかりました。黒くてもじゃもじゃしたのは?」
「海藻という海の草だ。ほどよく塩分が出て食べるとうまい」
「手慣れてますね」
「長年旅暮らしだからな。野営には慣れている」
そのまま鍋がこびりつかないよう時々木の匙でかき回し、鍋が煮えたら旅用に作られた堅パンと一緒に食べる。
うん、いつもの味だ。
「……旅の間の食事ってこんな感じですか?」
「そうなるな。というか、ラズも行商人と一緒に行動していた間は同じような食事じゃなかったのか?」
「いや、私はサバトンの街まで一日かからない距離の村出身なので……」
なるほど、それは旅慣れしていないわけだ。
この先が思いやられるな。
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