13. 出発準備

 いよいよサバトンの街を出発する前日、ラズのトレーニングは午前中で切り上げ宿へと戻ってきた。


「あれ? 今日は半日だけですか?」


「明日にはサバトンの街を出発する。ボクはアレクの背に乗っていくからそれほど疲れないがラズは歩きだ。疲れが残っていても困る」


「なるほど。って、私は歩きなんですね」


「アレクが君を乗せたがらないだろう。ボクもそんな些細なことでアレクの気持ちを逆なでしたくない。大人しく歩いてくれ、途中までは」


「途中まで?」


「途中からは歩きではなくなるかもしれないということだ。正直、歩く速度で旅をしていられないからね」


「歩かないって、馬でも買うんですか?」


「買いはしない。仲間になってもらうんだ」


「え?」


「まあ、あまり気にするな。ラズはボクのマッサージを受けてゆっくり休んでいればいい。午後からボクはテイマーギルドに行ってくる」


「わかりました。それじゃあ、私は部屋で休ませてもらいます」


「ああ、そうしていて構わない。本当なら旅の間の食糧を買うところまで教えたいが、ラズの疲労を抜くことを最優先としよう」


「お気遣いありがとうございます」


 ボクはラズにいつものマッサージと回復魔法をかけ、ラズをいったん起こし自分の部屋で寝るように言いつけ宿を出た。

 行き先は先ほども述べた通りテイマーギルドだ。

 うまくこの街に情報があるといいんだけど。


 テイマーギルドのドアをくぐると相変わらず室内は閑散としていた。

 テイマー自体の数が少ないんだから当たり前である。

 テイマーは冒険者のように多少のお金を払えば誰でもなれる職業ではない。

 モンスターと心を通わせ、絆を結ぶことによって初めてテイマーと認められるのだ。

 ボクは子供の頃からテイマーとしての道を、正確にはボクの住んでいた村がモンスターシープを育て羊毛を刈り取りその毛で毛織物を作って生計を立てていたのだから、生まれついての資質はあったのかもしれない。

 それもまた遠い昔の話だ。


 懐かしい昔のことを思い出しながらも哀愁にひたっているわけにはいかない。

 きちんとやってきた目的を果たさないと。

 ボクは受付係に話しかけ、あるモンスター種が近隣に住み着いていないかを聞いた。


「バトルホース種……ですか?」


「ああ、バトルホースの系列であればなんだって構わない。進化前のアタックホースだろうと、進化後のファイターホースでも」


「うーん、その系統は誰でも捕まえたがりますし、保護種なのであまり見せられないのですが……ちょっとギルドマスターに確認して参ります」


 受付係が奥に消えていき、しばらくするとボリビエと一緒に戻ってきた。

 ちょっと聞いてはいけない案件だったかな?


「アイオライト様、バトルホース種をなぜ必要としているのです? あなたにはスレイプニルのアレクがいるのに」


「ボクが乗るんじゃないよ。ラズを乗せるんだ。アレクはラズをその背に乗せることをよしとしていない。それなら、別の馬を用意するしかないからね」


「なるほど、それでバトルホース種ですか。あまり人目に触れさせたくない情報ですのでこちらへ」


 おや、この街の近辺にはバトルホース種がいるのか。

 ちょっと驚きだ。

 バトルホース種はその種族特性、普通の馬よりも持久力も馬力もあることから乱獲対象になりやすいのだが。


 ボリビエにギルドマスタールームに案内され、そこで一枚の地図を見せてもらう。

 周辺地形から言ってサバトン周囲の地図だ。

 ただ、サバトンの街がかなり小さく描かれている。

 これはかなり広い面積を表しているな。


「おわかりでしょうがサバトンの街はここ。サバトンから徒歩で5日ほど街道沿いに北へ進み、途中で森の中に入り森の中を3日ほど歩くと森を抜けます。森を抜けたあと、東にしばらく進むと湖があり、そこにアタックホースの群れが暮らしております」


 なるほど、これは知っている人じゃないとたどり着けない場所だな。

 詳しく聞くと、森に入るポイントも特に目立つ目印もなく、森の中も鬱蒼として進みにくく方向を見失いやすい。

 そして、その森にはモンスターも住み着いているらしいので生半可な覚悟では通り抜けられないわけだ。

 なるほど、理解した。


「とまあ、このような人里離れた場所にアタックホースの群れが暮らしております。人への警戒心もかなり高いです。それでも向かいますか?」


「まあ、行くしかないだろう。適当な馬を買っていってもいいけど、それだと絶対に途中で馬が潰れる。それにラズが馬を持つのはあまりにも早すぎる。あくまでボクの馬を貸し与えることにしたい。テイマーの馬ならモンスターホースがもっとも好ましい」


「わかりました。その地図の写しを作っていっていただいて構いません。ただ、群れをあまり刺激しないようにお願いいたします。サバトンでも保護に力を入れている群れですので」


「わかった。手荒なまねはしないと約束しよう」


 ボクは自分の持っていた地図にアタックホースがいる場所を書き込む。

 ボクの持っている地図はこの国の全体図だから更に縮尺が変わっている。

 徒歩で5日程度ではあまり大きな道程ではないな。

 それに、この国は南北に大きく伸びているから余計距離が短く感じてしまう。

 いま言われたことを忘れないようにしないと。


 地図にアタックホースの群れがいる場所を移し終わったら、ボリビエに礼を言いテイマーギルドを出た。

 今日のうちに旅の食糧を買い込まなくてはいけない。

 徒歩で北に5日、森の中を抜けるのに3日ということは、最低でも片道8日かかることになる。

 悪天候などで進めない日のことも考えると……20日分くらい用意しておくべきか?

 まったく、旅の間は保存食ばかりの生活になるとはいえ、塩気がきつい食事には嫌になるよ。

 慣れてはいるけど、それと文句を言いたくなることは別だからね。

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