10. アイオライトの決断
とりあえず、状況がわからなかったためラズという少女冒険者を冒険者ギルドから連れ出し、テイマーギルドまで戻ってきた。
どうにも冒険者ギルドは居心地が悪い。
それに、アレクやランプたちを預けておく場所もないから、ボクとしてはテイマーギルドの方が都合はいいのだ。
ボクたちはテイマーギルド内に併設されている食事処でテーブルに着く。
さて、どこから話を聞こうか。
「ラズ、君はなぜボクに師事しようと考えた? ボクはテイマーであって冒険者ではないぞ? 一般的な技術は教えられるが冒険者の流儀は教えられない。そこは理解しているのか?」
「はい、理解しています! それでもアイオライトさんに弟子入りしたいんです!」
困ったな。
ボクは弟子なんて取ったことがない。
棒術や槍術の基本は知っているが、そこから先は我流で鍛え上げた癖の強い物だ。
魔法も
「それで、ボクに弟子入りしたい理由は?」
「アイオライトさんの活躍は昨日聞きました。ゴブリンの群れの中に従魔だけ連れて果敢に攻め込んでいったと。私もそんな冒険者になりたいんです!」
思わずボクは溜息をついてしまう。
だめだ、そもそも理由が理由になっていない。
もっと考えてから動くよう説得するべきだな。
「いいかい、ラズ。ボクは勇敢なわけでも向こう見ずなわけでもない、ただボクが従魔連れで乗り込んで行った方が早いと確信したからそう行動しただけだ。ほかの冒険者だけでゴブリンの群れをどうにかできるようだったら後方からの支援に徹するつもりだったし、あまり目立つつもりもなかった。今回、首級を取ったのはそうするのが一番早く、そして冒険者たちの損耗を避けられると確信しての行動だからだ」
ボクの力強い宣言にラズはぽかんとしている。
ラズはボクが英雄的行動を取ったと考えていたのだろう。
実際には全体の消耗と自分たちの能力を考えての行動だっただけなのだ。
ボクはそこまで英雄志願の命知らずじゃない。
「そ、そうだったんですか? 私は冒険者ギルドの酒場で掃討作戦に参加していたほかの冒険者の話を聞いて勇敢な行動を取ったんだとばかり」
「そんなことはしないよ。ボクは冒険者じゃないが、誰だって命はひとつ限りの物だ。一か八かの賭けにでるのは追い詰められたときだけで十分。ほかに選択肢があるときはより最善と思える選択肢を選び続けるしかない」
「最善と思える選択肢、ですか……」
「一昨日、君がゴブリンを倒さずに情報を持ち帰ったのも最善の選択肢のひとつだ。あの時ゴブリンを倒す選択肢を選んでいれば、あの場にいたゴブリンだけではなく拠点にいたゴブリンも相手にしなくてはいけなかったかもしれない。そうなれば、ボクだって君を助ける余裕があったかはわからないよ」
「な、なるほど」
ラズはわかったのかわからないのか理解できないでいるような顔をしている。
ボクのようなテイマーに弟子入りを志願するあたり、結構勢いで生きているのかもしれないな。
そういう人間は周りも巻き込んで破滅することがある。
あまり積極的に関わり合いになりたくないタイプの相手だ。
「とりあえず、アイオライトさんが英雄的な行動を取ったわけではないことはわかりました。でも、やっぱり私はアイオライトさんに弟子入りしたいです」
「まだ言うか。ボクが納得できる根拠を示してもらおうかな」
「だって、アイオライトさんはいまこうして私の話を聞いてくれているじゃないですか。それって私の話を聞く意味があるって思ってくれていることですよね?」
ふむ、そう言われるとそうかもしれない。
はっきり言ってしまえば、ラズはたまたま助けただけの新人冒険者に過ぎないわけだ。
人物像的にも逃げるときにひとつしかない武器を投げつけたり、まともな防具も揃えないでゴブリンに挑んだりなど無鉄砲な面がうかがえる。
はっきり言って話す理由などないのだ。
それなのに、ボクは彼女の話を聞いている。
これはボクとしても意外だったかもしれないな。
「アイオライトさんは冒険者ではないですが、私から見れば並みの冒険者よりはるかに強いですし度胸もあります。私にはないものだらけです。どうか弟子にしていただけませんか?」
弟子、か。
そんな物取ったことがないな。
そもそも、ボクの技術は自分で磨き上げてきた物ばかりで他人から教わった物は少ない。
その他人から教わった技術も長い年月を経てボク専用の物に置き換わっている。
そんな技術をまた他人に伝えられるものなのか。
ちょっと悩むな。
そもそも、ボクの武器は杖であって剣じゃないし。
「……おや、アイオライト様。今日はいかがなされました?」
「ああ、ボリビエか。ちょっと困ったことになっていてね」
「アイオライト様が困ったこととは。一体なんでしょう?」
ボクはテイマーギルドのギルドマスターであるボリビエにいまの状況を説明する。
そして、ボリビエが少し考えて出した結論は『弟子にするべき』であった。
「アイオライト様の技術は多岐にわたるでしょう。その一部だけでも後世に残せるのであれば弟子を取るべきです」
「後世に残すって。ボクのことは知っているのだろう?」
「もちろん、存じ上げております。それでも、技術は残すべきかと」
ボリビエにとってボクが持っている知識や技術は誰かに伝えてもらいたいものらしい。
その相手がラズというのが適切かどうかわからないけど、ラズに残せる技術もあるだろう。
仕方がない、弟子として育ててみるか。
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