9. ラズ、再び

 昨日はテイマーギルドですっかりごちそうになってしまった。

 この街の名物は山菜の炒め物だったが、苦みの中にコクがあってとても美味しい物だったな。

 山菜の採れる量が少ないので一部の店でしか味わえないそうだが、昨日はそれを取り寄せてくれたらしい。

 いや、本当にありがたい。


 テイマーギルドで食事をごちそうになり一通り談話もしたあと、前日に泊まっていた宿に向かいもう一泊した。

 やはりこの宿はいい。

 サバトンに何日いるかは決めていないが、とりあえず5泊追加で部屋を取ってもらう。

 旅の疲れを癒すためだけに訪れたのだけど、なかなかいい宿に巡り会えたかもしれない。


 宿で朝食も食べ終えたら、朝と言うには遅い時間にテイマーギルドを目指す。

 冒険者ギルドから依頼完了の報告が入っていればよし、入っていなくてもなにか呼び出しなどがあればテイマーギルドにまず連絡が行くだろう。

 この時間帯なら混み合ってもいないだろうしのんびり行くにはちょうどいい。

 たどり着いたテイマーギルドは案の定閑散としていた。

 うん、話が早く済みそうだ。


「やあ。アイオライトだけど冒険者ギルドからなにか連絡は入っているかい?」


「アイオライト様ですね。……ええと、冒険者ギルドから呼び出しがかかっています。昨日行われたゴブリン掃討作戦の詳細を聞き取りたいとのことです」


「わかった。というか、よく考えたらリーダーを倒した時、その場にいたのはボクだけだった。話をしに行かないわけにもいかないか」


「よろしくお願いいたします」


「ああ、ありがとう」


 これはうっかりしていたな。

 普段、冒険者ギルドの依頼なんて受けないものだからすっかり忘れていた。

 昨日ボリビエ相手に話をしていたのも理由かもしれない。

 とにかく、冒険者ギルドに出向かないと。

 この時間帯なら冒険者ギルドもそこまで混んでいないだろう。

 そう考えて冒険者ギルドに行ったが、冒険者ギルドはたくさんの人で賑わう……というか、混乱していた。

 なにかあったのだろうか。

 ともかく、ギルド職員に話を聞いてみよう。


「すまない。冒険者ギルドから呼び出しを受けているアイオライトだが」


「……え? あなたがアイオライト様?」


「そうだが、どうかしたのか?」


「い、いえ。ゴブリンのボスを倒したようには見えなかったもので」


 その言葉に冒険者ギルド内でギャハハと品のない笑い声が上がる。

 言いたいことはわかるがマナーがなっていないな。


「おう、お嬢ちゃん。お前が本当にアイオライトか?」


「そうだ。なにか問題でもあったか?」


「笑わせてくれる! お前みたいな奴がゴブリンのボスを倒せるわけがないだろう!」


 見るからにうだつの上がらない冒険者がボクのことを馬鹿にしてくる。

 見た目が子供なのはボクも十分に承知しているからたいしたことじゃない。

 ただ、それを容認してしまうとあとが怖いかな。

 主に、あの冒険者が冒険者ギルドを出たところで消し炭にされないかという点で。

 この会話はアレクたちも聞いているのだから。


「他人を見た目で侮らない方がいい。あとで痛い目をみるよ?」


「ほう。どんな感じで痛い目をみるんだ?」


「……こんな感じかな」


 ボクの目の前に青白い召喚陣が描かれる。

 その中から出てきたのはロインだ。

 ロインは召喚陣から出てきてすぐに電撃をほとばしらせ、ボクのことを馬鹿にしてきた冒険者を感電させてしまった。

 冒険者は気を失ったみたいだけど、動いているから命はあるみたい。

 死んでないならいいかな。


「ヤロウ! なにをしやがる!?」


「痛い目をみたいと言ったから痛い目を見せただけ。このくらいのことも理解できないようじゃやっていけないよ」


「このガキが!」


 そこで感電して倒れた冒険者の仲間なのか、数人の冒険者が武器を抜いてボクの前に立ちはだかった。

 ふうん、そこまでやる気なんだ。


「……街中で武器を抜くのはどうかしていると思うけど。まあ、正気を失っているなら仕方がないか」


「まだ言うか、ガキ!」


「言わせてもらうよ。武器を抜いたとあれば気絶程度で済ませるわけにもいかない。先に死にたいのは誰だ?」


 ボクは更に召喚陣を描き、ランプとオファール、アレクを呼び出した。

 みんな既に臨戦態勢になっており戦う気は十分なようだ。

 どうしてくれようか。


「そこまでだ! 双方、収めよ!」


 通路の奥の方から一喝する声が聞こえた。

 中から出てきたのは、いかにも歴戦の強者という雰囲気をただよわせた大男である。

 彼がこのギルドのギルドマスターかな?


「いや、ギルドマスター」


「収めよと言っている! そもそも街中で武器を抜くのは重罪だ!」


「だけど、そのガキが昨日の戦果を横取りしようとしてるんだぞ!」


「横取りしようとしているのは貴様らだろうが! その方は本物のアイオライト様だぞ!」


「なっ!? こんなガキが!?」


「わかったなら牢屋でしばらく反省しろ。衛兵、そいつらを連れて行け!」


 ギルドマスターの後ろから出てきた衛兵たちが冒険者たちを縛り上げて連行していく。

 ボクの手柄を横取りしようとしていると聞いたけど、そこまで素行の悪い冒険者だったのか。


「申し訳ありません、アイオライト様」


「まったく。冒険者の質もここまで落ちたか」


「返す言葉もございません。今日は昨日のゴブリンの件をうかがえるのですかな?」


「そうしたい。あまりいい気分ではないからさっさと済ませよう」


「かしこまりました。申し訳ありませんが、私の部屋までご同行願います」


「その程度なら。誰も彼もに聞かせていい話とは限らないしね」


「よろしくお願いいたします。どうぞこちらへ」


 ギルドマスターの案内に従い、彼の部屋でいろいろと話をする。

 どうやらボクの持ち帰った笛を鑑定してただ事ではないと判断したようだ。

 だが、あの笛の効果までは鑑定できず、ゴブリンのリーダーと直接戦ったボクの話を聞きたかったようだね。

 ボクとしてもある程度は説明しないといけないと考えていたからちょうどいい。


 質問されたことにはすべて答え、追加で情報も出して聴取は終わった。

 冒険者ギルドからの報奨金は明日テイマーギルドへ送金されるようだ。

 あと6日はこの街に留まることを伝えたし、お金には困っていないから明後日くらいに受け取りに行こう。


 ギルドマスターの部屋から出て冒険者ギルドの入り口まで戻ると、冒険者たちや冒険者ギルドの職員がボクを見る目が変わっていた。

 あれだけ暴れたなら仕方がないか。

 騒ぎが終わったあとにアレクやランプたちは外に出しておいたけど、なにも念話がないということはなにもないのだろう。

 それじゃあ、とりあえず冒険者ギルドを出ることにしよう。


「あの、待ってください!」


 冒険者ギルドを出ようとして出入り口の扉に手をかけたところ、少女の声で引き留められた。

 この声には聞き覚えがある。

 一昨日助けたラズという新人冒険者だ。


「やあ、ラズ。一体なんの用かな?」


「あの、私を弟子にしてください!」


 ……そう来たか。

 前後のつながりがまったくわからないけど、どうしたものか。

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