6. ゴブリンの拠点襲撃

 森の外に出ると残りの冒険者たちも到着してボクたちの帰りを待っていたようだ。

 既に朝日も昇っているしゴブリンを倒す準備は万全といったところか。


「戻ったか。報告を」


「ああ。ゴブリンの数は不明だがライダーがいる。包囲戦を仕掛けないと取り逃すぞ」


「ふーむ、ゴブリンライダーか。あいつらは昼間に行動するから早めに仕掛けた方がいいな。アイオライト、だったか。あんたはどうするんだ?」


「ボク? 依頼として受けているから指示に従うよ」


「そうか。それなら部隊の後方で倒し損なったゴブリンの始末を頼みたい。それでいいか?」


 モンスターシープを連れているから低く見られているかな。

 楽できるのはありがたいし、このまま受け入れよう。


「わかった。逃げ延びてきた連中がいたらその時は任せておくれ」


「そんなの出すつもりはないけどな。野郎ども! 作戦は先に決めておいた2番だ! 行くぞ!」


 指揮官役の冒険者の合図で冒険者たちが動き始める。

 お互いにある程度の距離を持ちつつ、つかず離れずの距離を保っている様は実に連携が取れている証拠だ。

 それなりに訓練を積んだ冒険者たちがこの街にはいたんだろう。


 冒険者たちのほとんどが出発したあと、後詰めや逃げ延びたゴブリンを討つための部隊も出発した。

 ボクはこの一員だ。

 この部隊も相当の手練れが集まっているようで、装備もそれなりにいいものを身に着けている。

 今回のゴブリン討伐戦は相当力を入れているね。


 ボクたち後詰めの部隊も配置につき、前の部隊が戦闘を始めるのを待つ。

 しばらくすると、ゴブリンのものと思われる悲鳴が鳴り響き、それは激しい怒号と爆発音などに変わっていった。

 どうやら戦闘が始まったらしい。

 ランプたちもやる気だし意気込みは十分か。

 冒険者は周囲を包囲するように広がっていたはずだから、どれほどの数が逃げ延びてくるかは疑問だが、逃げてきた分はすべて始末させてもらおう。


 戦闘が始まってしばらく経つ。

 しかし、逃げ延びてきたゴブリンは一匹としていない。

 これはどういうことか?

 様子を見るために前線へ出るか悩んでいたところ、ひとりの冒険者がやってきた。

 戦闘に参加していたらしく返り血を浴びてはいるが、深い怪我を負っている様子はない。

 なにをしに来たのだろう?


「あんた、後詰めの部隊の者だよな? すまないが、前線に出て戦ってほしい」


「それは構わないけど、前線でなにかあったのかい?」


「ゴブリンどもが一匹たりとも逃げずに向かってくるんだ。多少は逃げると思って戦闘を始めていたから余力がなくなってきた。いま後詰めの部隊全員へ伝令を放っているところだ」


 なるほど、それで暇だったのか。


 それにしてもおかしいな。

 ゴブリンはそれほど知能も高くないし、仲間意識も高くない。

 形勢不利と見れば仲間なんておいて逃げ出すはずだけど。

 これは、なにか理由があるはず。

 先にそれを調べてからいこう。


 ボクは背中のカバンから水晶玉を取り出し、左手で持って軽く念じる。

 するとその中に別の景色が映し出された。

 よし、ちゃんと作動するな。


「そいつは『遠見の水晶玉』か。そんな魔法の道具マジックアイテムも持っていたんだな」


魔法の道具マジックアイテムは見せびらかす物じゃないからね。あまり離れた場所は見えないし、長時間使っていると割れてしまう。敵のいる場所がわかっていないと使いにくいアイテムなのさ」


 ボクは遠見の水晶玉に映し出された景色の中にひとつ違和感を覚えた。

 ゴブリンはしっかりと統率され軍勢としての動きを見せている。

 普通のゴブリンはこのような動きを見せない。

 そうなると、ゴブリンの指揮個体がいるはずだが、周囲にはその影も見当たらない。

 一体どうなっている?


 そのまま戦場全体を舐めるように見渡していると、一匹のゴブリンがおかしな行動を取っているのがわかった。

 毒々しい色をした笛を吹いているのだ。

 ゴブリンがウォードラムを鳴らすことはあっても、笛を吹くような習慣はないはず。

 こいつが指揮個体か?


「おい、なにかわかったのか?」


 ボクの元に伝令へやってきた冒険者が聞いてくる。

 そういえば、ボクはアレクの上に乗っているから、下からだと遠見の水晶玉の内容は見えないんだった。


「奇妙な動きをしているゴブリンが一匹いた。こいつが全体を指揮しているのかもしれない」


「なに!? それはすぐに前線の連中に知らせないと……」


「君がその役を担ってくれ。ボクはこのまま前線を突破してそのゴブリンの元へ向かう」


「ちょ!? 大丈夫なのか?」


「ゴブリンごときに後れを取ることはないよ。それじゃあ、行くよ!」


『任せよ!』


「メェー!」


 ボクとアレク、ランプたちは一気に森の中を駆けだし始める。

 アレクはさすがスレイプニルと感じさせる速さで木々が乱立している中を駆け抜けているし、ランプたちもそれに遅れずついてきている。

 木を吹き飛ばしながら進むこともできるけど、さすがにそれは問題だから。

 ゴブリンがいなくなればこの地も正常な森へと戻るだろう。

 そうなったとき、森に暮らす動物たちの住処が奪われていては意味がない。

 そこまで考えて動かなくてはね。


 木々が途切れるところまで行くと、森の中にできた広場で冒険者とゴブリンたちが争っていた。

 あまり奥まで押し込めていないようだし、かなり苦戦しているね。


「メェー!」


「なんだ!? モンスターシープ!?」


「増援か! 助かった!」


「悪いけどボクたちはこのまま敵の首魁を討ちに行く! この場は少しかき回しただけで終わらせてもらうよ! ランプ! ロイン! オファール!」


 ボクの命令でランプたちの毛の色が変わっていく。

 ランプは燃えるような赤、ロインは空のごとき青、オファールは深い紫だ。

 毛の色が変わったランプたちは走る向きを変え、それぞれゴブリンへ突撃していく。


「メェー!」


「グギャ!?」


 スレイプニルの速さに付いてくることができるランプたちの突進をゴブリン程度がかわすことなどできない。

 ゴブリンたちはそれぞれの角で貫かれ、さらには炎や電撃、毒によって体が灰になって消えていく。

 所詮はゴブリン、この程度のものだろう。


 ランプたちの攻撃によりゴブリンたちは少し浮き足立ったようだ。

 その隙を狙い冒険者たちも攻勢を強めていく。

 これでこの場所は大丈夫かな。


「それじゃあ、あとは任せるよ。ボクたちはこれで行く」


「助かった。奥に隠れているやつは任せた!」


 ボクは行きがけの駄賃としてアレクにゴブリンを踏み潰させ、ゴブリンの拠点奥地へと向かう。

 あの笛、一体どういう仕組みなんだろうか。

 興味はあるけど、いまはゴブリン退治が優先だ。

 倒したついでにもらっておくとしよう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る