5. ゴブリンの拠点偵察

 ボクたちが森までたどり着くと、一緒に来ていたギルド職員が斥候隊の馬を預かり始める。

 最初はボクのアレクも預かろうとしたけど、ボクはそれを拒否した。

 アレクも反対したし、そもそもこの程度の森でアレクがしくじるはずもない。

 ほかの斥候たちも渋々といった様子だが従ったので、ボクはアレクに乗ったまま森へと入って行く。

 もちろんモンスターシープのランプたちも一緒だ。


「アイオライト。スレイプニルが強いのはわかるが、モンスターシープまで連れて行くのか? モンスターシープと言えば、殺さずに毛を採取しようとするとなかなかの難易度だが、群れではなく数匹の集団を倒すだけならゴブリンよりも容易いと言われているモンスターだ。連れて行っても足手まといじゃないのか?」


「足手まといかどうかはすぐにわかるよ。それよりもアレクの進む速度に合わせて移動してもらっているけど大丈夫かい? 気を付けて歩いてはいるが、いきなりの遭遇戦の可能性は捨てきれない。その時、体力がありませんでしたは通用しないよ」


「この程度なら問題ない。それよりも、日が完全に昇る前に調査を行いたいんだ」


「わかった。では、先に進もうか」


 ボクたち斥候部隊はアレクにまたがったボクを先頭に森の中を歩いて行く。

 もちろん、途中で枯れ枝を踏むなどというヘマは起こさない。

 あくまでも静かに移動していくのだ。

 少し歩くと昨日ラズを助けた場所まで着いた。

 斥候隊のリーダーはそこでなにがあったのか大体把握できたようだ。


「ここは本命じゃないな。ゴブリンを焼き払った痕跡は残されているがそんなに多い数ではない。昨日助けたという冒険者を見つけた場所か?」


「正解。襲われる直前に割り込んだから完全に不意打ちになってほぼ抵抗されずに済んだよ」


「襲われる寸前まで待っていたんじゃないのか?」


「さあ? そこまで性格が悪いわけじゃないよ」


「そうか。本命の場所はどこになる?」


「もう少し森の奥へ進んだ場所。ここは調べなくてもいいの?」


「冒険者を追いかけて追い込んだ場所じゃあまり調べても意味がないさ。それよりも、昨日の冒険者が最初にゴブリンと戦った場所を調べたい。急いでくれ」


「承知した。こっちだよ」


 周囲を警戒していた斥候たちも、この周囲にゴブリンの気配がないことを確認したのか足早に付いてくる。

 ボクたちはそのまま更に森の奥へと進み、ラズたちが最初にゴブリンと交戦した場所までやってきた。

 この場所も昨日のうちにゴブリンはすべて灰にしたけど、斥候たちは痕跡を集めるのに必死だ。

 ボクには斥候向けの技能はないので離れた場所で見ているだけだけど。


「……あったぞ。ゴブリンどもの足跡だ」


「こっちには人間サイズの靴の跡が4人分ある。これが昨日の冒険者たちの足跡か」


「それ以外にも森の奥に向かってなにかが引きずられたようなあとがあるな。血の跡は……多すぎて判別不能だ」


「よし、引きずられた跡を追いかけよう。アイオライト、あんたはどうする?」


 ボクか。

 ボクは……やることは特にないけど、もう少しゴブリン調査に付き合おうか。


「そうだね。邪魔にならないならついていこうかな」


「これまでの様子なら邪魔になどならないさ。ここからは俺たちが先導するが構わないよな?」


「大丈夫だよ。ボクは後ろで奇襲に備えよう」


 隊列を変更し、ボクとボクの従魔が斥候隊の後ろを歩くようになった。

 斥候隊は先ほど見つけた痕跡を追いかけ、慎重に進んでいく。

 引きずられた跡は時々背の低い木の中も通り抜けつつ、森の奥深くへとまっすぐ続いているようだ。

 地面や木々に罠や印などがないかを調べながら斥候隊とボクも森の奥へと向かう。

 やがて、引きずられた跡が途切れ、身ぐるみを剥がれたまだ少年と言っても過言ではない男性の遺体が3つ転がっている場所までたどり着いた。

 どうやら昨日のゴブリンたちはここまで遺体を運んできたようだ。


「……ひどい有様だな。すべてをかっさらっていくとはさすがゴブリンだ」


「同感ではあるがこの遺体を調べるぞ。なにか新しい情報が得られるかもしれん」


 斥候隊は3人分の遺体を手分けして調べ始める。

 遺体には、はらわたを引きずり出されて食べられた形跡とゴブリンではなく獣の爪痕が残されていた。

 それも一般的な狼よりも少々大きめのサイズだ。

 これは……ゴブリンライダーが使うゴブリンウルフかな。


「やれやれ、ライダーまでいるのか」


「そうなると俺たちがこれ以上近づくのも危険だな。ゴブリンも鼻がいいが、ゴブリンウルフは更に鼻が利く。消臭剤は使ってきたが誤魔化しきれるか怪しい」


「ライダーがいる群れとわかっただけでも事前情報としては十分だ。これで引き上げるとしよう。アイオライトも構わないよな?」


「ボクも異存はない。ライダーを逃がさないようにするなら広範囲を囲んでからの殲滅戦を仕掛けることになるんだろう? ボクひとりがゴブリンの群れを襲っても邪魔になるだけだ」


 ゴブリンの群れを倒しきれるかと聞かれれば倒しきれるだろう。

 だが、ゴブリンライダーが逃げ出した場合、追跡が面倒になる。

 選択肢としては一度引くのが正しい。


「よし、それじゃあ戻るぞ。周囲に敵の気配は?」


「一切感じられない。いまのうちに森の外まで帰還しよう。いまから戻れば本隊が到着するころだ」


「わかった。行くぞ」


 今回の事前調査でわかったことはゴブリンライダーがいることくらいか。

 ゴブリンライダーがいるということはそれなりの大きさの集団だろうし、餌としてウルフに与える肉も豊富に捕まえられる程度には装備も整っているということだろう。

 昨日、あのラズという冒険者を突撃させなくて正解だったかもしれないな。

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