4. アイオライトへの参加要請
やるべきことはやった。
あとはこの街の冒険者たちがなんとかする番だ。
そう考えボクは身を翻そうとする。
しかし、その前に受付係の女性に引き留められてしまった。
「あの、アイオライト様。申し訳ありませんが、今回の件、お手伝いいただけないでしょうか?」
「ボクが? ボクはテイマーギルド所属のテイマーだ。冒険者ギルドには所属していない。この街に来たのだって近くを通りかかったからちょっと立ち寄ってみただけ。危険を冒す理由がないな」
「そこをなんとか。正直、ゴブリンの数次第では当冒険者ギルドだけだと不安が残ります」
ボクは少々驚きを感じた。
これほどの規模の街になっているのにゴブリンすら倒せないとは。
そこまで戦力が低いんだろうか?
「そんなに自信がないの? 冒険者として失格なんじゃない?」
「お言葉はごもっともです。ですが、目撃情報のあった森は主要な街道にも近く、壊滅させられなかったときの二次被害は想像もできない物になるでしょう。後追いの形になりますが、テイマーギルドにもアイオライト様宛ての指名依頼を出させていただきます。それで手を打ってはもらえませんか?」
なるほど、理は通る。
ボクの戦力を最初からあてにしているわけではなく、あくまでゴブリンどもを駆逐するための戦力か。
それなら受けてあげてもいいかもしれないな。
「わかった。でも、ボク宛ての指名依頼は高いよ? 一受付にそんな権限はあるのかな?」
「そこは上をなんとしてでも説得してみせます。どうか、よろしくお願いします」
「それじゃあ、ボクも今日は引き取らせてもらうよ。ボクはテイマーギルド御用達の宿のどこかにいると思う。なにか不測の事態があったらそこに知らせて」
今度こそボクは出入り口の方に向かって行こうとする。
そんなボクを今度はラズが引き留めてきた。
「アイオライトさん。今日は本当にありがとうございました。アイオライトさんが助けにきてくれなければ、私もゴブリンの餌食になっていたでしょう」
「気にしないで。ボクもたまたま君が襲われているところを見つけただけなんだから」
「それでもです。本当にありがとうございました」
「そう。じゃあ、今後は命を粗末にしないことだね。君の装備じゃゴブリンの相手は無理だよ」
「……はい。身に染みました」
「命があってよかったね。それじゃ」
今度こそボクは冒険者ギルドを出る。
向かう先はテイマーギルド。
ボクの記憶通りの場所にあるなら街の外れの方にあるんだけど、どうせならさっきの受付係に聞いてくればよかった。
目的地であるテイマーギルドは昔訪れた時の場所にはなく、代わりにそこはテイマーギルドの厩舎となっているようだ。
とりあえずボクと従魔たちが一晩泊まれる宿があればいいので話を聞いてみると、街の外れの方にテイマー向けの宿屋街が立ち並んでいるらしい。
その中でも寝心地がいい宿を紹介してもらい、この日の夜はそこで過ごした。
値段もそれなりに高かったけど、シャワーも付いていていい宿だ。
食事も美味しかったし、また来ることがあったらここを定宿としよう。
翌朝、冒険者ギルドで聞いていた通りまだ薄暗いうちから起き出し宿を出る。
人々が眠りから覚める前の街を駆け抜け、昨日サバトンの街へと入ってきた街門へとやってきた。
そこには大勢の冒険者たちが準備を整え出発の時を待っている。
少し来るのが遅かっただろうか。
「来たか、アイオライト」
「ああ。遅かった?」
「いや、集合時間にはまだ早い。だが、斥候隊はそろそろ出発の時間だ」
「ならぎりぎりだね。間に合ってよかったよ」
「そうだな。ところで、君の従魔はそのスレイプニルとモンスターシープ3頭だけなのか?」
「ほかにもいるけど普段から連れ回しているのはこの子たちだけだよ。戦力には困らないし」
「そ、そうか。ともかく、斥候隊の元に案内する。詳しい話は彼らから聞いてもらいたい」
ボクは話しかけてきた冒険者に案内されて斥候隊の場所まで付いていく。
そこでは既に数人の斥候役が話をしていてどのように居場所を絞り込んでいくか決めているようだ。
「おい、アイオライトが来たぞ」
「ああ、わかった。ようこそ、アイオライト。今日はよろしくな」
「よろしく。それで、ゴブリンどもの居場所はどうやって探るの?」
「そこなんだが、昨日の冒険者が襲われていたという場所まで案内はできるか?」
「案内? それくらいならできると思うけど、そこを起点とするのか?」
「あんたが案内できるならそうするつもりだ。どうだ、できるか?」
ふむ、考えとしては悪くない。
ラズは3匹のゴブリンを倒したあとゴブリンの群れに襲われたと言っていた。
それに間違いがなければ、最初の3匹は倒される前に増援の合図を出していたことになる。
増援が遅れたのが準備に手間取ったのか距離が離れていたからなのかはわからない。
ただ、始まりの場所としては悪くないように感じる。
よし、その話に乗ろう。
「わかった。昨日の場所まで案内する」
「助かるよ。俺たちはそろそろ出発する。あんたの準備はできているか?」
「ボクは普段から連れのモンスター以外はひとり旅だからね。準備する物なんてそんなにない。装備の点検だって宿を出る前に済ませてある。いつでも行けるよ」
「じゃあ、出発だ。道案内、任せたぞ」
ボクと斥候隊は昨日の場所を目指してサバトンを出発した。
ゴブリンの群れはどの程度の規模なのか、ちょっと不安が残るね。
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