第17話 筋肉双子は、更に己を鍛える


 初配信でとんでもない事件に巻き込まれた彰と陽介だが、二人は変わらずに毎日のようにダンジョンに潜り続けている。

 警察の対応に関しても、別に二人は加害者という訳ではないので、状況説明をして終わりというたった一日で済んでしまったのだ。

 むしろ警官からサインをねだられてしまい、サインを持っていない二人は写真撮影で対応をしたのだが……。


「さて弟よ、今日は配信外だが深層に潜ろうと思う」


「よっしゃ、更に筋肉に磨きをかけねぇとな!」


 既に筋肉を解放して《モストマスキュラーズ》状態の彰と陽介は、深層一歩手前にいた。

 このダンジョンは現在八十階層まで進行しており、そのなかで一から二十階層は上層、二十一階層から四十階層は中層、そして魔物達が一気に強くなる下層は四十一階層から七十五階層と区分されている。

 そして、七十六階層から現在発見されている八十階層が、魔物の強さが下層の魔物が可愛くなる程に上がる深層と位置付けられている。


 この二人は既に探索者十名程のパーティでないと安定した攻略が出来ないと言われている下層を、たった二人で攻略出来ている程の実力を身に付けている。

 ここまで潜れる探索者は、探索者人口一千万人と言われている中の上位二十パーセントと言われている程で、魔石や素材を売れば充分に億万長者に成れる、探索者の中の探索者なのだ。

《モストマスキュラーズ》も上位二十パーセントの中に入っているのだが、二人は最近まで収入に全くこだわっていなかった。

 

 全ては己の肉体を極限まで鍛える為。

 自分自身の可能性を信じて、ひたすらに強さのみを求めているからだ。


「……弟よ、私達はに勝てる実力が身に付いただろうか?」


「……さあな、あいつは強かったから。深層の魔物を余裕で倒せる位じゃないと、勝てないんじゃないか?」


「となると、まだまだ足りない、か」


「だなぁ」


 全ては、奴に勝つ為。

 いや、殺す為。


 だから足りないのだ。

 筋肉が。

 奴を葬り去る程の肉体が、筋肉が、まだまだ足りない。


 もっとだ。


 もっと、もっと。


 もっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっと!!


 己の肉体を苛め抜き、オリハルコン級の筋肉を手に入れなくては!

 でなければ――


「母さんを殺したには、到底届かない」


「だな、兄者。奴はこの手で絶対に……」


「「ぶっ殺す!」」


 全ては愛しい母を殺したに復讐する為。

 その復讐心を糧とし、今まで生きてきた。

 泥に塗れながら、血反吐が出そうな程に鍛錬を続けてきた。

 

 確かに強くなれている実感はある。

 それでもまだまだだ。

 本能が筋肉を欲している。

 更なる濃密な筋肉を欲しているのだ。


 既に筋肉という狂気に取りつかれた彰と陽介は、歩みを止めない。

 今から行く深層は、別名 《地獄の入口》と言われていようとも。

 その先に、強くなる為の方法があるのだから。


「行くぞ、弟よ」


「ああ、行こうぜ!」


 二人が拳を軽くこつんと合わせると、周囲に衝撃波が伝播する。

 そして、深層へと潜っていくのだった。


「あっ、そうだ。兄者、深層の魔石は一個位持って帰らねぇと、生活費の足しにならねぇぜ?」


「おっ、そうであったな! 何か適当に持って帰ろう」


「でも、そんな余裕あるかなぁ」


「……なさそうな気がする」


 何とものほほんとした雰囲気で、深層に足を踏み入れるのであった……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る