第16話 テレビクルーと事務所の末路


「ちなみにカメラ外で待機している警察の皆さんが早速動いてくれているぜ。言い逃れは絶対に出来ないからな」


 和哉はカメラに向かって指を指し、結衣を囮にしたテレビクルー達に対して脅しをかける。

 恐らくテレビクルー達は、近い内に逮捕されるであろう。

 

 そして和哉を中心に、《モストマスキュラーズ》達が結衣を助けた経緯を話していく。

 警察は彼等の言葉を逐一メモを取り、質問があった場合は和哉のスタッフにカンペを用意してもらって回答をした。

 警察からは充分に取り調べが出来たらしく、OKサインが出た。


「さて、次に雨宮嬢が事務所を辞めた理由を語ってもらおうかな」


「わかりました。今回のお仕事、元々私は嫌で何度も事務所に断ってと言っていました。しかし、事務所は『断ったら仕事が無くなる』と言って、仕事を半ば強制的に受けてしまったのです。勿論ようやく憧れていた芸能界で仕事を貰えるようになったので、仕方なしでも指示に従ってしまった私にも悪い所はあります。ですが、タレントに仕事を強制する事務所なんだとわかったので、退所させて頂きました」


>うわぁ、強制的かよ

>事務所はタレントを守る所じゃないのか?

>芸能界は闇深いな、相変わらず

>芸能界やばすぎ

>いや、この事務所がやばいだろ


 過去に芸能界の闇が報道された事は何度もある。

 そしてその度に芸能界のコンプライアンスは見直され、相当厳しくなった現代においてもまだまだこのような事態が起こってしまう。

 視聴者は芸能界の闇はまだまだ深いと知り、様々な感想を抱いたようだ。


>【速報】スターライトプロダクションの電話回線パンク! 公式HPもサーバーダウン!

>草

>行動早すぎ

>いや、KA☆ZU☆YAの影響力があまりにもでかいし、視聴配信やってる暴露系も山ほどいる。そうなって当然の結果だ


 それに既に行動を起こしている視聴者もいるようだ。

 あまりにも早過ぎである。


「これから暫くは芸能界から離れて、自らを鍛え――んん! 見つめ直していきたいと考えています」


(ん? この娘、今鍛え直すって言いかけなかったか?)

 

 和哉は聞き逃さなかった。

 まさか、筋肉フェチではなく、筋肉の深淵にはまってしまった口なのか?

 和哉の嫌な予感は、がっつり的中するのだった。


(こんな可愛い女の子がマッスルになるの、嫌なんだけど!!)


 結衣の容姿は、和哉のモロ好みである。

 実は密かに彼女のグラビアは全て集めており、表情に出さないだけで熱心なファンである。

 そんな彼女が、筋肉質になるのは到底許容できない。


(おい、君達のせいでまた深淵にはまった奴がいるぞ!! 責任とれよ!!)


 和哉は筋肉ダルマな双子に恨みを込めた視線を渡すが、爽やかな笑顔のポージングによって華麗に流されてしまう。


「とりあえず、今回の配信は短いけど、ここまでにしようと思う。雨宮嬢の体調も万全じゃないし、警察はもう充分な証拠が揃ったらしいからな。警察の方々、大丈夫ですよね?」


 和哉がカメラ外にいる警察に確認を取ると、無言でOKサインを出す。


「うん、大丈夫らしいから、これで配信は終わりにするぜ。皆、短いのに観てくれてありがとうな! また配信する時はSNSで告知するから、フォローも忘れないでくれよ? それじゃあな!」


 こうして、和哉の配信は終了した。

 視聴者数は二十万人となり、SNS上でも拡散される形となり、非常にホットなニュースとなっていった。







 さて、事件の加害者達の末路を紹介しよう。

 まず、今回の収録で関わったプロデューサー含めたテレビクルーは、全て逮捕された。

 探索者法という法律に記載されている『ダンジョン内で意図的に傷害を起こした場合、若しくは強制的に囮にした場合、懲役三十年または悪質な場合は死刑』というものがある。

 今回はこの法律に抵触しているのだが、悪質ではあるが被害者の命が助かっている為、プロデューサーは懲役四十五年、テレビクルーはほう助したと判断され懲役三十年が言い渡された。

 そしてテレビダンジョンに関しては、政府から放送権が二年停止を言い渡された。

 これによりテレビダンジョンは二年間、一切のコンテンツ放送が出来なくなってしまったのだ。

 元々視聴者が少なかったテレビダンジョンは、スポンサーからも見放された事によって事実上の倒産となる。


 そして結衣に今回の仕事を強制した《スターライトプロダクション》だが、非常に厳しい状況に置かれていた。

 和哉の配信をきっかけに、ずっとクレーム対応に追われる形となったのだ。

 しかも所属タレント達も事務所に対して不信感を抱いたのか、多数のタレント達が事務所を退所し、別の事務所に移るという出来事も発生した。

 半年かけてようやくこの大炎上は沈下したのだが、所属タレントは十名を切ってしまっており、弱小タレント事務所に落ちぶれてしまったのだ。

 都度新しいタレントを募集しているのだが、タレントを大事にしない事務所という汚名は消えておらず、全く新人が入って来ない。

 しばらくしたら結衣も戻ってくるだろうと踏んではいたが、当然ながら結衣も退所してしまい、稼ぎ頭がいなくなってしまったのだ。

《スターライトプロダクション》は、細々と活動を続けていたが、風前の灯火である。


 今回の事件により、早急に動いた組織が二つある。

 それは政府と探索者協会だ。

 まず政府は今回の事件を非常に重く受け止め、探索者法の改正に動いた。

 内容としては、今まで書類だけで取得できていた探索者の資格を、面接も交えてより厳密化するというものだった。

 今までは誰でも気軽に探索者になれたのだが、この事件はあまりにも悪質且つ悪用されかねないと判断しての対応なのだ。

 探索者協会もそれに同意して早急に対応。

 面接のみならず、筆記試験も導入した。

 そこにプラスアルファ、もしテレビが企画でダンジョンに潜りたい場合は必ず協会に申請を通さないといけないという法案を要望、政府もそれに同意をして法改正はスムーズに実施された。

 もし、テレビ局が無許可で撮影を行った場合、放送権利を剥奪される処罰が下されるので、今後テレビ局も勝手にダンジョンで取材や撮影は出来なくなってしまったのだ。

 

 今回の対応について、政府と探索者協会の評判はうなぎ登りとなった。

 あまりにも迅速な対応を行ったので、探索者側からの支持が高くなったのである。

 ただ、気軽に探索者になれなくなってしまったので、その点は不満が出ているが協会側はそれを全部無視。

 探索者ファーストで運営している協会として、更に評判を良くしたのであった。

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