第11話 モンスターハウス
未だに何故このような現象が発生するのかは不明なのだが、法律上探索者は
ちなみに
「ゴブリンの
奥から必死に逃げてきている探索者達は、約四名。
そしてここはダンジョンの第一階層。
つまり現状、探索者四名では抑えられない程のゴブリンの数がいて、放置したら地上に溢れ出てしまう状況だという事だろう。
「君達、君達では対処できない程の数なのかね?」
兄者こと彰が逃げてくる探索者に訊ねる。
「も、《モストマスキュラーズ》!? あ、ああ。百匹を軽く越していて、今地上に出て協会に助けを求める所だ!!」
「生憎
「後、一名が引き付け役をやってくれてるからな!」
引き付け役?
兄者と弟者がぴくりと眉を動かす。
まさか、彼等は――
「とにかく、早く逃げろよ!!」
兄者と弟者が問い詰めようとした時、四人の探索者は一目散に逃げて行った。
この状況で引き付け役なんて、無謀すぎる。
恐らくは――
「囮に、させられたか」
「……兄者。俺達はどうする?」
「ふむ……」
兄者は腕を組みながら、和哉の方を見る。
「和哉、さっきの連中はしっかり撮影してあるかね?」
「俺はカメラマンだ、ばっちりだ」
「流石だ。では配信を止めて、君も避難――」
「しねぇよ! 俺が君達を配信に誘ったんだ、しっかり付いて行くぜ」
和哉は一応探索者だが、戦闘能力はほぼ皆無だ。
正直声が震える程怖い。
だが、桂葉兄弟を配信者の世界に誘い込んだのは自分だ。
ならば危険な場所でも、共にいる責任がある。
「……流石だよ、和哉。安心したまえ、我等兄弟が必ず君を守ると誓おう。私の肉体で攻撃を弾き――」
「俺の腕と脚で、敵を全て薙ぎ払うさ!」
「……頼むぜ、二人共」
>うひょぉぉぉ!! なんか熱いぜ!
>え、二人でモンスターハウスに対処するって事? 大丈夫?
>いやいやいやいや、他の探索者も呼んだ方がいいって!!
>流石の二人でもきついだろって!!
コメントで心配する声、熱狂する声で分かれている。
しかし、桂葉兄弟と和哉は、コメントを一切見ていない。
三人は走り出す。
囮にされている探索者を助け出す為に。
しかし――
筋肉ブルトーザーである二人は、とてつもない速さで第一階層の細い通路を駆け抜ける。
そして運動神経が底辺クラスの和哉は情けない声で――
「お、俺を置いて行かないでぇぇぇぇぇ!!」
と叫ぶ。
>KA☆ZU☆YA草
>シリアスが長く持たない定期
コメントでも馬鹿にされていた。
彼女の名は《雨宮 結衣》。
現在十九歳の大学生兼グラビアアイドルだ。
流石グラビアアイドルと名乗るだけあり、豊満な胸を持っているのに体全体は細いという、抜群のプロポーションを持っていた。
今日はテレビ番組の企画で『グラビアアイドルが探索者になってみた』を収録していたのだ。
そしてテレビクルーを引き連れて、本日探索者デビューを果たした。
のだが、同じく探索者デビューを果たしたテレビクルーは、機材を放り出して一目散に逃げた。
いや、彼女に強制的に囮役をさせた。
プロデューサーが、結衣のアキレス腱にナイフを突き刺し歩けないようにし、テレビクルーは我先にと退散したのだ。
ゴブリンは人間の女性――特にスタイル抜群な女性を好む。
好き放題犯すし、サンドバックにして楽しむという残虐性すら持っているのだ。
ゴブリン達が涎を垂らしているのは、丁度いい娯楽が見つかったと喜んでいる証拠だ。
「……いや、いやだよぉ」
十七歳で芸能界に飛び込み、鳴かず飛ばずの苦しい下積み時代を乗り越え、ようやく人気が出てきた時だというのに、眼前にはおぞましい死の軍勢が迫ってきている。
これからだというのに、自分の死は確定したようなものだった。
「だから、探索者の企画なんて嫌だって言ったのよぉ……」
何度も反対した。
だが、事務所は「今ここで仕事を断ったら、きっとテレビで使ってもらえなくなってしまう」と考えて、強行したのだ。
あの時、芸能界を去ってでも仕事を断るべきだったと、今更ながら後悔していた。
芸能界でもっと活躍したい、その夢を優先した結果がこれである。
笑えない、全く笑えない。
仕事が忙しくて、青春すら碌に経験して来なかった彼女。
恋をする暇すら与えられず、心をすり減らしてまで人気を勝ち得たのだ。
その末路がこれとは、悲惨である。
だが、生きたい。
ここで死ぬ訳にはいかない。
結衣は立ち上がろうとする。
が、アキレス腱がナイフで切れてしまい、あまりの痛さに地面に倒れ込む。
「あああああああああっ」
激痛に耐えられず、脚を抱え込んで悲鳴を上げてしまう。
人生で一度もこのような痛みを味わった事がない結衣は、目からぼろぼろと涙が溢れ出る。
心の中では逃げなきゃと思っているのだが、身体は痛みに耐えきれずに動いてくれない。
そしてゴブリン達はもう、後十メートル程の距離まで迫っていた。
「いやだ、いやだいやだいやだいやだいやだいやだ!!」
必死に這いつくばって逃げようとするが、あまりにも遅い。
間違いなくこのままでは好き放題されてしまうだろう。
ゴブリンの下品で汚い笑い声が聞こえる。
自分ではどうしようもない状況だ。
なら、一縷の望みに賭けて、叫ぶしかない。
「だれか、だれかたすけてぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!」
ゴブリン達は既に結衣の眼前にいて、手に持った棍棒を彼女の脳天へ振り下ろそうとしていた。
もう、ダメだ。
結衣は目をぎゅっと閉じた。
「マッスルぅぅぅぅっ!!」
誰かが奇妙な言葉を放ちながら、ゴブリンと彼女の間に割って入り、ゴブリンの棍棒による振り下ろし攻撃を受け止めた。
結衣はゆっくりと目を開けると、思わず「……あへ?」という言葉が漏れてしまう。
自身の眼前に広がっている光景は、黒いブーメランパンツのみの筋肉ムキムキマッチョマンが、ボディービルで見かけるポーズ――
自分達の武器による攻撃を裸で受け止め、武器すら破壊されたゴブリン達は戸惑う。
そりゃ戸惑うだろう。
助けられた結衣すら戸惑う光景なのだから。
直後、もう一人の筋肉ムキムキマッチョマンが、丸太を思わせる程の太い腕でゴブリン達を薙ぎ払った。
「ふん~~~~っ!!」
ゴブリン達が悲鳴を上げて吹き飛ばされる。
そして二人は結衣に近付き、爽やかな笑顔でこう言った。
「「大丈夫かい、お嬢さん?」」
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