第10話 さらっと言う、ダンジョンの真理
「和哉は聞いた事がないか? ダンジョンに満ちている魔素の特性を」
「えっと、確か――魔素はどんな物質も通過するけど、意思に反応して体内に留まるから探索者は超人になるってやつだよな?」
和哉は流石ダンジョン情報を配信する配信者で、魔素の事を充分に理解している。
兄者も満足そうに大きく頷く。
「そうだ。つまり、強い意思を抱かないと、我々のような肉体になれないのだ」
兄者が解説している背後で、弟者が笑顔でサイドチェストをしてポージングしている。
いちいち背景が五月蠅いし暑苦しい。
>弟者がうるさくて話が耳にはいらんwww
>えっと、つまり何かしら信念がないと身体は成長しないって事?
プロボディービルダー 梶原健司→\50000>質問です。その強い意思というのは願望でしょうか?
突如ピコンと音が鳴る。
見ると、視聴者がスーパーチャット、略してスパチャをくれたようだ。
スパチャとは、お金を支払う事で他の視聴者のコメントより目立つので、配信者にコメントを拾って貰いやすくなるのだ。
つまり、スパチャをくれた視聴者は、五万円を払ってでも知りたい情報だったようだ。
「兄者、視聴者が強い意思というのは願望なのか? って質問が来てるけど」
「その通りだ。こうなりたい、ああなりたい。そういう願望を抱くと魔素が反応し、肉体を改造する――と私は考えている。剣で強くなりたいという思いを抱けば、剣を振るのに最適な肉体になるし、格闘で強くなりたいと願えば、最適な肉体に変化するだろう」
「成程ねぇ……。確か魔素が意思に反応して肉体を改造するっていうのは、未確定情報だった気がするけど」
まだ魔素については全貌が解明できている訳ではない。
その為あらゆる説が飛び交っているのだが、あくまで有力とされているのが『意思に反応する説』であった。
「確かに有力な説止まりなのだが、私は確定だと思っている。何故なら、私達兄弟は強い意思を持ってトレーニングをして次の日に、既に筋肉が形成されたからだ」
>は?
>マ?
>えっ、ほんとに改造やんそれ
プロボディービルダー 梶原健司→\50000>その意思というのは、「〇〇の大会に優勝したい」とかでも大丈夫でしょうか?
>ボディービルダーさん、さっきから赤チャ投げすぎてワロタ
(そう言えば、突然こいつらのガタイが良くなった時あったなぁ。中学の時だっけ)
和哉は中学から桂葉兄弟と交流がある。
この二人は突然体躯が大きくなった事があり、聞いてみたらダンジョンでトレーニングを始めた、という事だった。
「おっと、またスパチャありがとうございます! 兄者、また質問が来たぞ。この大会に優勝したいという願望でいいのか? って質問だけど」
「ふむ、それではダメだ。あくまで魔素が反応するのは『己の肉体をどのようにしたいのか』等の自身の肉体に関する意思のみに反応するようだ。あまりにも漠然としている意思だと、魔素は反応してくれない」
プロボディービルダー 梶原健司>成程……大変参考になりました、ありがとうございます。これで僕はダンジョンに旅立てます
>旅立つなww
>留まれwwwww
「また一人筋肉の深淵に誘われたか……。筋肉とは、業が深い」
「……深いのか?」
筋肉の良さが全く分からない和哉にとって、筋肉の深淵がどういうものなのか、そもそも筋肉は号が深いのかも理解できない。
そして兄者の後ろでは弟者が気絶しているゴブリンを使って筋トレをしている。
が、表情は「こいつじゃ物足りない」と不満が表に出ており、仕方なくトレーニングを続けていた。
>弟者不満げで草
>兄者がずっと仁王立ちで説明している中、弟者がひたすら筋トレしてるの草なんだが
>普段何で筋トレしてるんだ、この双子……
「とにかく、肉体を作るなら最初はゴブリンから始める事をお勧めしよう。そして慣れてきたら、一度これを試してほしい。弟よ、ゴブリンを目覚めさせてくれ」
「ん? わかったぜ兄者!」
弟者は、兄者に向かってサムズアップをした後、ゴブリンの眉間に軽くデコピンをする。
が、このデコピンはただのデコピンではない。
音が、非常に重かったのだ。
そのせいでデコピンでゴブリンの頭部を吹き飛ばしてしまい、気絶したまま絶命したのだった。
デコピンで弾け飛んだ頭部は細かい肉片となり、とてつもないスプラッタな映像となってしまった。
「……筋トレしてたから、力加減ミスっちまったぜ。HAHAHA!」
「まぁそういう日もあるな、HAHAHAHAHA!!」
笑ってごまかす二人。
だが、コメント欄は阿鼻叫喚。
仕方ない、グロ配信が唐突にやってきたのだ。
>なんてものを見せやがる……
>といれいてくる
>ごめん、吐いた
>唐突にやめてくれ
>ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ
プロボディービルダー 梶原健司>デコピン一発で頭部を吹き飛ばせる程の筋肉……嗚呼、素晴らしい!!
すると、ダンジョンの奥から誰かの叫び声が聞こえた。
「ゴブリンの
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