第9話 ゴブリンで鍛えよう! 其の二
「皆、ある程度分かっていると思うが、ここで魔物を倒してしまうと、死んでから三十秒前後で魔石化して消えてしまうのだ」
魔物は本当に不思議生物で、魔物は死ぬと三十秒前後は死体が残るが、過ぎると魔石となって跡形も無く消えてしまうのだ。
これは長く研究されているが、解明されていない。
「死んだら消えるのならば、気絶させればいい。我等兄弟はその結論に至った」
>いやまぁそうだけどw
>普通ゴブリンは気絶させようなんて思わないw
>いや、そもそもダンジョンでトレーニングしようなんて思わないな、普通w
「とにかく気絶をさせたら、後はトレーニングだ。もし腕を鍛えたいのなら、ダンベルカールから始めるのがお勧めだ」
ダンベルカールとは、本来ダンベルを両手に持って肘の一を固定し、上半身を反らす事無く肘をまげてダンベルを持ち上げるトレーニング種目である。
だが、ダンベルじゃない。
手に持っているのはゴブリンだ。
弟者は実演をするのだが、絵面が酷い。
ゴブリンの毛が生えていない頭部を鷲掴みし、そして肘を曲げてトレーニングをしている。
白目を剥いて気絶しているゴブリンの表情をカメラに向けているので、もうどっちが魔物かよくわからない絵面である。
>絵面よwwwww
>何だろう、ゴブリンが蹂躙されている人間側に見えてくるw
>昔やってた、進撃のなんちゃらってアニメの敵側だな、この二人w
>どうしよう、ゴブリンが気の毒に見えてきた……
「兄者、俺はもうゴブリンじゃ満足なトレーニングにもならないぜ」
「ふむ、我々は既にゴブリンは卒業しているからな、HAHAHA!」
弟者はひたすらゴブリンを持ち上げ、兄者はそれを見て笑う。
意味不明なカオス空間が広がっており、視聴者も困惑したコメントを流している。
カメラマンに徹している和哉も、絶句している状態だ。
「初心者は弟者のように片手でカールするのは不可能だと思うから、最初は両手で一つの棒を持つようにしてみよう」
「兄者、こうだな!」
「うむ」
兄者の言葉に弟者は自発的に実演して見せる。
まだ気絶から回復しないゴブリンをお姫様抱っこのように抱き、両手を使ったバーベルカールという種目を始める。
約六十キロ前後あるゴブリンを、つまらなそうに軽々とカールしてしまう弟者は、やはり化け物と言っていいだろう。
>俺探索者じゃないからわからないんだけど、探索者ってこれ位楽にできるもんなの?
ふと、視聴者のとあるコメントが、兄者の目に留まった。
「ふむ、『俺探索者じゃないからわからないんだけど、探索者ってこれ位楽にできるもんなの?』というコメントがあったのだが、実は私達は他の探索者と交流が一切ないのでわからないのだ。そこら辺は和哉が詳しいと思うのだが、どうなのだ?」
「ん? う~ん、例えば大剣を得物として使っている奴は力があって、多分ゴブリンと同じ位の重さのやつを片手で触れる探索者もいる」
「ほほぅ、それは凄いな!」
「だけど、そんなのはごく一部で、大半は両手で武器を振っている。威力も出るしな。だから探索者全員がこいつらみたいな怪力って訳じゃないな」
流石はダンジョン情報発信系Yo!Tuberである和哉、そこら辺の事情は把握済みである。
「ん?」
すると、和哉がある事に気付いた。
バーベル代わりにされているゴブリンが、意識を取り戻す傾向が見れたのだ。
弟者はトレーニングに夢中になっていて、気が付いていない。
いくら二人が相当鍛えているからと言って、ゴブリンの不意打ちを喰らったらダメージを負うかもしれない。
和哉は咄嗟に叫ぶ。
「おい、ゴブ――」
「ふん」
「ぴぎゃっ!?」
「……へ?」
和哉がゴブリンが目覚めようとしている事を指摘しようとしたが、弟者は彼の言葉を最後まで聞く事無くゴブリンの頭を再び鷲掴みし、そのままの状態で目に見えないジャブを一回放った。
被害者であるゴブリンは、ジャブの影響で発生した衝撃が脳を激しく揺さぶり、短い悲鳴を上げて再び気絶してしまったのだ。
あまりの光景に情けない声を出してしまう和哉。
「……ちょっと脳への衝撃が甘かったのかもしれないな。俺もまだまだ精進が足りないぜ」
「そうか? 私がやると頭部が吹っ飛んでしまうからなぁ。充分だと私は思うぞ?」
「いや、そこで慢心してはダメだぜ兄者! 俺はもっと上を目指す!」
「素晴らしい意気込みだ、弟よ!!」
>なんだこいつらwwww
>なんだこいつらwww
>wwwwwwwwwwwwww
>てか、あのパンチが全然見えなかったんだけど。一瞬ゴブリンが消えたかと思ったくらいだ
>いやいやいやいや、俺は探索者だけどあんな早いジャブ打てねぇよ
コメントでは二人の有り得ない行動に、非常に賑わいを見せている。
が、この筋肉ダルマ達は視聴者を置き去りにして、トレーニングに励んでいる。
「もし下半身を鍛えたいのなら、バーベルを担ぐような形でゴブリンを持ち、スクワットをやるといいぞ!」
「負荷が丁度いいんだよなぁ!」
「そうだ、これからはゴブリン先輩と呼ぶか。私達も最初はお世話になったしな!」
「それはいいな、兄者!!」
>ゴブリン先輩てwwwww
プロボディービルダー 梶原健司>ゴブリン先輩ですね、勉強になります!
>梶原さんが何か怖いんだが
>筋肉に魅入られてしまっているな
>筋肉、怖い
二人のトレーニング姿をカメラに収めながら、和哉はふと気になった事があった。
確かにダンジョンで戦闘を行ったりすると、ダンジョン内に満ちている魔素が体内に留まり、超人へと肉体を改造する。
だが、和哉は様々なダンジョン情報を収集しているが、そこまでの筋肉量を誇る探索者は一度も聞いた事も見た事もない。
その為、二人に疑問を投げかける事にした。
「なぁ二人共、本当にその筋トレだけで二人みたいな身体が手に入るのか?」
「ん? 無理だな」
「え、無理なの!?」
>無理なんかい!!
>今まで見ていたトレーニングは、なんだったの……w
>時間の無駄だった?
プロボディービルダー 梶原健司>そんな……もうダンジョンに向かうつもりでしたよ?
>梶原さんwwwwww
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