第8話 ゴブリンで鍛えよう! 其の一


「よっす、皆! ライブ配信は観れているかな? 音は大丈夫か?」


 彰と陽介、そしてカメラマンに徹する和哉は三人で既にダンジョン内に入っており、早速ライブ配信を開始した。

 既に視聴者数は五千人を上回っており、デビューしたての配信者とは思えない視聴者数である。

 コメントも一気に流れていく。


>みれてるよ!

>待ってました!

>遅いぞ

プロボディービルダー 梶原健司>早く、早くその肉体を手に入れた方法を!!


 一人筋肉という深淵を見ている方からの熱いコメントがあるが、とりあえずスルーして進行に徹底する。


「皆待たせてしまったな! 今日の配信の内容は、『みんなで鍛えよう! ダンジョン内での筋トレ紹介!』だぜ! 皆も知っての通り、ダンジョン内には《魔素》という謎の目に見えない物体が充満しているよな?」


 魔素。

 ダンジョン内に満ち溢れている、謎の分子。

 この魔素は物質を通過してしまう性質があるのだが、魔石、生物の体内には留まる性質を持っている。

 そして、原発の数十倍ものエネルギーを、たった分子数個分で生産する事も可能で、人体に留まった場合は人間を超人に変える性質も持っている。

 つまり探索者とは、魔素によって肉体を改造された超人なのである。

 

「つまりダンジョンで筋トレをすれば、素晴らしい結果になる訳だが――魔素は人が抱く感情によって体内に留まるかどうかを見定めている」


 魔素は不思議な事に、人間の感情に反応する。

 強い意志を持つ人間程、優秀な探索者になれるのだ。


「だから、ただ『こうなりたい』程度の感情じゃ、稼げる探索者にはなれないって事だ。もっと言えば、《モストマスキュラーズ》はそれ程の筋肉を手に入れたい程の強い意志があったって訳だ」


 そして和哉は《モストマスキュラーズ》にカメラを向ける。

 すると二人はポージングで肉体を見せつけてきた!


>きたぁぁぁぁぁぁ!!

プロボディービルダー 梶原健司>ああ、何という筋肉! 何というバルク! 素晴らしい、素晴らしい!!

>こんな筋肉を持った探索者なんて、見た事無い

>探索するのに邪魔そうだよな、この筋肉


《モストマスキュラーズ》はポーズを取りながら、「Ah~~~」だの「Oh~~」だの艶めかしい声を出す。


>声よw

>この声BANされるかもしれんなwwwww

>自身の筋肉に酔ってて草

>表情もひでぇw


「さて二人共、まず君達が一番最初にやっていた筋トレを紹介してくれないか?」


「うむ、では私から紹介しよう!」


 和哉が筋トレ紹介を二人に訊ねると、兄者が爽やかな笑顔を浮かべて一歩前へ出る。


「まず最初にやるトレーニングだが、ゴブリンを使った方法を今日は紹介しようと思う!」


「ゴブリン?」


「そうだ。やはり魔物はファンタジー生物でな、ゴブリンはあの成りで体重は五十キロ以上あるのだ」


 ゴブリン。

 よくファンタジーでも登場する、緑色の肌をしており小学校低学年の男子と同じ背丈の小柄な魔物だ。

 そんな小柄な魔物なのだが、どういう訳か見た目以上に重いのだ。

 まるで飢餓に飢えている子供のように、筋肉も外見からはあるようにも見えないので、何故そこまで体重があるのかは一切不明である。


「私達兄弟は、そんな彼等に協力をして貰い、最初は筋肉を付ける為にひたすらに頑張ったのだ」


「うんうん」


 兄者の横で相槌を打つ弟者。


>え、魔物に協力?

>どいうこと?

>イミフ

>しょっぱなからわからんことを言ってきたw


 傍で聞いている和哉も理解できないのだ、視聴者もそんな反応になっても仕方ないだろう。


「とにかく実演した方が早いだろう! 早速一匹お出ましだ」


「おっ、来た来た♪」


 すると、二人の背後からゆっくりと近付いてくるゴブリンがいた。

 相変わらずゴブリンはにやにやとした表情を浮かべている。

 彼等にとって人間は獲物なのだ。

 そしてゴブリンには、人間の強さを測る程の知能は、残念ながら備わっていない。

 圧倒的な筋肉量を誇る《モストマスキュラーズ》を目の前にしても、ゴブリンは獲物だと思って嘗めている。


「弟よ、頼む」


「任されたぜ、兄者!」


 弟者は足にぐっと力を入れて、地面を蹴り上げた。

 その際に盛り上がる大腿四頭筋は非常に素晴らしい!

 地面を蹴って、一瞬でゴブリンとの距離を詰める弟者に、ゴブリンも「あっ、こいつヤバい奴だったわ」と気が付いた様子。

 しかし、もう遅い。


「ふんっ」


 弟者は丸太を思わせる太い腕をコンパクトに振り、拳をゴブリンの顎にわざと掠める。

 それだけでゴブリンの脳は激しく揺れ、白目を剥いて気絶してしまった。


「終わったぜ、兄者!」


「流石弟だ。私がやってしまうと、彼等の頭が吹っ飛んでしまうからな」


「兄者は腕の繊細なコントロールは苦手だからなぁ」


「「HAHAHAHAHAHA!」」


>えっ、気絶させてどうすんの?

>なんで気絶させたし?


 コメントも二人の行動に対して理解出来ていないようで、混乱していた。

 和哉もその一人である。


「さて、ゴブリンに協力を願い出て、許可された訳だが――」


「ただ力でねじ伏せただけぇぇぇぇぇぇっ!!」


 協力とは名ばかりの力業に、和哉は思わず大声でツッコミを入れてしまった。

 

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