第7話 配信当日
そして翌日。
彰と陽介、そしてカメラマンの和哉はとある建物に来ていた。
この建物は《ゲートハウス》と呼ばれており、ダンジョンの入口を封鎖するように建設されている。
《ゲートハウス》は日本に設立された《探索者協会》が管理しており、探索者ではない一般人が入り込まないように、監視兼探索者の受付の意味がある。
探索者はダンジョンに潜る際に必ず受付を行ってゲートを通過しないといけない。
これはダンジョンを潜った探索者が戻ってこなかった場合、すぐに救援依頼を出す為でもあったりする。
いくら危険と隣り合わせの職業と言えど、探索者は日本にとっては貴重な人材である。
なるべく犠牲者を減らして、エネルギー源である魔石を集めて行って欲しいという考えもある。
「よし、じゃあ二人共準備をしてくれ! 俺がいると正体がバレてしまう可能性があるから、一旦ここでお別れだ。変身し終わったら受付前のロビーで集合しよう」
「「わかった」」
彰と陽介は和哉と別れ、受付に向かう。
その最中、他の探索者から――
「なんだあのもやし二人は。ヒョロすぎんだろ」
「ぷぷ、何あの二人。本当に探索者なの?」
「ゴブリンに瞬殺されそう」
と、嘲笑している声が聞こえる。
だが、二人は気にしない。
((お前等、今の俺達は世を忍ぶ仮の姿なんだぞ))
心の中でほくそ笑みながら、堂々と受付に向かって歩いていく。
だが、彰と陽介は同時で足が絡んで転んでしまう。
その姿を見て、どっと笑いが起きる。
((ちくしょぅ、封印すると筋肉を無理矢理抑え込んでるせいか、上手く体が動かせないんだよなぁ!!))
これが、スキル名 《筋肉封印↓》のデメリットであった。
何故下矢印が付いているのかと言うと、テンションが下がっている気分をスキル名の段階で表しているらしい。
ギャグみたいな存在は、スキル名までギャグである。
転んだ恥ずかしさを誤魔化しながら、桂葉兄弟は無事受付に到着する。
「「こんにちは、千尋さん」」
「はい、こんにちは。桂葉兄弟」
にっこりと笑顔を見せてくれるのは、真中 千尋という二十代前半の女性である。
明るく染めた茶髪にポニーテール、小柄ながら素晴らしい胸部を持っている為、ファンクラブが存在する受付のお姉さんだ。
探索者協会で働いている人間は《モストマスキュラーズ》の正体を知っており、千尋も当然ながら桂葉兄弟の真の姿を知っている一人だ。
「今日は配信デビューね。私は仕事だからリアルタイムでは見れないけど、後でしっかり観るからね」
「「はい、ありがとうございます!」」
「流石双子、相変わらず息ぴったりね」
彰と陽介は探索者の証である証明書を提示する。
千尋はそれを受け取り、専用のパソコンのディスプレイに証明書をかざす。
すると証明書に内蔵された、二人の情報を刻み込まれた魔石が反応し、ディスプレイが魔石内にある情報を読み取る。
そしてディスプレイに二人の情報が映し出される。
これで受付完了である。
「はい、オッケーですよ」
「「じゃあ更衣室に行ってきます!」」
「また着替え終わったら受付に来てね」
「「はーい」」
彰と陽介は返却された証明書を受け取り、更衣室に向かう。
基本的にダンジョンへ潜る際の武具は、ホームとなる《ゲートハウス》で自身専用のロッカーを借りて、その中に保管しなくてはならない。
非常時以外は、武具を地上へ持ち出すのは法律で禁止されており、破ると銃刀法違反で逮捕されてしまう。
前科持ちとなると、探索者の資格も剥奪されてしまうので、探索者は基本的にこの法律を守っている。
だが、二人は専用のロッカーが非常に小さい。
何故なら着ている服を仕舞うだけでいいのだから。
彰と陽介は、カーテンが付いた脱衣室へ向かう。
そして入る前に誰も見ていないかを確認し、素早くカーテンを開けて入り、素早くカーテンを閉める。
手早く着ている服を脱いでブーメランパンツ一丁になる。
露出した肉体は、本当にもやしと言われても仕方ない程筋肉がない。
だが――
「「《
二人がそう言うと、全身が眩く発光する!
光り輝くシルエットは、もやしの姿からぼこり、ぼこりと筋肉が膨れ上がっていく。
絵面は何度見てもホラーのそれである。
発光が収まると、真の姿である《モストマスキュラーズ》へと変身完了である。
「Ah~~~~、この解放感は、病みつきになるな!」
「全くだぜ、兄者!!」
そして性格も各々変わる。
これが本来の二人の性格なのだ。
ちなみに二人が防具等を身に付けない理由、それと普段は筋肉を封印している理由。
それは非常に単純で、あまりの素晴らしい肉体にサイズが合わず、普段着すらサイズが合わないのだ。
日常生活でもブーメランパンツ一丁はただの露出狂で警察案件である。
肉体を作り上げてどうしようと考えていた時、ダンジョンは応えてくれた。
二人に筋肉を封印するスキルを与えてくれたのだ。
目元を隠す仮面を装着し、脱衣室から堂々と出る。
着ていた服を丁寧に折り畳み、自分達のロッカーに服を仕舞う。
更衣室の出口へ歩いていく際、すれ違う探索者達に声を掛けられる。
「《モストマスキュラーズ》だ! リアルタイムで見るのは無理ですけど、必ず探索終わった後に見ます!」
「《モストマスキュラーズ》様、素敵な筋肉だわぁ」
「いつか一緒に探索しようぜ!」
彰と陽介――もとい、兄者と弟者は笑顔で手を振って応える。
さながら、ハリウッド俳優かのように。
声を掛けてきた探索者、実は先程ロビーで二人を馬鹿にしていた探索者である。
まさか《モストマスキュラーズ》の正体は、先程まで自分達が馬鹿にしていたもやしであるなんて、知らないであろう。
いや、知る事なんて出来る筈がない程の変わりようなのだから、仕方が無いだろう。
更衣室を出て、真っ先に千尋の元へと向かう二人。
「千尋さん、それでは私達は探索に行ってくるよ」
「また帰りも受付よろしくぅ!」
性格ががらりと変わった兄者と弟者は、千尋に爽やかな笑顔で言った。
そして当の千尋は――
「は、はひ。いってらっしゃいませぇ」
と、内股になって言葉も噛み噛み。
落ち着きも無い様子だ。
いつもこの姿で声を掛けると、千尋はこのようになってしまうのだ。
謎である。
最初はあまりにも不自然で酷く心配したが、今は慣れたもので「彼女はそういうものだ」と二人は納得していた。
《モストマスキュラーズ》が受付を去った後、千尋はその場でぺたりと崩れるように座り込んでしまった。
(……ああ、イッちゃった♡)
何処へイッたのかは、想像にお任せしよう。
真中 千尋は重度の筋肉フェチである。
最近の
しかし、《モストマスキュラーズ》のせいでそれでは物足りなくなり、挙句の果てには彼等を見るだけで発情してしまい、昇天してしまう体質になってしまったド変態である。
もう一度言おう、重度の筋肉フェチで小柄巨乳で、ド変態である。
(ダメ、その内あの二人を襲っちゃいそう♡ ううん、きっと主導権を簡単に取り返されてあの二人に――ああっ♡♡)
その前に《モストマスキュラーズ》は未成年なので、そんな事をしたら千尋が警察にお世話になってしまうという前提は、彼女の中には既にない。
どうやって既成事実に持っていこうか、虎視眈々とそのタイミングを見計らっているのである。
行きつけのマッスルバーでも物足りなくなってしまったので、もう二人に責任を取ってもらおう、そうしようと謎の決意をする千尋であった。
そしてド変態な彼女を見ている同僚はというと――
(あの子、メッチャ可愛いのに筋肉フェチのドスケベだからなぁ……。後でどうせ下着を替えにトイレに行くんでしょ)
と、ドン引きであった。
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