第6話 ネットの反応を見た和哉
「ちっ、早々に《地理教》の連中に目を付けられたか」
今回の《モストマスキュラーズ》の仕掛け人である和哉は、トゥイッターや動画のコメントを見て悪態を付く。
《地理教》。
ダンジョンが発生した時から始まったと言われる宗教で、現在は日本国内最大と言われるまで成長していた。
しかし、蓋を開けてみたらたちが悪い。
自分達に敵対するなら拉致監禁、酷い時は殺人も密かにやってしまう程だ。
そんなイカれた宗教なのだが、日本国内で余裕で二百万人以上の信者がいるという、これまたイカれてるだろうと思わせる程の人数を抱えていた。
彼等は『ダンジョンは神が与えた試練なので、神聖なものであるべきだ』という教えを元に活動をしており、信者にダンジョンへ行かせている。
その目的は一つ。
トップクラスの探索者と同じ実力を持つ信者を作り出し、それを多数抱え込んで兵隊を作り、国家転覆を狙っているのだ。
ネットの反応で《陰謀論垂れ流しbot》というアカウントがURLを張って証拠提示をしていたが、あながち間違っていない内容だった。
何故和哉がそんな真実を知っているかというと、親戚のジャーナリストが
「杉蔵叔父さん、俺、もしかしたら意外と早く奴等と敵対するかも」
もう少し後になって目を付けられると予想していたのだが、《モストマスキュラーズ》は噂の段階で奴等に目を付けられていた可能性が高い。
危機感を覚えているのは、ダンジョン評論家の佐伯雅子が登場したからだ。
彼女は《地理教》をとても崇拝しており、自身の全てをこの宗教に貢いでいる。
故に行動は過激で、遺った資料によると殺人までは至っていないが、誘拐の実行を平気でやっているらしい。
何故逮捕に至っていないのか?
それは、警察の幹部にも《地理教》の信者がいるからだ。
どうやらもみ消しているらしい。
ならこの資料を白日の下に晒せば終わりではないか?
残念ながらそう簡単な話ではない。
この資料は充分に証拠能力がある。
が、出した所で《地理教》は実行犯である信者に罪をかぶせ、肝心の《地理教》自体への致命的なダメージは与えられないだろう。
「……与えられたとしても、世論が《地理教》に対していい感情を抱かない程度で、解散までには至らない可能性がでかい」
和哉は、その絶好なタイミングを、ダンジョン配信という配信業をしながら狙っている。
そして今、絶対に何があっても、様々な困難を跳ね除けられるだろう双子を配信業に勧誘していたのだ。
勿論心の底から友達と思っている為、利用するような形になってしまうのが心苦しかったのだが、親戚を殺した《地理教》は許せないでいた。
あの双子には申し訳ないけど、利用はさせてもらおう。だが、俺もカメラマンとして同じ危険を分かち合う。
これが、和哉が抱く本当の気持ちであった。
これからもずっと、和哉は《モストマスキュラーズ》のカメラマンをする予定だ。
《地理教》を完全に潰せる、絶好のタイミングを狙って。
「ごめん、本当にごめんな、彰に陽介……。これだけは、こればっかりは、君達を利用してでもやり遂げなきゃいけない。叔父さんの無念を晴らす為に、やり遂げなきゃいけないんだ……。本当ごめん、二人共」
和哉は暗い部屋で一人、襲ってくる罪悪感に耐えながら、涙をこらえていた。
その頃、イカれた双子はと言うと――
「兄者、ついに俺達の筋肉をネットで披露する事になったなぁ!! Fuuuuuu!!」
「そうだな弟よ、私の胸筋に魅了される女子が増えるだろう!! Ah~~~!!」
「俺の上腕二頭筋に魅了されて、モテてしまうかもしれないなOh~~!!」
ダンジョンに潜って、機能停止させたゴーレムを使って筋トレをしていた!
和哉との落差があまりにも酷い光景である!
兄者こと彰は、上を向いてダンジョンで寝っ転がり、ゴーレムを腕の力で上下に動かす《インクラインベンチプレス》を行っている。
これは大胸筋上部を鍛えるトレーニング種目と言われている。
彰はより胸筋を鍛え上げようとしているようだ。
そして陽介は、ゴーレムの腕をお姫様抱っこの要領で持ち、自身の胸元まで近づけてゆっくり下ろすを繰り返す《ハンマーカール》を行っていた。
上腕二頭筋の《長頭》と呼ばれる部位を鍛えられるトレーニングだ。
「ううむ、やはりゴーレムでは物足りなくなってしまったなぁ」
彰がトレーニング強度に不満を持ち始めた。
「そうだな兄者。もう俺にとってはゴーレムは、一キロダンベルと同じ位だぜ」
陽介も不満を持っていたようだ。
「そういえば弟よ、和哉からどのような配信を行うかは聞いているか?」
「ああ、聞いてるぜ。確か『君達のトレーニング方法を配信したい。初回は君達が一番初めにやったトレーニングをお願いしたい』だったな」
「ふむ、最初にやったトレーニングか……。ならば、奴しかいないな」
「そうだな! 本当、昔は大変だったなぁ。当時の俺達、本当もやしだったからな」
「ああ。懐かしいな」
「まぁたまには初心に帰るって事で、いいと思うぜ?」
「うむ、そうだな」
そしてHAHAHAと笑う双子。
厄介な《地理教》に目を付けられたにも関わらず、この二人は平常運転であった。
ちなみにゴーレムの重さは約九百キロと言われており、腕だけでも百キロはあるそうだ。
それをこの二人は、強度が足りないと言う……。
きっとこの二人なら、本当に《地理教》程度何とも思わない、のかもしれない。
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