第3話 封印解除!


『成程なぁ、親父さんがリストラされちゃったか……。まぁ親父さん、良くも悪くも超絶善人だもんな』


 和哉は桂葉兄弟の父を知っている。

 そんな彼から見た総評が、超絶善人。

 しかし悲しいかな、今の時代は実力主義社会。

 既に人柄等で仕事が出来る時代は当の昔に終わってしまったのだ。

 そんな時代で、超絶善人の親父殿が生き残れるかといったら、不可能である。

 桂葉兄弟の親父殿は、競い合ったり蹴落とすといった事すら出来ない人種だ。

 つまり、仕事は人並みに出来ているとしても、もし所属している会社が皆バリバリの仕事人間だった場合は、親父殿は無能と判断されるだろう。

 何とも世知辛い世の中である。


『君達二人は既に知名度はあるから、Yo!tuberになればすぐに収益化できると思う。後は稼げるようになるかは――』


「俺達次第、って訳か」


『その通り!』


 正直兄である彰も、弟の陽介も、身体を鍛えたいが為にダンジョン探索をしていただけである。

 その為配信者等一ミリも興味がないのだが、状況が状況だ。

 やるしかない。


『さて、善は急げだ! これから二人共時間あるか?』


「「あるよ」」


『これまた綺麗にハモったねぇ! じゃあ一通りの装備を持って俺ん家来れる?』


「「今すぐ向かう!」」


『ああ、待ってるぜ!』


 桂葉兄弟は、リストラされて落ち込んでいる親父殿に出掛けてくると声を掛け、自宅を飛び出して和哉宅へ向かう。

 和哉の家は流石超有名配信者と言うだけあり、超豪邸だ。

 和哉は両親が他界しており、豪邸には和哉と、住み込みのお手伝いさんと警備として元探索者が数人住んでいる。

 そんな和哉宅は、桂葉兄弟の家からそこまで遠くない。

 自転車で走らせれば約十分程の距離だ。


 二人は収入源を得る為に、必死になって自転車を漕ぐ。

 そして到着すると――

 

「「相変わらず、でっけぇ」」


 彰と陽介は、ここでも声がハモる。

 一般のご家庭が沢山住んでいる住宅街の中に堂々と存在している、周囲の家より十倍程広い敷地に超豪邸。

 浮いている、かなり浮いている。

 近隣住人と上手くやれなさそうな位に浮いている。


 気を取り直して、彰が門の横にあるインターホンを鳴らす。


『はい、どちら様でしょうか?』


 インターホン越しに聞こえた声は、和哉が雇っているお手伝いさんだ。

 確か四十代の女性で、家族を早くに亡くしているので住み込みで働いている、ちょっと訳アリな人だ。


「あっ、桂葉です。和哉に呼ばれてきました」


『ああ、桂葉さんですね? いらっしゃいませ、どうぞお入りください』


 既にお手伝いさんとは面識があるので、すんなりと通してもらえた。

 広い庭を通って豪邸に入り、そのまま和哉の部屋まで直行する二人。

 何度も来ているので、広い豪邸の中でも迷わない。

 そして、遠慮なく和哉の部屋の扉を開ける。


「「和哉、来たぞ」」


「あのな、ノックはしてくれよ……」


 桂葉兄弟は、結構マイペースなのである。









「とりあえず、君達二人を俺が全力でプロデュースするぜ! 俺は登録者数一千万人の大手になるから、宣伝動画を撮影してスタートダッシュをかけるぞ」


 和哉の言葉に黙って頷く双子達。

 配信業界に関しては全く以て素人なので、もう全て和哉に任せるつもりでいた。


「んじゃ早速で悪いけど、本来の姿・・・・に戻ってくれ」


「了解、脱いだ服はここに置いてもいいか?」


 彰が和哉に訊ねる。

 何故か服を脱ぐ事が前提である。


「いいぜ、さくっと変身してくれ」


「「あいよ」」


 和哉から了承を得た二人は、いそいそと服を脱ぎ始める。

 そして、漆黒のブーメランパンツ一丁という格好になる彰と陽介。

 こうして二人の裸を見ると、本当にもやしである。

 筋肉の「き」の字も見当たらない程、双子揃ってヒョロガリ体型である。

 だが、何故そんな肉体なのか、実は理由がある。

 それは、二人共 《スキル》によって筋肉を封印しているからである。



「「《封印解除パンプアップ》」」


 彰と陽介が揃って言うと、二人の身体がまばゆい光に包まれる。

 この時はヒョロガリ体型のシルエットなのだが、徐々にボコリ、ボコリと筋肉が盛り上がってくる。

 見た目は魔法少女系アニメの変身シーンなのだが、恐らくシルエットがなかったら、人間が醜い化け物に変身するホラーゲームさながらの光景になるに違いない。

 そしてシルエットは段々と世界のボディビルダーが憧れる程の筋肉を身に付けた、《モストマスキュラーズ》の姿へと変わっていく。

 変身が終わると、二人の全身を包んでいた光は無くなり、真の姿となった桂葉マッチョ兄弟が現れたのだった。


「Fuuuuuu、筋肉、大☆解☆放!」


 彰改め、兄者は自慢の胸筋の厚みを見せる《サイドチェスト》のポージング。


「Oh~~~、やっぱりこの姿が一番落ち着くぜぇ!」


 そして上腕二頭筋がキマっている陽介改め、弟者は上腕二頭筋を強調した《フロントダブルバイセップス》を披露した。

 ちなみに何故ポージングをしているかは、長い付き合いの和哉ですら不明である。


(何故かこの双子、元の姿に戻ると性格まで変わるんだよなぁ……)


 筋肉を封印している時の二人は、仲良い人物――と言っても、和哉と父位しかいないが……――以外は人見知りである。

 だが封印を解除すると、彰は何故か一人称が「俺」から「私」に変化し、自身の肉体に絶大なる自信を持っている。

 陽介に関しては一人称は変化しないものの、名前に引っ張られているのかわからんが陽気な性格に変化する。

 まるで二重人格だな、と和哉はしみじみと思うのだった。


「さぁ、ポージングはいいから、さっさと動画撮るぞ!」


 和哉は手を叩き、ポージングで強調された自身の筋肉を見てうっとりしている二人を我に返らせたのだった。


 

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