第2話 大至急、金が必要だ!


 ダンジョンが出現した事により、日本は大きく変わった。

 経済もそうだが、いつまた第二の魔物大災害モンスターパレードが発生するかわからない状況の為、政府は新たな政策を打ち出した。

 それは、小・中・高校の授業の一つとして《戦闘術訓練》を導入する事だった。

 小さい頃から魔物に対抗できる術を身に付けさせ、探索者としての力量の向上、もし探索者にならなくても自衛出来る手段を持たせる。

 こうする事で、日本は魔物による被害を大幅に少なくする事に成功したのだった。


 だが、この政策にも悪い点があった。

 それはいじめが倍増してしまった事だ。

《戦闘訓練》は当然ながら、子供によっては向き不向きが出てくる。

 その不向きだった子供が、向いていた子供からのいじめの対象となってしまい、命に係わる重傷を負うケースが増えてきた。

 頭を悩ませた政府は、苦渋の決断として少年法を廃止。

 いじめの度合いによっては殺人未遂として年齢関係なく逮捕出来るようになり、いじめを隠ぺいした学校も同様に殺人未遂ほう助として関係者を逮捕出来るように法律を変えていった。

 この法律変更のおかげで随分といじめは減ったが、完全撲滅には至らなかった。


 










 東京都渋谷区にある進学校、私立日向ひなた高等学校。

 生徒数五百人以上という、東京屈指の生徒数を抱える、二〇〇〇年設立という比較的最近出来た学校だ。

 しかし日向高等学校は学力だけでなく、スポーツや探索者育成にも力を入れており、非常に人気のある場所だ。

 学科は有名大学へ進学を目指す《進学科》、古き良きスポーツで活躍するプロ選手を目指す《スポーツ科》、そしてより強い探索者になる為の専門的なトレーニングを受けられる《探索者科》の三つとなっている。

 日向高等学校は、どの学科からも有名な人物を輩出しており、名門校としても名高い。

 が、今一番活気に溢れている学科は、やはり《探索者科》だ。

 最低限の学力を身に付ける授業もあるのだが、《探索者科》は肉体トレーニングと実戦訓練が主だ。

 男子生徒は自信に満ち溢れており、制服の上からでもわかる程に筋肉が仕上がっている。

 女子生徒も筋肉はないにしろ、皆引き締まった身体をしており、非常に健康的なスタイルである。

 その中で、ひと際目立つ二人の双子がいた。


 皆ガタイが良い中で、この二人だけはストレートに言ってもやし。

 ひょろすぎるのだ。

 何故この二人が《探索者科》にいるのかは不明だが、これでも二年生である。

 よく落第せずに二年生になれたものだとは、クラスメイト談。

 いじめられてはいないものの、あまりにも場違いすぎる為かほとんどいない者扱いされていた。


 兄の桂葉かつらば あきらは燃えるような赤髪をしていた。

 弟の桂葉 陽介は海のような青い髪色をしていた。

 

 彰と陽介は、自分の席で顔を隠すようにして突っ伏して寝ていた。

 いや、周りがあまりにも煩くて寝られないので、寝ているふりである。

 煩いというのも、別にクラスメイトが大声を出しているとかそういう理由ではない。

 彼等が話す内容のせいで寝られないのだ。


「ねぇねぇ、トゥイッター見た?」


「見た見た! 《モストマスキュラーズ》が魔物を排除してからポージングの練習してたんでしょ?」


「しかもそこ、魔物大集会モンスターハウスだったらしいのよ。何と百匹規模の!」


「嘘でしょ、それ知らない!」


「知り合いの探索者が偶然見たらしいんだけど、爽やかな笑顔を浮かべながら拳一つで五分程度で掃討しちゃったんだって」


「流石 《モストマスキュラーズ》だわぁ」


「しかしあの二人、同じ男としてあの肉体は憧れるぜ」


「ええ? 俺はあそこまで筋肉はいらねぇなぁ。目指すは細マッチョさ!」


「わかってねぇなぁ、細マッチョになったって、戦闘で役立つ訳ねぇだろう!」



 クラスメイト全員が、今話題の《モストマスキュラーズ》の話をしている。

 半年前から急に現れた、謎多き探索者二人組。

 どうやら双子でボディビルダーが裸足で逃げ出す程の肉体を手に入れているという事位しか彼等の事はわかっていない。

 そして、誰もわかっていない。

 話題の《モストマスキュラーズ》が、自身のクラスメイトの中にいると。

 

((俺の周囲で俺等・・の話をしないでくれ、恥ずかしいだろ!))


 机に突っ伏しているもやし二人。

 この二人こそが、話題の《モストマスキュラーズ》である事を、誰も知らない。


 いや、クラスメイトの中で一人だけ知っている存在がいる。


「よっす、お二人さん♪」


「「なんだ、和哉か」」


「二人仲良く悪態付かないでくれるかね……」


 中森 和哉。

 彼は全世界でやっている動画サービス《Yo!Tube》の超有名配信者である。

 超絶イケメンで頭も良いが、運動神経は抜群に悪い癖に《探索者科》にいる。

 それは何故か。

 彼は、Yo!Tube内で『ダンジョンの探索動画配信許可』の告知がされた瞬間、探索者情報を逐一配信するようになった《探索者界隈紹介系Yo!Tuber》なのである。

 和哉は《探索者科》にいる生徒と仲良くなり、ダンジョンに連れて行ってもらってダンジョン内の実情を動画に収めているのだ。

 探索者というハイリスク・ハイリターンな職業の実情を、リアルに撮影し紹介する彼の現在登録者数は一千万人を突破しており、収入もえげつない。

 そんな和哉は、桂葉兄弟の友人であり、《モストマスキュラーズ》の正体を知っている存在であった。


「でさ、二人共♪ そろそろ俺のプロデュースを受ける気になった?」


「あれだろ? あっちの・・・・俺達をYo!Tuberにしようってやつだろ?」


「そうそう、それそれ♪ 君達はトゥイッターを見ていないからわからないかもしれないけど、君達が活動する度にトレンドに上がるんだぜ? 話題性も抜群、収入も得られる! すっごくお得じゃない?」


「「お得かぁ?」」


「お得だってばよ♪ だからさぁ、一度やってみないかい?」


「「パス」」


「流石双子、綺麗なハモりだねぇ……」


 和哉は常日頃から、桂葉兄弟をストリーミングの世界へ誘っていた。

 が、双子の目的は別に金を稼ぐ事ではない。

 より強靭な肉体を手に入れるべく、鍛錬する為だけにダンジョンへ潜っているのだ。

 その為二人は和哉から誘われる度に断っていたのだった。


「まぁ気が変わる可能性もあるだろうし、もしやりたくなったらいつでも連絡してよ♪」


「「そんな日は来ないって」」


 今日も穏やかに学校生活を過ごしていった。





 ――が。


「……すまない、彰に陽介。父さん、リストラされてしまった」


「「Oh……」」


 学校から帰宅してみたら、男手一つで育ててくれた父から告げられた非情な現実。

 彰と陽介は向き合う。


(弟よ、すぐに和哉に連絡しよう)


(うん、そうしよう)


 アイキャッチだけでやり取りを終えた双子は、急いで自分の部屋へ行って和哉に連絡を取る。


「「大至急俺達を売れっ子Yo!Tuberにしてください、お願いします!!」」


『必死すぎワロタ』


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