居場所

 始めは仕方がないという気持ちで図書館に行った。

 学校にも家にも居たくなかったが、中学生が長居できる場所は限られている。図書館ならば、誰からも責められない。

 読書が特別好きという訳ではなかった。流行っていた本は友達と話を合わせるために読んでいたが、積極的に読書をしたことはなかった。


 しかし、思った以上に図書館は心地が良い場所だった。学校の奴らと会うこともなかった。

 適当に手に取った本を集中して読む。その間だけは、色々なことを忘れ、没頭することができた。

 色々な本を読むことでわかったことがある。大きな賞を取ったり、流行したものよりも面白い本がたくさんあるということだ。

 それはおれの基準だから、他の人は違うかもしれない。しかし、本棚の隅でひっそり忘れ去られたような本の言葉の方が心に響くこともあった。

 本の中には、様々な人がいて、様々な人生があった。心が満たされるような幸せな物語があれば、不幸で絶望的な物語もあった。

 読書をしている限り、おれは一人ではなかった。おれの周りにいる人間よりも、本の方がよっぽど温かいような気がした。となり町の図書館に行ったりもした。

 次第に、図書館以外でも本を読むようになった。

 本を買うお金が欲しかったが、親に頼めるような状況ではなかったので、渡される食費などを削り、本を買う金にした。

 授業中も勉強をせず、読書に熱中した。注意する教師はいなかった。

 自室も本で埋め尽くされるようになった。本はおれを守ってくれるシェルターのようだった。


 中学3年生の秋頃、父から高校生になったら一人暮らしをするように言われた。

「前も言ったように世間体のことがあるから、高校までは面倒を見る。でも、家からは出てくれ。必要最低限のことはするが、それ以外では家に帰ってくるな。生活できるだけの仕送りはしてやる」

 冷たい声で言う父の声におれは寂しさを感じなかった。一人暮らしになった方が本をたくさん部屋に置くことができるだろう。それが嬉しかった。

 他県に行き、寮で暮らすことも考えたが、あまり土地勘のない地域に住む勇気はなかったし、寮だったら本を読む時間も場所も制限されてしまう。

 おれの通っている中学は中高一貫校だ。そこから抜ければ、やつらと一緒になることはないだろう。

 学校の近くにはいつも通っている図書館もある。


 高校に入っておれは決めた。誰にも心を開かないと。信じてしまったら、裏切られた時、辛くなる。信じられるのは本だけだ。

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