第一部終章:疑問─ネクストステージ─
「モヤモヤするな」
長谷川市に位置する大きな病院。
そこはユウリとキョウコが入院する病院であり、タダユキはユウリの見舞いの為に来ていた。
そして病院の敷地内にある小さな木製のベンチ。
入院している者の憩いの場である、この場所は今この場で患者たちは見当たらない。
代わりにいるのは、関町タダユキと愛衣蔵ハルカ。その二人。
若干の距離を取りながら、二人はベンチに座っていた。
「あなたは見たのですね、レイの故郷と思わしき場所に」
「あぁ、辺鄙な場所だったよ。しかし神様がいるって言われたら、俺は信じてしまうな。つまりそういう場所だ」
「関町さん、あなたもかなりの痛手を受けたと聞きましたが……大丈夫だったのですか?」
「俺も驚いたよ。あそこに行って光を浴びたら、あの怪物にやられた傷もたちまち元通りってやつだ……弊害もあるみたいだがな」
そう言ってタダユキは何か示すように自分の額を人差し指でツンと差した。
「……レイの方は大丈夫なのか?」
「あの子はいつも通りですよ……心配になるほどに」
「そうか」
ハルカはたまらず不安でたまらなかった。
しかしタダユキもそれは同じらしい……不安の種類は違うが。
タダユキは顳顬を指で描きながら、話を続けた。
「それで?俺に話があるから、わざわざ呼び出したんだろう?」
「……えぇ。関町ユウリさんが入院されてる時に申し訳ありませんが」
「仕方ないだろ。で?話ってなんだ?」
「……昨夜のホテルの事後報告です」
「……まさか怪物がまだいるってわけじゃないだろうな?」
「…………」
ハルカは一瞬、口を閉じた。
まさか本当に怪物がいるのだろうか?もしくはその火種があるのか?
その答えは……後者。
「一部、行方不明者が出ています。取り急ぎ救助者リストと例の巨大怪物の犠牲になった方のリスト、それを滞在者のリストと照らし合わせたのですが……何度照らし合わせても、滞在者リストに載っている方が見当たらないのです」
ハルカはスマートフォンを上着の内ポケットからスマートフォンを取り出して操作すると、その行方不明者が書かれたリストの画面をタダユキへと差し出す。
タダユキはスマートフォンごと受け取り、それを眺めた。
「…………若い印象を受けるな」
その書かれていた名前に、タダユキはふと思ったことを呟く。
「気付きましたか……?」
「なにを?」
「その行方不明者のリスト、全員10代から20代の青年期の方々なのです」
その言葉にタダユキは鳥肌が立つような、ぞっとした気分になってしまった。
……つまりユウリと同年代、あるいはほんの少し歳の離れた若者たち。
「怪物の目的はユウリだけじゃなかったのか……」
「断定は出来ません。関町ユウリさんを狙う過程でそうしたのか、あるいは両方の目的を果たす為に行動したのか」
「だがあの怪物にそんな知能があるとは思えないがな。あいつはただ攻撃するだけのやつだったからな……」
「つまりは何者かがそうなるように仕向けた」
ハルカの言葉にタダユキは思い出す。
「あいつだ」
「あいつ……とは?」
「あんたも聞いたことあるだろ、レイから。例の白い仮面のやつだ」
「……確かに」
ハルカも昨夜のことは聞いている。
例の白い仮面の戦士(愛衣蔵財団はこの戦士のことを《バルトール》と
呼称することにしていた)が夜の学校に現れたこと。
原初の炎を具現化した怪獣の幻影が街に現れたこと。
そして白仮面の
「やはり、あの白い仮面の戦士を追うことがこの事件を解決する道標となりそうですね……なぜユウリさんや若い方々を狙うのかは分かりませんが」
「手掛かりも何もないからな……。あいつを一度倒した時に出た残骸も復活するときに全部吸収されて、何もない」
「…………その点に関しては気になっていることがありまして」
「ん?」
タダユキは首を傾げた。
「何かあるのか?あいつに関することが」
「関するかどうかは微妙なことですが……動画のことはご存知ですか?」
「動画?」
タダユキは再び首を傾げる。
そうするとハルカは自身のスマートフォンをタダユキから受け取ると、操作して、画面を共有するようにタダユキに見せる。
…………そこには怪物の動画。
それも昨夜、ホテルに出現した巨大な怪物の動画が……。
「ったく。逃げてても野次馬根性は逞しいやつだな」
「私もそう思っていました。ですが……」
ハルカはそう言って動画投稿サイトの動画一覧を見せる。
それは怪物が出現した際の動画で溢れていた。
……長谷川市の動画が。
黄竜の
「……たまたま撮ったにしては数が多くないか?」
「やはり、そう思われますよね?こちらで削除申請を出してもすぐにアカウントを変えて投稿しなおす。まるで怪物たちがこの世にいることを見せつけるように。ですが……もしアカウントを追うことができれば」
「追えるのか?」
「えぇ、現在調査中です」
「もし、アカウントの先があの白い仮面のやつと繋がっているなら……俺たちから先手を取れるな」
タダユキは自らの闘志を燃やすように、拳を握った。
「……愛する娘を苦しめた報いを受けさせてやる」
……私情が入り混じっている気もするが、ハルカは特に言及することはなかった。
その表情から怒りが見え隠れしているタダユキにハルカは言えなかったが、動画の件で気になっていることがあった。
怪物の動画には含まれていなかったのだ。
……白仮面の
まるで……
ハルカはこの春の暖かな空気の中、嫌味なほど何もない青い空を見上げながらふと感じた。
…………新たに生まれてしまった疑問を。
モヤモヤする。
ハルカにはレイのようにそう感じずにはいられなかった。
《第一部:AlterNative編 完》
《第二部:Keep the sun in heart───to be continued.》
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