第5話 ~ 流体金属ボスバトル ~

 結論から言えば、三姉妹の『転魂』は本物だった。


 俺たちはジュエリーショップで腕時計や指輪を買った後、剣山に登り、そこで『神器』の力を習得した。


 それまでは半信半疑だったが、帰り道で野犬の群れに襲われた際、日向子が「ヒミコ」の人格に入れ替わった。


 そして手に入れたばかりの『神器』の力で、範囲200メートルほどとはいえ、皆既日食を引き起こし、その収束熱線で野犬のボスを倒したのだ。

 しかも、直後に現われた大イノシシを、俺が無意識に発動した「日光結晶の槍」で、突き倒した。


 俺も記憶こそないが、「カケル」の生まれ変わり。古代ではヒミコの婚約者だったという。


 そして今、県南の桑野川の上流、古代の辰砂 (水銀を含む鉱石)採掘跡に出没している銀色の化け物と戦っている。


 名前は『ニウジャ』、鎌首の高さは三メートルはあろうかという、某映画を彷彿とさせる不定形の流体金属、ヘビ型の化け物だ。

 ヤマタノオロチのモデルになったのではないかと思われるほど強く、しつこい。


 日光結晶の槍で頭を切り裂いても、再生して二股の頭になる。

「ヒミコ」が収束熱線を当てても、素早くその場を逃れて周囲の木々に触れ、その精気を吸い取って再生した。


 戦いと撤退を繰り返し、苦戦している内に日が暮れ、小雨まで降ってきた。

 ここで、陽菜さんの別人格、ハルカがある一計を案じた。

 これが最後のチャンス、と、俺が囮になり、槍で『ニウジャ』の攻撃をいなしながらおびき出す。


 小雨は、空良の別人格、「ソラミ」の神器の力で雲を追い払い、範囲200メートルほどだけ晴天にする。


 さらに「ハルカ」も神器の力を発動、これも範囲限定であるが、太陽そのものを夜の闇の中に召喚した。


 その上で、ヒミコが出現した太陽を皆既日食状態にし、そのエネルギーを集めていく。

 この三人が揃えば、どんな天候でも、どんな時間帯でも、太陽の光を熱源とした非常に強力な攻撃が繰り出せるのだ。


 しかし、強力な神器の力は長くは続かない。


「ヒミコ」の収束熱線を長時間当て続けるには、『ニウジャ』の動きを食い止めなければならない。


 ここで「ハルカ」がとんでもない無茶をした。

 女子大生の陽菜として乗ってきた軽自動車を暴走させ、『ニウジャ』と衝突、そのまま大岩に突っ込ませたのだ。

「ハルカ」はぶつかる寸前で脱出しており、軽傷の模様。


 さすがの『ニウジャ』も、近くに適当な木々が存在しない状態で軽自動車と大岩に挟まれ、すぐには脱出できない。


「今じゃ! 巌貫終閃いわつらぬきしついのひらめき!」


 皆既日食状態の天空から、強烈な一筋の光が降り注ぎ、『ニウジャ』と軽自動車を纏めて貫く。


 グワラァラァー、という『ニウジャ』の悲鳴と同時に、軽自動車は爆発、炎上。

 水銀で出来た『ニウジャ』は完全に蒸発し、その邪気もろとも消え去った。


 それと同時に、まず皆既日食状態が解除され、次に召喚された太陽も消え去り、雲が戻ってきて小雨が降り注いだ。


 とんでもない激戦をなんとか勝利で終えたが、「転魂」してきた三人の魂は引っ込み、日向子、陽菜さん、空良の三姉妹に戻っていた。


 全員、怖い思いをしたはずなのだが、もう慣れてしまったのか、勝利に笑顔を浮かべていた。

 特に日向子とは、彼女の姉妹の前だったが、抱き合って喜んだ。


 ――数日前のことを思い出す。

 二人の前世、カケルとヒミコの二人が婚約者だったと教えてくれたのは、ヒミコと魂を共有する日向子だ。


「もう一人の私だけが転魂でこっちに来ちゃったから、結局結ばれなかったの。まあ、記憶があるかどうかだけの違いで、実際は武流もカケルの生まれ変わりらしいんだけど」


「そうなのか……でも、生まれ変わったって記憶はないのが普通なんだよ」


「だよね……だからせめて、私たちは子供の頃からの約束通り、結婚したいよね」


「ああ、そうだな……えっ!?」


 日向子がさらっと言った言葉に俺は驚いて、彼女の顔をまじまじと見つめる。


「急にどうしたの?」


「あ、いや、日向子の口から結婚しようねって言葉が出たの、子供の頃以来だなって思って」


 俺は顔が熱くなるのを感じながら、そう彼女に告げた。

 すると彼女も顔を真っ赤に染めながら、


「そういえば、小学校を卒業して以降はお互いに言ってなかったかもしれないね。私はお父さんとかお母さんから、そういう結婚の意思を、武流が持ち続けてくれているって聞かされていただけだったし」


「そうだな。俺もきちんと日向子に言えてなかったかもしれないけど。まあ今更かもしれないけど……俺たち恋人同士でいいんだよな?」


「……もう……私はずっとそのつもりだったよ?」


 日向子が、少し拗ねたように、恥ずかしそうにそう言う。

 その彼女の視線の先には、右手の薬指の指輪が光っていた。

 その日、俺と日向子は、初めて唇を重ねた――。


『ニウジャ』に勝利したその後、帰りの足がなくなった俺たちはそれぞれの両親を呼んだのだが、当然の如くめちゃくちゃ怒られた。

 警察も来たし、大騒ぎにもなった。


 そもそもSNSで「最近化け物が出現している」と噂されていた場所だったので、


「肝試しにきていた」

「陽菜さんがブレーキとアクセルを踏み間違えた」


で口裏を合わせて、なんとか誤魔化した。

そしてSNSでは、どこからかこの超常現象が動画でしっかりと収められていてアップされており、徳島邪馬台国説と合わせて、騒ぎに拍車をかけたのだった。


俺たちの戦いは、まだまだ続く――。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

そちの名は。 ~ ヒミコ転魂物語 ~ エール @legacy272

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ