第4話 ~ 形代のペアリング ~
翌日、早朝から念のための検査を終え、三人は即退院となった。
一旦、三姉妹は彼女達の母親が運転する車で帰宅。
着替え等、外出の準備を整え、前日にイベントに行った時と同様、母親の軽自動車を借りて、俺を迎えに来てくれた……歩いて行ける近所なのだが。
ちなみに運転するのは、初心者マークは取れた陽菜さんだ。
そしてそのまま前日に話をしていたジュエリーショップへ。
彼女達の別人格の『記憶』によれば、何か金属を身につけていれば、それを『
これには俺も付き合うこととなった。
ただその後、神器の力を宿すには、標高1955メートルの剣山に登らねばならないらしいのだが……そのことはまた後で考えよう。
陽菜さんは何度か来たことがあるようだったが、俺も、妹二人も初めて入る高級店に、かなりドギマギしてしまっていた。
また、フェア期間中ということもあり、平日にもかかわらず、お金を持っていそうな、特に年配のお客さんが多数来ていた。
(学生は夏休みなので平日でも関係ない)
陽菜さん以外、明らかに場違いな俺たちだったが、担当してくれた女性店員さんは笑顔で接客してくれる。
まず、俺は以前から欲しかったフルメタル電波ソーラー腕時計、「Z-SHOCK」を購入した。
全てチタン合金製で、軽くて頑丈。
デザインも黒と銀の組み合わせで最高にカッコ良い物で、サイズ調整してもらい、付け心地も抜群だった。
12万円したが、フェア期間中ということもあり、これでも思っていたより3万円以上安く買えた。
陽菜さんは、あらかじめネットでチェックしていたファッションリングで、イエローゴールドにダイヤモンドがセッティングされたもの。美人の彼女の右手人差し指によく似合っている。
妹の空良は、特に決めていた無かったようだが、姉のリングに憧れて、いろいろ見て悩んでいた。
そして姉のそれよりも値段が安いが、同じようなデザインで、ロジウムコーティングされたシルバーのリングに小さなサファイヤが埋め込まれた、爽やかなイメージのものを、左手人差し指用に購入した。
これも彼女のイメージに良く合っており、とても似合っていて、そう褒めるととても喜んでいた。
二人でつける指は同じだが、左右の手は逆。なぜそうしたのか聞いてみたが、なんとなく「直感的に」なのだという。
日向子は、何点か見てみたが決めきれない様子。
「うーん、どれも綺麗で迷っちゃう……武流はどれがいいと思う?」
「俺は指輪はあまり分からないからなあ……なんか、思い入れが強いほど良いって昨日言ってたし、直感でこれっていうのでいいと思うんだけど……」
俺がそんなふうに言うと、ちょっと不機嫌な顔になって、一瞬、しまったと思った。
そんな俺たちの様子を見て、店員さんが
「彼氏さんが選んでプレゼントしてあげるのもいいと思いますよ。思い入れが強くなりますから」
とフォローしてくれる。
「あ、いえ、そんなんじゃ……」
日向子が赤くなって否定する。
「そう、そもそも今日誕生日なんだし、選んだらそれをプレゼントするつもりだったんだ。だから欲しいものにすればいいって言ったんだけど……本当に俺、指輪とか選ぶセンスないから……」
ここは店員さんの「プレゼント」という言葉に便乗させてもらう。
「え、そうだったの? ……でも、それを言うなら武流だって今日、誕生日じゃない」
俺たちの会話を聞いて、さすがに店員さんも驚いた。
「お二人共が、今日誕生日なんですか?」
「えっと、はい、偶然なんですけど、同じ日に生まれたので……双子みたい、ってよく言われるんですよ」
先ほど、彼女と言われて慌てた日向子が、やんわりと否定するようなニュアンスでそう伝えた。
「それは本当に運命ですね……では、お二人でペアリングにされてはいかがでしょうか? お互いに指輪を贈り合う、という形で」
接客上手な店員さんが、そう勧めてきた。
「ペアリング!? ……まあ、俺はそれでもいいけど……」
今まで「恋人役」をしてきたし、そういうのがあってもいいかな、と思って口にしたのだが……日向子は真っ赤になっていた。
その様子に、俺の鼓動が高鳴るのが分かる。
これって、本当に……。
「私は自分で買うつもりだったから、お小遣い持ってきてるけど……いいの? 武流、腕時計買ったんだよね?」
「あんまり高い奴じゃなかったら大丈夫だよ」
時計が安く買えたから予算が思ったより余っている、などとは言葉にしない。
そもそも、それほど高いものでなかったら何か買ってあげるつもりだったのは本当だ。
俺たちのやりとりを聞いて、店員さんはさらに笑顔になって、何種類かのペアリングを持ってきた。
その中で俺たちが選んだのは、値段も手頃で、若干色味が異なる二つの指輪。
ロジウムメッキされたシルバーリングなのは同じだが、女性用は上下の縁にピンクゴールドがあしらわれ、男性用は同じ部分が黒色でメッキ加工されている。
「とてもお似合いだと思いますよ。どの指に嵌められますか?」
店員さんが、もう購入するものという前提で話してくる。
それに対して、日向子は俺に、何かを訴えるような眼差しを向けてきた。
「えっと……じゃあ、お互いの薬指に」
彼女の視線に答えるようにそう言った瞬間、自分自身の顔が熱くなるのを感じた。
その言葉と、俺の様子に、日向子の表情が明るくなった。
店員さんも嬉しそうに、俺たちの指のサイズを測り、それにあった在庫を持ってきてくれた。
「彼氏さん、彼女さんに嵌めてあげてください」
と言われた。
二人とももう、彼氏、彼女という言葉に否定はしない。
けれど、一瞬左右どちらの指に嵌めればいいか迷う。
それを察したのか、日向子は
「左はさすがに、ね……右手にしよっ!」
と言ってきたので、その言葉の通り、彼女の右手を取って、その薬指に嵌めた。
皆に見られており、ずっと顔が熱いままだったが……その直後、彼女が涙を溢れさせたことに動揺した。
「……武流、ありがと……大事にするよ……」
彼女の涙声に、今日が今までの人生で一番の記念日になった、と実感した。
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