第3話
【裕一視点】
『うふふふふ。それじゃあ後の事は若い二人に任せて私達は行きましょうか?』
『あぁ、そうだな
あぁぁーーーーーー‼
そう言えば、おやじもその場に居たんだった!
おやじが再婚することになって――俺は、おやじの好きにすれば良いってスタイルで軽く話を受け流したが。
相手側の強い要望で、籍を入れる前に顔合わせをしたいって話があって。
ちょっぴりお高いレストランで顔合わせをして……
それから、途中の経緯をすっ飛ばしてベッドインてのが現状なわけであり。
この惨状である。
誰かに、昨日の事は夢だったと言って欲しい。
でも、レストランで出てきたメニューから味まで覚えているし。
調子に乗って、お酒を飲んだ事もはっきりと覚えている。
特に、『今日の食事に合うワインをおすすめでお願いします』と言った後に味わった料理が別格だった。
飲み物一つであんなにも広い世界を感じたのは産まれて初めてだったからだ。
それら全てが偽りだったとはとても思えない。
だと言うのに、途中の経緯が思い出せないのも確か……
もしかするとあれか?
飲み過ぎると記憶が飛ぶってやつだろうか?
「だとすると、やっぱり、俺達ってもう……」
「ほぇ? お兄様、どうしたのです?」
「あ、いや、もう引き返せない所に居るのかなって」
「なにがです?」
「その、確認したいんだけど……雛は、俺と結婚するのはイヤだったりしないのか?」
「嫌なら嫌だって雛は、はっきりと言うのです」
「でもさ、その、俺って、すっごく強引だったろ?」
「確かに、そうでしたけれど。お兄様にされて嫌な事なんて雛には何もないのです」
幼いながらもしっかりとした口調で、そう言われてしまえば認めるしかないのだろう。
何よりも、その瞳に宿った意思は頑なに思えた。
「わかったよ。それじゃあ、おやじ達の所に行ってきちんと報告しないとな」
「はいなのです!」
ベッドから出た後も雛は俺の左腕に抱き着いたままで……
とっても嬉しそうだ。
ちょっと歩きづらいが諦めておやじ達が居るであろうリビングへと向かう。
リビングに着くと先ず目に入ったのは、会社に行く準備を終えたおやじが経済新聞を広げてコーヒーを飲んでいるところだった。
実に落ち着いていて、なんだか少しムカついた。
こっちは犯罪歴が付くか否かの瀬戸際だと言うのに!
そんな俺の心を無視するかのようにキッチンからパタパタとスリッパの音をたてながら、とても明るい口調で声をかけてくる人が居た。
「あらあら。おはよう裕一君。雛。その様子だと上手くいったのかしら?」
「おはようなのです。お母様。棚からぼたもち展開だったのです」
「あらまぁ。それはよかったわね」
「はいなのです!」
とても仲が良さそうな親子である。
この場面だけを切り抜けば実に微笑ましい光景だろう。
だが、これからは俺の家族でもあるわけなんだから無視するわけにもいかない。
「おはようございます。雅さん」
「はい、おはよう裕一君。雛のことよろしく頼むわね」
「はい、キッチリ責任は取るつもりです」
「それは、将来、雛と結婚してくれると言う判断でよろしいのかしら?」
「はい、そのつもりです」
俺を見上げる満面の笑みにずきりと心が痛む。
俺の好みドストライクなお姉さんタイプの女性だからだ。
初めて挨拶をした時なんて、間違ってお母さんではなくお姉さんが来てしまったのかと思うくらい若く見えて美人なのである。
しかも、出るところはしっかり出ていて腰回りなんて一児の母とは思えないくらいほっそりとしている。
何も知らずに出会っていたのなら間違いなく恋に落ちていただろう。
しかし、雅さんと結婚するのはおやじで……
その、おやじは、なにやら不可思議なモノでも見るかのように俺達の会話を眺めているだけで会話に加わって来る感じがない。
そんな流れを強引に変えたのが雅さんだった。
「分かって頂けましたか
「あぁ、さすがにこの状況を見れば信じるしかないのか……」
「なぁ、おやじ! なんだよそりゃ?」
「あぁ、お前は驚くかもしれないが、住良木さんと会うのは今が初めてなんだよ」
「は? 何言ってんだよ⁉ 昨日、レストランで顔合わせしたじゃねぇか!」
「そこら辺の記憶は全て、お前の隣にいる雛ちゃんが見せた夢だ」
「はぁ?」
確かに夢であって欲しいと心から願ってはいたが……
まさか、おやじにネタばらしされるとは思ってもみなかった。
だが、引っかかることもある。
とても夢でした……てへ、じゃ済まされないリアリティーがあったのだから。
「なんでもな、住良木さんはサキュバスの血を受け継いでいるらしくてな、特に雛ちゃんはその力が強く出てしまっているらしいんだ」
「はぁ? なにファンタジックなこと言ってくれちゃってるわけ?」
「まぁ、お前も男だ、相応の性欲もあっただろう。どんな夢を見させられたのか想像もつく」
「う……」
とてもじゃないが人に話せる内容じゃない。
そんな俺の顔を見て察してくれたのだろう。
おやじは詳しい内容には触れないでくれた。
「まぁ、あれだ。結婚はまだ先になるが、婚約自体は問題がない。お前の好きにしなさい」
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