8話 侵略者シオン
滴った血はシオンの目の前を通りすぎた。
シオンとエレナは今起きている現実を前に動けなかった。
「フフフ……ハハッ……お前が悪いんだよシオン。俺のを異世界ライフを邪魔しようとするから」
「おい、何をしているんだラウル……」
「あ、父さん。戻ってきたんだ」
「何をしてるのかと聞いているんだ!教会関係者への殺人なんて……死罪になってしまうぞ!」
「だからだよ」
「なに……?」
「この人を殺したのはシオンの剣。これで司教達はアイツが犯人だと思うだろう?異端の罪だけじゃ甘いからね、確実に始末しないと」
「お前は何を言っているんだ……まさかお前が都へ密告したのか?いつから……」
「前に話してるのを聞いちゃったんだ。父さんたちはみんなシオンの味方、あいつは僕のストーリーには邪魔なんだよ。それに1人殺したくらいじゃ子供なら情状酌量の余地があるか……」
「お前……何を!」
「どっちにしろ父さんも僕の異世界ストーリーには邪魔だったんだよね。このままじゃ田舎の領主2世としてスローライフさせられそうだったし。丁度よかった」
そう言うとラウルは動揺する自分の父も、シオンの剣で貫いた。
そして剣を2人の側に放り投げるとラウルは司教達を呼びに行ったのか、外へと消えた。
俺は我に返り、床下から飛び出してラウルを追おうとした。
「なにで……なにしてんだよラウル!」
「シオン静かに!見つかっちゃう!」
「離して!アイツを捕まえないと……」
「待つんだシオン……」
「領主様!」
まだ微かに領主の息があった。
大量に出血しながらも、強く俺の服を掴んでいた。
「君はここから去りなさい。追手はすぐに来る……」
「嫌だ!ラウルを捕まえて、領主様を医者に見せないと……」
「もしも捕まったりしたら、彼らは君の話なんて聞いてはくれないよ。みんなの想いも無駄になってしまう……エレナ、彼を私の屋敷に連れていくんだ」
「でも、領主様は……」
「私は長くない。ラウルが戻ってくる前に早く」
強く握りしめていたエレナの手から血が落ちる。
横たわる領主は俺を突き放し、そのまま倒れるように息を引き取った。
「……行くわよ!」
エレナは俺野手を引いて走り出す。
強く捕まれているせいで手が痛い。でも泣いているのはこの痛みではなかった。
俺は全てを理解しきれないまま走った。
*
「これは……!」
司教とシオンの父はラウルに連れられ、2人の遺体を見つけた。
「これは本当に例の子供がやったのか?」
「そんなはずありません!散々世話になってる領主まで殺すはずが!あんなに懐いてたのに」
「僕も信じたくはありませんがこの血の付いた剣はシオンの物。おじさんもご存知では?」
「すぐにやつを探し出して取り調べろ!貴族と教会関係者の殺害、絞首刑が妥当だろう」
「司教様!まだ子供ですよ」
「関係ない!異端の疑いに加え、逃走を図るために殺人まで。これでは我々の面子も立たないだろう。すぐに探せ」
慌ただしく人が動きだし、2人の遺体には大きな布がかけられた。
「おい待てボンボン。お前、アイツの友達じゃないのか?」
「大切な親友ですよ。でもやってしまったことの責任は取らないと……」
「白々しい」
シオンの父は暖炉の上にかけてあったホコリの被った剣を取り、彼を探しに外へと消えた。
「なんだよ……DV親父だと思ってたのにいい人ぶりやがって。まあいいや、僕も出よう」
*
司教達が家に着く少し前、エレナと俺は領主様の屋敷にたどり着いた。
日はすでに沈みかけている。
2人は勝手口に回り2回、3回、1回と、指示通りにモールス信号のようなノックをした。
扉はすぐに開きメイド長が顔を出した。
「シオン様にエレナ様……話は伺っております。早く中に」
「ありがとうございます」
後をつけられてないことを確認して手早く扉を閉めた。
迷路のような屋敷を走り領主様の寝室に通された。
メイド長は先に中に入り本棚の1つを押し始めた。
しかし相当重いのか、なかなか動かない。
「この奥に使用人と旦那様しか知らない隠し通路がございます」
「どいて、私が代わる!」
そう言うとエレナは、大人1人でずらせなかった棚をドアを開けるように軽々と動かして見せた。
化け物め……。メイド長も放心している。
「ここを進めば地下水道に繋がっております。北に3日程歩いたところの村にご主人様の知り合いがいますのでそこで匿って貰ってください。なんとしても逃げ延びてくださいね」
「でも父さんたちは……」
「大人の事は心配しなくて大丈夫です。今はご自身を按じてください」
「……わかった。ありがとう、父さんと母さんによろしく」
俺は数日分の食料と地図の入った荷物を受け取り、通路に進んだ。
今は生き延びないと……。
俺の後にエレナが続いて入ろうとするも足が止まった。
「エレナ?」
エレナは涙を流しながら立っていた。
俺はすぐにその気持ちを察した。
「ごめん……私は行けない……」
「そっか。」
「何が狙いか知らないけど、ラウルは自分の父親も殺した。もし私がシオンについていったら、私の家族がどんな目に遭うかわからない……」
「うん、わかってる」
「ごめん……本当にごめんなさい……」
「なにも謝ることないよ。その判断は正しい。俺は1人で大丈夫だから、エレナのやるべき事をして。」
エレナは真っ直ぐに俺を見ている。
自分の顔が笑えてるのか泣いてるのかわからない。
俺は事態を飲み込めてないまま奥へ進んだ。
「今まで楽しかった。最高の友達だ」
エレナの鳴き声が聞こえなくなるまで、俺は走った。
もう戻れない。
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