4話 父と教会

 転生してから毎日のように前世の夢を見る。

 夢っていうのは不思議なもので、寝起きを最悪にするくせに気付いたらどんな夢を見てたのか忘れてしまうこともある。



 朝、リビングに降りると火の付いてない暖炉の前に父が座っていた。

 因果か神の嫌がらせか、今の父親も前世とほとんど変わらないクズ野郎だった。

 生前の自分よりも年下の親と言うのも複雑な気分だが、前と変わらず触らぬ神に祟りなしの精神でやり過ごすようにしている。


「おはよう父さん。帰ってたんだね」

「なんだいたのか。いつものボンボンと遊んでるもんかと思ったぜ」

「今日ラウルは朝から家庭教師と勉強漬けなんだ。僕はエレナのところに行ってくるよ。夕方には帰る」

「知るかよ。帰ってこなくていいぞ食い扶持が減って家計が助かるからな」


 おめーが稼いだ金じゃねぇけどな。もちろん声には出さないが。


「昼間からガキが色気付きやがって。子供なんかつくるんじゃねーぞ。役に立たないしイラつくだけだからな」

「はは……」


 こんな親ガチャでハズレ掴まされるくらいなら最初から産まれない方が幸せというのは真理かもしれない。

 さすが大人よくわかってらっしゃる。

 俺は不必要に刺激しないためにそそくさと家を出た。



 父と遭遇を避けるため極力家にいないようにしてるがラウルとエレナどちらも遊べないとき、俺は教会に通って神父様に読み書きや世界情勢、宗教について教えて貰っている。

 この世界での宗教は主に1つのことを指す。

 ただ教会と人々には呼ばれこの世あらゆるモノに宿る魔力の源を精霊に見立て信仰対象としている。

 この世界の教会は権力が強く時に政治にまで干渉してくることもあるそうな。

 要するに教会がある人物を異端と呼べばそうなるし、死刑を判決したらそいつは死刑になる。それくらいに影響力を持っているということだ。

 そんな恐ろしい組織とは思えないほどこの辺境の神父様は俺みたいな人間にも優しく接してくれる。

 悪魔が教会や聖職者を恐れるように、父も例に漏れずここには関わりたがらない。

 そのため教会は俺にとっての避難所となっているのだ。


「読み書きはもう完璧だなシオン」

「神父様の教え方が上手いからだよ」

「その年で大人に気遣いもできるとは、やはり私の教え方が上手いのか」

「どっちだよ」

「それにしてもお前は幼馴染み3人の中でずば抜けて覚えが早いな。綿が水を吸うように知識を吸収している」


 この世界にはスポンジという概念がないからこう言う例えを使うようだ。


「勉強が好きなんだと思う。知らないことを知ると自分がより優れた人間になるみたいで」

「それはきっと、シオンが他の誰かに認めて欲しいという感情の現れじゃないか?たまに君はそう言う目をしている時がある」

「……確かにそうかも」


 核心をつかれた。

 テストで良い点を取れば誰かが誉めてくれる。

 スポーツを頑張れば誰かが誉めてくれる。

 仕事を頑張れば誰かが誉めてくれる。

 いつか誰かが、そう思ってずっと努力を続けてきたが、結局生前それが叶うことはなかった。

 いや、一人だけそう言う奴がいたな。

 もうどうしたって会うことも叶わないが、きっと似たような奴が一人はいるかもしれない。

 今もそうやって勉強をしていた。


「どんな動機だろうと、努力をして継続できるのは才能だ。私の教育の賜物だな」

「結局それがやりたいだけだろアンタ」

「そう言えばシオンは、将来なにかやりたいこととかあるのか?」

「最近ずっと考えてるんだ。なにを生きる目標にしたらいいのか」

「ハハハハ!子供のクセにそんな風に考えてるのか。もっと気楽でいいんだ」


 子供はもうちょっと漠然としたものでいいかもしれないが、精神年齢では30をとっくに越えたおっさんには深刻な問題なのだ。


「ラウルは世界の救世主になるとかワケのわからん戯言を言ってるし、エレナは家族の助けになる仕事をしたいと言っている。人生は長いんだからもっとそれくらい大雑把でいいんだ」

「そうかなぁ……」

「そうさ。シオンは賢いし運動能力も高い。器用で集中力も高いしなんだってできるだろう。」


 生前は経験したことのなかった感覚で満たされる。

 自分を肯定してくれる人間が久しぶりです心地良い。

 俺は問題の答えを少し先延ばしにすることにした。

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