流れ星に願いを 2024/04/25

「私たち死ぬまで一緒だよ」

「もちろんさ。この手を離さない」


 公園のベンチに座る一組のカップル。

 彼らはお互いに手を握り合い、愛を語り合っていた。

 だが二人の顔に喜びは無く、思いつめた表情をしている。

 ベンチの端に置かれたラジオからは、悲しいメロディーが流れ彼らの悲壮感が際立つ。


「ああ、幸せ」

「僕もだ」

「でも、もうすぐお終いなのね」

 その言葉を合図に二人は空を見上げる。

 彼らの目に映るのは、視界いっぱいの流れ星。

 文字通りの視界いっぱいであり、この数の流れ星など異常というほかは無かった。


「まるで世界の終わりだな」

「うん、でも最後はあなたと一緒でよかったわ」

「僕もだよ」

 二人はお互いを見つめ合う。


 そんな時、ラジオから流れていた曲が終わり、ラジオから司会の男の声が流れてくる。


「さあ、リクエストの『5年前のあの日』が終わったところで、隕石についての続報だ。

 地球に接近していた大隕石<メテオ>は、核弾頭<ホーリー>によって無事破壊。

 その破片も問題なく大気圏で燃え尽きたそうだ。

 隕石による被害は無し。

 素晴らしいね。


 では次のリクエスト。

 ペンネーム・アルテマさんから『J-E-N-O-V-A』。

 さあ、行ってみよう」


 司会の言葉と共に、テクノな音楽が流れてくる。

 その曲を聞いて、二人は思わず吹き出してしまう。


「これじゃ『悲劇のカップルごっこ』できないね」

「この曲好きなんだけどねー」

 二人は腹を抱えて笑い出す。

 ひとしきり笑った後、男が口を開く。


「そういえば願い事した?」

「あっ、事忘れてた」

「やっぱり。……でも安心して。俺が代わりにしといたから」

「ありがとう。それで、なんてお願いしたの?」

「うーん、恥ずかしいから内緒」

「話ふっといてそれかい!気になるだろ。吐け―」


 そうして二人は鬼ごっこを始め、公園内を走り回る。

 いつもの賑やかな公園の風景。

 雲一つない青空の下、二人の笑い声が響くのであった。

 



 そして、ところ変わって地球から遠く離れたところの宇宙船。

 そこにいる宇宙人たちは、公園のカップルとは反対に悲痛な面持ちで地球を眺めていた。


 彼らは自分たちが移住する星を探すために、宇宙を旅する宇宙人。

 長い旅の末、地球を発見し、地球を侵略せんと企んでいたのだ。

 お察しの通り、あの隕石は宇宙人が差し向けたものである。


 彼らは、地球に知性を持った生命体がいることは知っていた。

 だが宇宙航行技術すらもたぬ知性体とは交渉の価値なしと判断し、邪魔な地球人を滅ぼすことを決定した。

 地球に隕石を落とし、地球の生命を滅ぼした後で、ゆっくり地球を征服する……

 その計画は完璧に思えた。


 だが失敗した。

 なんと地球人が隕石を破壊したのだ。

 それもただ破壊するだけでなく、地表に被害が無いように計算をした上で、である。

 宇宙人はただ恐怖するしかなかった。


 隕石の接近を察知した地球政府が、『この隕石は破壊可能である』というアナウンスをしたことは知っている。

 だがそのアナウンスはやせ我慢であり、不可能だと宇宙人は思っていた。

 ところが地球人は隕石を軽く破壊した。

 宇宙人自身にとってですら破壊困難であった隕石をだ。


 もはや、疑う余地は無かった。

 あの星の知性体は強力な兵器を保持している。

 地球に関わるのは危険だ。

 そして宇宙人たちは、万が一にも報復されるのを避けるため、即座に地球から離れることを決断する。


 離脱の準備をしている中、一人の宇宙人が最後の破片が大気圏に突入するのを目撃する。

 その破片は赤い光の尾を引き、すぐに消える。

 それを見て、彼は思いだした。

 地球には『流れ星に願いをかける』風習があることを。


 『なんと馬鹿馬鹿しい。

 流れ星と願いが叶う事は、なんの因果もないただの現実逃避。

 これだから未開の星の知生体というものは……』

 そう言って、地球人の風習を鼻で笑った彼……


 しかし、今の彼は笑うことが出来なかった。

 たとえ馬鹿馬鹿しくとも、地球人が現実逃避する気持ちが分かってしまったのだ。

 無意味だと知りつつも、彼は流れ星に願う。

 現実から目を背けるために、ただ願うしかなかった。


 『願わくば、地球人が我々の存在に気づきませんように』

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