遠くの空へ 2024/04/12

「全然だめだったね」

「そうだな」

 広場のベンチに座っている男女が二人。

 はたから見れば、何の変哲もないカップルである。

 だが二人は恋人ではない。



 この二人は、姉弟同然に育った幼馴染である。

 故郷の村は、子供の数が少ない事もあり、二人はいつも一緒に遊んでいた。

 平和という言葉を体現したかのような、のどかな村。

 ずっとそんな日が続くと思われた。


 だがある時、事件が起きた

 二人が幼いころ、謎の男に二人の両親が殺されたのだ。

 当時、幼い事もあり何もできなかった二人は何もできなかった。

 だが体が大きくなり、力もつけ、二人は親の仇を探すため村を出た。

 そして男の場所を突き止めるため、様々な場所で情報を集めた。

 その際に男を目撃したという情報を聞きつけ、この町にやってきたのである。


 しかし聞き込みをするも、まったく成果を得られない。

 道行く人に聞けども聞けども、全員揃って『知らない』。

 調査はここにきて、行き詰まりを見せた。


 『このまま続けても疲れるだけだ』と、広場のベンチで少し休憩することになったのだった。


 ◆ ◆


 青年は、ベンチで休みながら、これからどうするべきかを考えていた。

 目撃情報があったのはこの町で間違いがない。 

 にもかかわらず、尻尾すら掴めないのはどういう事だろうか?

 何か前提が間違っているのかもしれない。

 青年はそこまで考えるが、それ以上は何も思いつかない。


 ちらと横で座っている少女の横顔を見る。

 しかしその少女も、難しそうな顔で考え事をしていた。

 少女も同じような状態であるらしい。


 このまま、ただ聞き込みをしても進展はないだろう。

 まだ早いが、宿に戻って作戦会議をすべきだろうか。

 青年は大きなため息を吐きながら、なんとなく空を見上げる。

 見上げれば、雲一つない青い空が広が広がっていた。


 そういえば、と青年は思う。

 こんなにゆっくりと空を眺めたのは、いつぶりだろうか?

 少なくとも、仇を探し始めてからは無いだろう。


「どうしたの?」

 少女は、青年が空を見上げて動かないことに心配して尋ねる。

「空に何かあるの?」

「いや、故郷の村もこんな空だったなと思って」

 青年の言葉に、少女は空を見上げる。

「本当だ。故郷で見る空みたいね。子供の頃、よくこうして見上げてたね」

 遠くまで来たね、と少女は独り言のように呟く。


「ねえ、復讐が終わったらさ、故郷に戻っていつもの場所に行かない?それで一緒に空を見よう」

「……それもいいな」

 子供の頃、お気に入りの場所で日が暮れるまで遊んでいたことを思い出す。

 そこには座るにはちょうどいい岩があり、遊び疲れた時は空を見上げていた。

 懐かしき平和な日々。

 だが両親が殺されてからは、以前の様に遊ぶことは無くなった。


 けれど……

 全てが終わったら、昔の様に空を見上げてもいいだろう。


 二人はそんな事を思いながら、故郷にある遠くの空へ思いを馳せるのであった。

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