言葉に出来ない

 最近、彼氏の和也には仲よく話している女子がいるらしい。

 『らしい』というのは、私は和也とは違うクラスのなので、その女子を見たことがないから。

 もちろん和也にその女子の事を聞いた。 

 だけど、隠す様子もなく色々教えてくれる割に『仲のいい友達』という以上の情報が得られなかった。


 かろうじて分かったのは、和也と隣の席にいて、休憩時間の度に楽しくお喋りしていると言う事。

 ……ギルティでは?


 まあ、こうあっさりと言うあたり、本当に友達と思っているんだろう。

 だけど不安なので、一度様子を見ることにした。

 もちろん和也に気づかれないようこっそりとね。


 休憩時間に和也のいる教室にこっそりと向かう。

 教室を覗いたときに受けた衝撃は、とても言葉に出来ない。

 なぜなら、和也は私に見せたことない笑顔で笑っていたからだ。

 そして笑わせているのは、隣の席の女子。


 私の心に怒りが満ちる。

 許せない。

 私の彼氏だぞ。

 泥棒猫め。


 嫉妬を感じながら、隣で話している女子を睨んで――

 そして彼女を見て萎えてしまった。

 彼女は和也に恋してる。

 それは間違いない。

 だけど、必死に好きじゃないフリをしているのが分かった。

 なんで分かったのかって?

 女の勘である。


 彼女が和也に向ける、表情、しぐさ、目線。

 それらは全部、友達に向けるソレ。

 でも、全部作り物。

 和也が好きな事が隠しきれていない。

 好きだけど、好きじゃないフリってところか。


 それにしても、和也はあんだけ近くで見ているのに気付かないなんて、とんでもないニブチンである。

 むしろ、隣の彼女の方に同情してしまう。

 気づかれても困るけども……

 

 きっと、和也に彼女がいると聞いて、身を引く覚悟なんだろう

 そんな彼女に対して、どうして泥棒猫なんて言えようか?


 私は教室を後にする。

 和也に気づかれないように、そっと……


 不安を解消するためにやってきたけど、今度は別の感情が渦巻いていた。


 自分だけを見て笑ってほしい私。

 見たことがない顔で笑う和也。

 好きじゃないフリをしている彼女。


 私はその時に抱いた感情を、とても言葉に出来そうにない。

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る