春爛漫 2024/04/10

 時は四月。

 世界に春が訪れ、世界に緑に溢れ花が咲き乱れる。

 それらを目当てに虫や蝶たちがやってくる。

 鳥も恋の季節で、歌声で異性にアピール。

 まさに春爛漫といった風景だ。


 あらゆる生命が活動的になるこの季節。

 春の陽気に誘われてクマが巣穴から出てくるように、桜の木の下から死体も這い出てくる季節でもある。


 そう死体である。


 皆さんは一度は聞いたことがあるだろう。

 『桜の木の下には死体が埋まっている』と……

 あまり知られていないが、本当に埋まっているのだ。

 信じられていないのも当然で、その死体と言うのは普通の人間と見た目がそっくりで、まず見分けがつかない。

 這い出てくる現場を見なければ、死体だと気づかないであろう。


 ではなぜ『春になると出てくるのか?』。

 それは簡単だ。

 花見の宴会に参加するためである。


 みなさんも花見会場に行ったとき、妙に人が多いなと思ったことは無いだろうか?

 どこにこんなに人間がいたのだろうかと。

 それは這い出てきた死体が混じっているからだ。

 死体たちは、普通の人間に混ざって花見の料理に舌鼓したつづみを打っているのである。


 いくらなんでも知らない人間が参加していれば、すぐにでも気づくと思われるかもしれない。

 だがそこは花見会場……

 全員とは言わないが、酔っぱらって判断力が低下している人間も多い。

 死体は入念に人間たちを観察し、大いに盛り上がっている宴会を選んで混じるので、まず気づかれる事はない。

 宴会に参加した後は料理を食べて、頃合いを見てその場から離れる。

 このことからも分かる通り、死体は人間を襲わない。

 人間を襲うよりも、盗み食いする方がリスクが低いからだ。


 もしかしたら花見会場で、うずくまって動かない人を見たことがあるかもしれない。

 それも死体だ。

 実は死体にも様々な個体がいて、宴会に混じるのが下手な個体がいる。

 そうして何も食べれなかった個体がお腹が減って動けなくなった、と言うのが真相なのだ。


 こうして桜の木の下に埋まっていた死体はエネルギーを補給するのだが、桜の花が見ごろなのは短い……

 桜も散って花見が行われなくなったら、死体はどうするのか?

 また桜の下に埋まっていくのである。


 そう、死体は花見のシーズンだけ活動する存在なのだ。

 埋まった後は、夏・秋・冬を土の中で過ごす。

 そして季節が廻り、花見のシーズンが来れば、また土の中から出てきて花見客の料理を失敬する。


 こうしてみると、死体は何の役にも立って無いように思えるだろう。

 だが死体は埋まっている間に、桜の成長を促し花を綺麗に発色させる特殊な物質を生成する。

 死体は桜の成長に貢献しているのだ。

 そうして綺麗に咲いた桜を、人間が見て楽しむ。

 これだけをとっても自然の複雑さが感じられるだろう。


 人間は桜を見て花見を行い、桜は死体によって大きく成長し、死体は人間の料理を食べて命を長らえさせる。

 桜と死体と人間は、お互いに欠かすことが出来ない、いわゆる共生関係なのだ。


 くしくも今は花見シーズン。

 これを読んでいるあなたも花見に行くことがあるかもしれない。

 その時は自然の雄大さを感じながら、死体と一緒に桜を楽しんでいただければ幸いである。

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