君の目を見つめると 2024/04/06

たけし君。最近君の目を見つめようとすると、露骨に目をそらすよね。なんで?」

 帰り道、隣で歩く幼馴染に私は問いただす。

 さりげなく目を見ようとするが、目をそらされる。

「それは……見つめらるのが苦手だから……かな」

「ダウト。何年幼馴染をやっていると思うの」

「うぐ」

 図星を突かれた武君は、嫌そうに表情をゆがめる。

 分かりやすい。


「そういう咲夜こそ、なんで俺の目を見ようとするのさ」

 これ以上、追及されまいとする意図が見え見えの質問をしてくる。

 だけど、この問いに対する答えは、私にとって恥ずかしいものではない。

「言ってなかったっけ?好きなの、あなたのその黒い目。綺麗だし」

「え、好きって……」

 『好き』という言葉に過剰反応する武君。

 思春期か。


「それに私の目、少し茶色が入ってるでしょ。ちょっとコンプレックスでね」

「そんなことないぞ。咲夜の目も、その、綺麗だ」

「ありがとう。という訳で、武君の目を見せてもらうね?

 その代わり、私の目は好きなだけ見ていいよ」

「は、バカか。やるわけないじゃん」

 くそ、引っ掛からなかったか……

 もう少しだったのに……

 それにしても、嫌がり方が普通ではない。

 まさか――

 私の頭に閃きが走る。


「ははーん、分かったぞ」

 私の言葉に武君の体がビクッと震える。

「さては目を見られると、頭の中読まれると思ってるんだね。 安心していいよ、私にそんな芸当は出来ん」

「はあ、ちげーし」

 がっかりしたような、安心したような複雑な反応を見せる武君。

 反応を見るに、私の推測は間違っているらしい。

 だ・け・ど。


「隙あり!」

「あっ」

 私は素早く武君の正面に回って彼の顔をガシッと掴み、息がかかるほどの距離まで自分の顔に近づける。

「コレで目をそらすことは出来まい」

 武君が何やら言っているが無視だ無視。

 さて武くんの目をじっくりと堪能することにしよう。


 と思ったのだが、意地でも目を合わせたくないのか、いきなり目をつむった。

「武君、そんなに嫌?」

「それは……」

「嫌だって言うなら、二度と言わない」

 それを聞いた武君はビクッと大きく体を震わせた。

 私も、武君がどうしても嫌だと言うのなら諦める。

 私も嫌われてまでやろうとは思ってない。

 拒否されるだろうなという予想とは裏腹に、武君はゆっくりと目を開けた。

 OKてことね。

 じゃあ、存分に見させてもらおう。


 ふむふむ。

 相変わらず綺麗な黒い目である。

 心が洗われるようだ。

 それにしてもこの嫌がりっぷり、もしかしたら武君の目を見る機会はもう無いかもしれない。

 いったいいかなる理由なのだろうか。

 これは理由を知って解決しておくべき問題だと、私は考える。


 武君には黙ってるけど、実は他人の目を見ると人の心が読める。

 さっき、心が読めないって言ったな?

 あれは嘘だ。

 まあ、ここまで近づかなければ読めないし、簡単な感情しか分からないけどね。


 では早速、心を読んでみよう。

 さて一体何を考えて……

 と武君の目をじーと見つめてみる。

 すると瞳に浮かび上がるのは……


 ハート?

 そしてハートの中に私の姿が見える。

 何これ?


 一瞬ぽかんとするが、すぐさまその意味を理解して、武君の顔から突き飛ばすように離れる。

 武君は驚いたようで、目をぱちくりさせていた。


「どうしたの?」

「……なんでもない」

 武君の心配そうに声をかけるも、ぶっきらぼうに答えるしかなかった。

 私は衝撃の事実に頭がくらくらしていた。

『武君が私の事が好き』


 ということは……

 ということは……


 つまり、武君と両想いって事!?


 なんてことだ。

 勝手に私の片思いだと思って、ギリギリ何でもないフリが出来たのに……

 向こうも私の事が好きだとか、そんなの知っちゃったら、もう恥ずかしくて目どころか、顔すら見れないじゃんか。


 そこから家に帰るまでの記憶が全くなかった。

 のだが、家に帰って冷静になったら、『付き合えば毎日好きな時に、彼の目を見ることが出来るんじゃね』ということに気づいた。

 よし、明日会ったらいっちょ告白するか――


 ◆


 そうしてまた一組のカップルが生まれた

 そのカップルは、時間さえあればいつもお互いを見つめ合い、学校で一番有名なバカップルになったのであった。

 めでたしめでたし

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