星空の下で 2024/04/05

 一人星空の下で、粛々と準備を始める。

 これから俺は神聖な儀式を行う。

 せっかくなのでと友人も誘ったのだが、『バカなことしてないで、早く寝ろ』と言って怒られた。

 お前は俺のオカンかよ。


 まあもともと一人でする予定だったので問題は無い。

 ただ、儀式を準備するための人員が欲しかっただけである。

 別に寂しいわけではない……


 儀式の場所は、まだ種をまいていない畑。

 もちろん、自分の土地なので犯罪ではないし、迷惑も掛からない。

 ただ草刈りをサボっていたので、雑草が気になるところ。

 というのも、今回の儀式では火を使う。

 まだ寒いので、ポツリポツリ生えているだけだが、延焼の心配がある。

 念のため、消火器を持ってきてよかった。


 道具は全て持ち込んだので、今度は儀式の準備だ。

 まずは火入れ。

 これをしなければ、儀式を始めることはできない。

 儀式台に炭と着火剤を入れて、ライターで火をつけしばらく待つ。

 変化を見逃さないよう観察していると、炭の一部が赤く染まり始める。

 どうやら燃料の炭に火が付いたようだ。


 この小さな火を絶やさぬように、様子を見ながら風を送り、火を大きくしていく。

 慎重に、時に大胆に、風を送る。

 地味なように見えて、意外と難しい。

 若いころは力加減を間違え、火を消してしまった事は一度や二度ではない。

 当時は落ち込んだものだが、今となってはいい思い出だ。


 そして順調に火はは大きくなり、側にいるだけで汗をかくほど熱が伝わってくる。

 これぐらい火が強くなればいいだろう。

 燃料の追加も必要なさそうなので、燃えている炭の上に網を置いて蓋をする。

 これで準備は整った。


 それでは儀式を始めよう。

 クーラーボックスからあるものを取り出す。

 それは儀式で捧げる生贄の肉。

 肉を敷かれた網の上に置き、哀れな生贄を焼きあげる。

 肉が焼ける香りが俺の鼻を刺激し、思わずツバを飲み込む。

 体が『早く生贄をよこせ』と欲するが、なんとか押さえつけて、時が来るのを待つ。

 そして十分に火が通った肉を、あらかじめ用意していた秘伝のたれに絡めてから、口に運ぶ。


 口の中で肉汁が広がり、得も言われぬ幸福感に包まれる。

 噛めば噛むほど溢れ出る旨味は、俺に生の実感を感じさせてくれる。

 そして咀嚼した肉を飲み込むと、気づけば叫んでいた。


「くぅぅぅ、ウマい!全く星空の下のBBQは最高だぜ」

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