特別な存在 2024/03/23

 私は特別な存在だけが集まるパーティを主催した。

 このパーティは、歓談や食事のために開催されたものではない。

 そのため、食事自体の質はあまりよくなく、歓談する人間も少ない。

 だが参加者全員が、これから起こる事にウズウズしていた。

 無理もない。

 彼らは、メインディッシュであるパーティの出し物を見に来たのだ。

 自分たちのつまらない人生を彩る、そんな出し物を……


 ◇ ◇ ◇


 私たちは何不自由ない人生を送ってきた。

 使いきれないほど持っている金。

 世界各地にある豪邸。

 アメリカ大統領ですら、ご機嫌伺いに来る影響力。

 私たちが持っていないものなどない。

 そう、私たちは特別な存在なのだ。


 だが、ある時から私は人生がつまらなく感じ始めた。

 何をしても満ち足りない。

 そんなとき、漫画を読んでいて思いついた

 それは人間の本性を暴くこと。

 これを思いついたとき、人生で経験したことのないくらいの高揚感を感じた。


 人間だれしも、醜い欲望をもっている。

 だがそれを理性の元に封じ込め、まるで聖人のように振舞っている。

 その欲望を、白日の下に暴き出す。

 素晴らしいエンターテイメント!


 それをどうやって暴くか……

 決まっている。

 デスゲームだ!


 適当な人間どもを集め、殺し合わせる。

 生き残った一人だけが生きて帰れ、しかも莫大な金を渡すと言ってだ。

 愛を囁く恋人たちや平和主義者たちも、自分の命がかかっていれば殺し合う事であろう。

 まさに痛快。


 そして私は同志を募り、計画を立ち上げた。

 巨万の富をつぎ込み、会場を作り上げ、ゲームの参加者を選定、いろいろやることがあった。

 それぞれの得意分野を活かし、デスゲームを実現したのだ。

 他の見込みのありそうな成功者たちにも声をかけた。

 喜びを共有するためだ。


 準備は整った。

 あとは観戦して楽しむだけ。

 私の人生はここから始まる。


 ◇ ◇ ◇


『えーー、お集りの皆さん、こんにちは。担当の鈴木です』

 パーティ会場に男の声が響き、はっと我に返る。

 どうやら、空想に入り込んでいたようだ。


『えーまず最初に……

 予定されていたデスゲームですが――』

 男の続きの言葉を聞くため、会場の人間が全員耳を澄ませる。


『――中止です』

 は?

 会場にいる全員が言葉を失う。


『実は、工事業者にお金を持ち逃げされました。

 誘拐業者も夜逃げして、ゲーム参加予定者もいません。

 何一つ、準備出来てないので開催できません』


 会場のあちこちからブーイングが巻き起こる。

 私たちは人間の醜い部分を見るために、ここに集った。

 それが叶わないとするなら、我々はいったい何をしに来たと言うのか。

 というかそれはそれで、報告上げるべきだろ!


『みなさん、人間の本性が見たいとのことだったのでご満足しただけたかと。

 全員崇高な使命より、お金のほうが大事なんですよ』

 鈴木は『満足でしょ』と間の抜けた事を言い放つ。

 いや、それで納得できるか!


『とはいえ、中には人間が殺しあう様子をご覧になりたい人もいるでしょう。

 そちらだけは準備させていただきました』

 いろいろ予想外だったが、デスゲーム自体はやるんだな。

 ほっと、胸を撫でおろす。


 いや待て……

 さっきデスゲームは中止と言って……


『皆様、近くのテーブルの裏をご覧ください』

 男に言われるがまま、テーブルの裏を覗く。

 そこには小さな箱がある。

 嫌な予感がしながら開けてみると、そこには小さなナイフが入っていた。


「おい扉が開かないぞ」

 参加者の一人が、扉を開けようと体当たりをしている。

 そして周囲を見渡せば、先ほどまでいたウェイターが一人もいない。

 まさか、これは……


『皆さん、人間が争うのがお好きなようなので――』

 最初と同じ、淡々とした口調。

 だが、私は背筋に冷たいものを感じた。


『パーティの参加者にやってもらおうと思います。

 それでは……殺し合いを始めてください』

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