胸が高鳴る 2024/03/19

「もう最終日かあ」

「あっという間だったな」


 卒業旅行最終日、俺たちはホテルのレストランでのんびり朝食を取っていた。

 サークルの卒業旅行で、もっと多い人数で来る予定だったのだが、紅一点の女の子が旅行に来ないと分かった瞬間、キャンセルに次ぐキャンセル、最終的に俺と健吾の二人に。

 せっかくの旅行、男二人で回って何が楽しいかと思ったが、思いのほか楽しめた。

 知らない土地を回る事が、こんなにも楽しいものだったとは……

 キャンセルした奴らは勿体ない事をしたもんだ。


「飛行機の時間までどうする?」

 健吾にこれからの予定を聞く。

 この旅行は行き当たりばったりで、その日の予定を組んでいた。

 本当はスケジュールを組んでいたのだが、みんな来なかったので、ご破算にした。

 大人数前提の予定など虚しいだけである。

 例えば夢の国とか……


 健吾は食事の手を止め、考え込んでいた。

「んー。何かあって乗り遅れても嫌だし、そこらへんの土産屋を覗こうぜ」

「そうすっか」

 本日の予定、土産屋巡りに決定。


 食事を終えた後、チェックアウトして辺りをぶらつく。

 こうやって土産屋巡りもなかなか楽しいものだ。

 この土地名産を活かしたお菓子や、工芸品などバラエティ豊かだ。


 さて何を買って帰るか……

 あ、このクッキーなんておいしそうだ。

 家族の分と、サークルの後輩の分と、バイト先の分と……

 と土産を吟味していると、健吾が近くにいないことに気づいた。


 周囲を見渡すと、アクセサリー売り場で、売り物を熱心に見ている健吾を認めた。

 気になる子にプレゼントか?

 色気付きやがって。


 友人の恋路を邪魔するため、近くに歩み寄る。

 気づかれないよう背後を取り、ガシッと肩を掴む。

「おい、抜け駆けは許さ――」

 健吾が見ているものを見て、俺の胸が高鳴るのを感じた。

 なるほど。

 これを見ていたのか。

 なら仕方がないな。


 俺に気づいた健吾が振り向いて、健吾と目が合う。

『買うか?』

 言葉に出ていたわけじゃない。

 奴の目がそう語りかけてきたのだ。

 俺は黙ってうなずく。

 俺たちの心は一つだ。


 売り場に置いてある『龍が剣に巻きついたキーホルダー』を手に取る。

 俺は人生の中でこれまでにない胸の高鳴りを感じていた。

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