ずっと隣で 2024/03/13

<読まなくていい前回のあらすじ>

 青年は因縁の男を探し出し、対峙する。

 男からなぜか交渉を持ちかけられるが、男を殺すことにしか興味がない青年は申し出を拒否。

 青年は剣を、男は銃を取り出し、一触即発の状況になる。

 だが殺し合いになる前に男は戦う気をなくし、そのまま立ち去ろうとする。

 青年は男を追いかけるが、逃げられてしまうのだった



<本文>

 

「ふう」

 青年はホテルの部屋に戻るや否や、そのままベットに身を投げ出す。

 安ホテルゆえ、硬いマットレスを不快に感じながら、頭に浮かぶのはあの光景。

 ようやく探し出した男を見つけ出すが、まんまと逃げられてしまう。

 追いかけるが、闇に溶けるように消えていった。

 あの男の事を調べたが、まだ知らないことがあるらしい。

 あの男は一体何者?


 結論が出ない考えに耽っていると、部屋のドアがノックされる。

「誰だ?」

「ルームサービスです」

 青年は訝しむ。

 ルームサービス?

 頼んでないどころか、そんな上等なものがこの安ホテルにあるかどうかも知らない。

 もしかしたらあの男の仲間が自分を消しに来たのかもしれない。

 だが殺そうとしてきた相手を捕まえることで情報が得られるだろう。


 そのことを確信した青年は、向こうの思惑に乗ることに決めた。

「分かった。今開ける」

 青年は愛用の剣を持ち、警戒しながら扉に近づく。

 扉を開けた瞬間、青年の顔に向かって拳が向かってくる。

 だが青年はその拳を難なくかわし、逆に襲撃者を姿勢を崩して転倒させる。


 転んで地を這っている襲撃者の顔を見て、青年は驚く。

 襲撃者は青年と同じくらいの年頃の少女。

 彼女は青年の幼馴染であった。


「あー、もう。女の子を投げるなんてひどくない?」

 少女は自分から襲ったことを棚に上げ、青年に文句を言う。

「俺を殴ろうとしてよく言えるな。

 はあ、まあ入れ」

 青年はため息をつきながらも、少女を部屋に招き入れる。

 その様子を見て、頬を膨らませながら起き上がる

「こういう時、普通手を伸ばして抱き起すもんじゃない?」

「知らん」

 少女は青年に文句を言いながら、部屋の奥へと入っていく。


 青年はベットに腰かけ、少女は備え付けの椅子に座る。

「で?なんでここにいる?」

 先に口を開いたのは青年だった。

「なんで?それは私が聞きたいが?」

「質問に質問を返すな」

 はあ、と少女はため息をつく。


「分かってるでしょ。アンタを追いかけてきた」

「追いかけてくるな、と書置きしたはずだが?」

「それに従う理由なんてない」

 少女は青年を睨みつける。

 その迫力に青年はたじろいでしまう。


「それに約束したじゃん。君を守るって」

「いつの話だよ。それに俺は男だ。女に守られるなんて格好がつかない」

「今どき古いよ、それ」

「だが――」

「約束した。それとも私のほうが弱いとでも言うのか」

 少女の言葉に、青年は反論できなかった。

 実際に少女は青年より強い。

 先ほどは少女の方が投げられたが、それは少女が本気で殴ろうとはしてなかったから。

 もし本気なら立場が入れ替わったことだろう。


「あいつの事探しているんでしょ。私たちの両親を殺した、あの男を」

「ふん、そんな男、興味ないな」

「嘘ばっかり。あんた顔に出やすいの治らないね」

「……」

 少女は懐かしそうに青年の顔をみる。


「ねえ、私あの時言ったよね『今日から家族だよ。ずっと隣で守ってあげる』って」

 青年は何も言わない。

「だからさ、あんただけの問題じゃないの。あなたの問題でもあるし、私の問題でもあるの。だから、一緒に行こう」


 青年は少女を危険に巻き込まないため、一人旅立ったのだ。

「ダメだ。もう家族を失うわけには……」

「私が家族を失うのはいいの?」

「それは……」

「大丈夫、私は死なない」

 その言葉を聞いた青年は涙があふれた。

 今まで自分を押し殺してきたが、不安でいっぱいだったのだ。

 不安を男を殺すとう言う一念のみで抑えていたのだった。

 少女は席を立ちあがり、青年の隣に座る。


「安心して、わたしたちは家族だから。ずっと隣にいるから、ね」

 少女は、泣いている青年の頭を、子供をあやすように撫でる

「昔、いつもこうして慰めてたね」

 青年が泣き止むまで、少女はずっと隣で頭を撫でたのだった。

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