絆 2024/03/06

 学校から帰る前、ゲーム友達の友也にゲームを貸してもらった。

 友也は『絶対面白いから』と押し付けるように貸してきたが……


 タイトルはキズナ・クエスト。

 友人が言うには、文字通り絆を売りにしたゲームとのこと。

 これまでもたくさんゲームを貸してもらったが、外れは無かった。

 これも期待していいのだろう。

 押し付けられたものではあるけど、ちょっとだけ楽しみである。


 と言うわけで家に帰ってすぐプレイすることにした。

 そしてゲームをプレイし始めてから一時間。

 絆を売りにしているだけあって、仲間とのイベントが熱い。

 連携技も豊富で、なるほど友也が進めてくるのも分かる。

 そして、ついに初めてのボス撃破。


 一章のボスながら強すぎず弱すぎず、非常に戦い甲斐のある敵であった。

 序盤にもかかわらず、達成感がすさまじい。

 これからどんな冒険が待っているのか。 

 期待に胸を膨らませながら、ボスを倒した報告しに街へ戻る。


 すると怪しい人間が近づいてきた。

『あの強敵を倒す場面を拝見させていただきました。思わず見とれていまいました』

 初対面にもかかわらず、急にゴマをすってくる不審者。

『貴様、何者だ』

 主人公が不審者を問いただす。

 何が目的だろうか?


『私、奴隷商人でございます。単刀直入に申し上げます。あなたの仲間を売ってください。高額で買取させていただきます』

 仲間を売れだと?

 ふざけているのだろうか?

 仲間を金で売る?

 そんなの出来るわけ――

『10万GOLD出しましょう』

 その金額に心臓が高鳴る。

 え、10万?

 それだけあったら強い武器帰るじゃん。

 ちょっとボス厳しかったから、装備充実させたかったんだよね。

 じゃなくて。

 仲間を売るわけないだろ。

 選択肢は「いいえ」だ。


 俺は正気に戻る。

 まったくだ、仲間を売るなんてありえない。

『分かりました。では15万GOLDでいかがでしょうか』

 増えた。

 そして出てくる「はい」「いいえ」の選択肢。


 そこで俺は気づく。

 このゲームて、もしかして『絆が売り』じゃなくて『絆を売る』ゲームなのか?

 とんでもないゲームシステムだ。

 まったく、友人もとんでもないゲームを貸してきたものだ。

 こんな目先の

 そして俺は「いいえ」を選択した。

 …………………

 …………

 ……



 △  ▲  △


 翌朝、学校で。

「おっす、ゲームどうだった?」

「面白かったわ」

「ならよかった」

 俺の答えに、友也が嬉しそうに笑う。


「いくらで売った?」

「100万GOLDと珍しいアイテム」

「粘ったなあ」

「どうせ、売るんだからと思って、思いっきり吊り上げてやった。商人が最後泣いてたな」

 俺の言葉に友也は腹を抱えて笑う。

 これだけ笑ってもらえたなら、売られた仲間たちも満足であろう。


「それでさ、ゲームしながら思ったんだよね」

「何を?」

 友也が笑うのをやめて、不思議そうな顔でこちらを見る。

「俺と友也の友情、売るとしたらいくらかなって」

「そんなの決まってる。プライスレスだよ」

「俺もそう思った。やっぱ友也は親友だな」

 そしてお互いにがっちり抱き合う。

 世界よ、これが真の友情だ。


「こほん、盛り上がっているところ悪いが、少しいいか?」

 いつのまにか側に立っていた担任が立っていた。

「どちっかに授業の準備を手伝ってほしいんだが――」

「「こいつが行きます」」

 俺たちはお互いに指を差す。

 休憩がつぶれるのが嫌で、友也に押し付けようとしたのだが、あっちも同じことを考えたらしい。

「さっき親友といったんだから、俺のために役立て」

「は?友達は売ってナンボだ」


 言い争いをする俺たち見た担任が呆れた顔で言った。

「……その絆、金をもらってもいらない」

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