大好きな君に 2024/03/04

<読まなくてもいい前回のあらすじ>

 物語の主人公、百合子はひな祭りと言うことで、友人の沙都子の家に遊びに行く。

 目的は沙都子が飾っている豪華なひな人形である。


 だが、百合子はそこで衝撃の事実を聞く。

 その事実とは、一年前のひな祭りの時、百合子が甘酒で雰囲気で酔っぱらって暴れ、ひな人形を壊したというのだ。

 莫大な弁償金におののく百合子。

 しかし沙都子は自分がデザインした服のモデルになるなら、弁償しなくてもよいと言う。

 いやいやながらも、百合子は服のモデルを了承するのだった。


 そして今日も着せ替え人形として呼ばれたのだったが……


 ~以下本文~


「これ、私の気持ちです。受け取ってください」

 私は顔を真っ赤にしながら、手紙を渡す。

 もし何も知らない人が見れば、告白の場面だと思うことだろう。

 でも手紙を渡す相手は、親友の沙都子だ。

 色恋沙汰じゃない、友人同士のよくある手紙のやり取りだ。

 だが沙都子の反応は冷ややかだった。


「百合子、これは何の真似なの?」

「普段は言えない気持ちを手紙にしました。読んでいただければ」

「ふーん」

 私の手紙を、友人は見るからに疑わしげな顔で受け取る。


「悪口書いてるの?」

「まさか!日ごろの感謝の言葉です」

 沙都子はまるでゴミをみるようなの目で私を見る。

 あれは友人を見る目じゃないな。

 私ってそんなに信用ない?


 沙都子は大きくため息を吐いた後、折りたたまれた手紙を広げて読み始める。

 読み終えて一瞬何かを考えた後、声に出して読み始めた。


「『拝啓 沙都子様。

  突然ゴメンね。

  沙都子に言いたいことがあるんだけど、恥ずかして言えないので手紙にしました』」

 自分が書いたとはいえ、改めて書いたことを聞かされるの恥ずかしいな。


「『沙都子、いつも遊んでくれてありがとう、いつも迷惑かけてごめんね。

  沙都子はお金持ちのご令嬢で、私は一般家庭の何の変哲もないただの女の子。

  あなたと私は本当は済む世界の違う人間だっていうのに、嫌な顔一つせず遊んでくれて感謝でいっぱいです』

 沙都子の可愛い顔が、めっちゃ嫌そうな顔になる。

 『嫌な顔一つせず』というのはさすがに言いすぎたか。


「『私はそんな沙都子が大好きです。

  これからも一緒に遊んでください。


  大好きな君に。

  あなたの親友、百合子より』」

 沙都子が手紙を読み終える。

 そして沙都子は私を見てニコッと笑う。

 思いが通じた。

 私が勝利を確信したのもつかの間、沙都子は笑顔のまま手紙を破り捨てた。


「ああー。ひどい。一生懸命書いたのに!」

「百合子さん。伺ってもよくてよ、遺言」

 沙都子が笑顔をたたえながら、私に迫ってくる。

 やっべ、めちゃくちゃ怒ってる。


「やだなー、百合子『さん』なんて他人行儀。

 いつものように呼び捨てにしてよ。友達じゃん」

「心配されなくても大丈夫ですよ。友達ではありませんし」

 これは駄目だ。

 私は即時撤退を決断する。


「すんません許してください。出来心だったんです」

「嘘おっしゃい。どうせ、モデルが嫌だから、機嫌を取ってなんとか逃げようと思ったんでしょ」

 お見通しだった。

 沙都子はいつも私の企みを看破する。

「あなたが分かりやすいだけよ」

「え?私ってそんなに顔に出る?」

「うん」

 沙都子の言葉に衝撃を受ける。

 次から気を付けよう。

「無理だと思うけどね」

 だから心読まないで。


「それはともかく、私としては理不尽な要求したわけではない思っているんだけど……

 弁償するよりましでしょ」

「それはそうなんだけど、その服がね。可愛すぎると言うか……」

「似合ってるわ」

「いえ、私としてはもっとカッコいい系の服が着たいのです、ハイ」

「なるほど」

 沙都子は納得したようにうなずく。


「なら普通にそう言えばいいのに」

「えっ」

「そりゃ、嫌がられるよりは、喜んできてもらった方がいいもの。

 セバスチャン、クール系の服持ってきて」

 「畏まりました」と言って老齢の執事が部屋を出ていった。


「ありがとう。沙都子、大好き」

 私は嬉しさのあまり、沙都子に飛びつく。

「やめて、分かったから離れなさい」

 沙都子の力が想像以上に強く、引きはがされてしまう。

 私にできる最大限の親愛表現をしたのだが、沙都子のお気に召さなかったらしい。

 でもそれじゃ私の気が済まない。


「こんなのじゃ、私の気持ちを伝えることが出来ない。

 そうだ、もう一度、大好きな沙都子に手紙を――」

「それはやめて」

 沙都子に絶交されそうな勢いで拒否されたので、さすがに手紙を書くことは諦めた。

 まあ、いつか機会があると思うので、その時に改めて伝えよう。


 まったく、沙都子は恥ずかしがり屋さんなんだから。

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