Love you 2024/02/23

 私には超能力がある。

 といっても便利なものではなく、他人が誰に恋しているかがわかる程度。

 頭の上に『LOVE ○○』と出て、○○の所にその人が好きな人の名前が入る。

 誰にも恋していなければ何も出てこない。

 と言っても年頃の男女に色恋は付きものなので、ほとんどの人間の上に文字が出ているのだけれど。


 ただこの能力、はっきり言って役に立たないどころか、邪魔ですらある。

 例えばカップルなのにお互い好きな人が違うとか、例えば突然好きな人が変わったとか、そう言うのを見るとダメだと思っても邪推してしまう。

 しかも『他人の好きな人が分かる』なんて信じてもらえないから、誰にも相談することは出来な――

 いや、一人だけこの事を知っている人間がいる。


「先輩、こんにちは」

 放課後、下駄箱で靴を履き替えていると、後輩の男子から声をかけられる。

「先輩は今日も綺麗ですね」

「あら、ありがとう」

 何を隠そう、後輩は私の恋人だ。

 そして私の能力を知っている一人である。


 なぜ私の能力を知っているのかと言うと、彼の頭の上にある『Love you』の文字が関係している。

 普通Loveの後ろには人名が入るのだが、なぜか彼だけ英語なのである。

 姿を見かけるたびに、どんどん疑問が膨れ上がっていく。

 どうしても我慢できなくなり、最終的に彼を捕まえて、思い切って聞いてみたのだ。

 その時に私の能力のことを話したのだが、もちろん最初は信じていなかった。

 だけど少し考えた後、何かに納得して私の能力のことを信じてくれたのだ。

 そこで『誰が好きなのか?』と聞いたところ、『あなたの事が好きなんです』と言わた。

 『youとはあなたのことです』とも。


 突然の事にパニックになりその場では保留にしたのだが、日を追うごとに彼のことを意識し始め、ついに付き合うことになった。

 それまで彼のことを全く意識していなかったのだが、告白されたら好きになるんだから、私も現金なものである。


 だが謎は残ったままだ。

 なぜLoveの後ろに私の名前が入らず、『you』となっているのか?

 付き合い始めてから数日掛けて考え、私はある仮説を立てた。

 せっかくここに後輩がいるので、仮説を証明したいと思う。


「ねえねえ、ずっと気になってたことがあるんだけど、聞いていいかな」

「なんですか?先輩」

「君、私の名前、知ってるよね」

 そう言うと後輩の顔が真っ青になる。

 ワオ、マジでか。

 本当に私の名前を知らないらしい。

 分からないから『you』か。

 なるほどね。


「あの、ゴメンなさい」

 彼は怯えるような顔をするが、その反応に私の嗜虐心を刺激され、ちょっとだけ意地悪してみる。

 ちゃんと名乗ってない私にも責任はあるのだが、それは棚に上げる。

「どうしようかな~。ショックだな~」

 棒読み気味だったが、彼の様子は変わらなかった。

「あの、何でもしますから」

「へえ、何でもねえ」

 焦っちゃって可愛いね。

 でもいじめ過ぎて嫌われてしまうのも大変なので、ここまでにしておく。

 頭の上の文字が変わったら、多分私は立ち直れん。


「フフフ、今回だけ特別にデザート奢ってくれたら許してあげる。

 学校の近くのレストランで、おいしそうなパフェがあるのよ」

「うっ、分かりました」

 私が提案すると、彼はほっと胸を撫でおろした。


「私の名前は、中村 静香よ」

 そう言うと、彼の頭の上の文字が『Love you』から『Love 静香』に変わる。

 私はそれを見て、大きく頷く。

 余は満足じゃ。


「じゃあ、静香先輩行きましょう」

 そういって彼は私の手を取る。

 初めての名前呼びに少しむずがゆくなるけど、それ以上に嬉しくなる

 やっぱり恋人からは名前で呼んでもらわないとね。

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