太陽のような 2024/02/22

 ある日の放課後の帰り道、突然クラスメイトの女の子から声をかけられた。

「これあげる」

「え、ああありがとう」

 あまり話したことのない女子から話しかけられ、少し動揺しながら受け取る。

 もちろん物を送り合う間柄ではないので、もらう理由に全く心当たりがない。


「これバレンタインチョコね」

 なるほど。バレンタインか。

 今年のバレンタインは、いつも通り誰からももらえなかったので、素直に言って嬉しい。

 だが――

「……バレンタインは一週間前だよ」

 そういうと、彼女は困ったような顔をした。

 

「実はさ、バレンタインのやつがフライングしちゃって……」

「バレンタインは予定通りだったよ」

「フライングしてね」

「だから――」

「フライング」

「分かったよ」

 堂々巡りになりそうだったので、自分の方から折れることにした。


「すぐ食べてね」

「分かった」

 そうして綺麗にラッピングされた包装を丁寧にほどいていく。

 まあ多少変だとはいえ、嬉しいものは嬉しい。

 ワクワクしながら包装をとくと、出てきたのは何とも形容しがたい物体だった。

 まあるい球になんだか毛?が生えている奇妙な物体。

 ナニコレ?


「何これ?」

 思わず口に出てしまい、しまったと後悔する。

 だが彼女は俺の失言を聞いても、特に気にした様子もなく、質問に答えてくれた。

「太陽」

「たい……よう……。これが……?」

 俺の体に稲妻が走る。

 これが?あの太陽?

 マジマジと見つめるが、全く太陽には見えない。


「君は私にとって太陽だから。太陽をイメージして作ってみたの」

「……そうなんだ」

 太陽をイメージしたチョコ?

 この出来損ないの太陽のような物体が俺だと言われても、俺の心中は複雑である。


 もしやチョコを使った俺に対する高度な皮肉か?

 それともドッキリ?

 駄目だ、目の前の物体のショックによって思考がまとまらない。

 何が正解なんだ。


「早く食べて。そんなにまじまじ見つめられたら恥ずかしいよ」

 彼女は俺に食べるように促す。

 目の前の物体を見て、俺は思わず生唾を飲み込む。

 これは、普通のチョコのはずだ。

 マンガじゃあるまいし、とんでもなく不味いということは無いだろう。

 だが何故だろう。

 とてもじゃないがおいしそうに見えない。

 俺はいつも『食事は腹に入ってしまえば、全部一緒』だと思っていた。

 だが今回の剣で、見た目は大事だと認識を改めることになった。


 そんなことを考えている間にも、彼女は俺を心配そうに見つめている。

 気まずい。

 意を決し、太陽?チョコを口に入れる。

 毛のようなものが口の中で刺さって少し痛い。

 そしてかみ砕くと、口の中に甘いチョコレートの味が広がる。

 ウイスキーボンボンだったようで、アルコールがよいアクセントになってておいしい。

「おいしい?」

「おいしい」

「よかった」

 彼女は胸に手を当てて、息を吐く。


「ありがとう。じゃあ、私帰るから」

「え、ああ」

 そう言って彼女は、そそくさと帰ってしまったのだった。

「なんだったんだ、今の」

 彼女が去っていった方を見ながら、独り言を呟く。


 何が何やら分からないが、このまま考えても答えは出ないので、家に足を向ける。

 まあ、でも形は悪かったけど、けっこうおいしかったな。

 でも、チョコをもらったということは、お返ししないとな。

 人生初のホワイトデーは少しだけ楽しみだ。

 何でお返ししようかな。

 彼女は俺のことを太陽だと言っていたから――


『君は私にとって太陽だから』

 彼女の言葉が頭をよぎる。

 ……ひょっとしてだけど、あれって愛の告白か。

 今まで話したことすらないのに、なんで?

 俺は告白の返答をすべきなのだろうか?

 でも、彼女は俺に答えを聞くことなく帰ってしまったし。

 もしかして俺の勘違いか?


 ずっと同じ考えがぐるぐると頭の中を回り、気が付くと家の玄関の前まで来ていた。

 こうなったら水を飲んでゆっくり考えよう。

 そう思いながら玄関の扉を開けると、俺に気づいた母親がリビングから出てきた。

「お帰りなさい。着替えは洗濯機に――

 ……あら、どうしたの?

 太陽みたいに顔が真っ赤よ」

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