10年後の私から届いた手紙 2024/02/15

 10年後の私から手紙が届いた。

 何を言っているのか分からないと思うけど、私も分からないので仕方がない。

 近所に手紙を出すと10年前の自分に届くというポストがある。

 最初はこの都市伝説にちなんだ、ただのイタズラだと思っていた。


 そしてこの手紙には、これから起こるであろう様々な出来事が書かれていた。

 病気の感染、外国の戦争、日本での大きな事故、有名な事務所の不祥事。

 だがどれもこれも荒唐無稽で信じることはできなかった。


 だけど月日が経つにつれ、私は考えを変えることになった。

 手紙が届いてから一年の内に、書かれている出来事の一割が起こったのだ。

 寸分の狂いもなく、正確に事件や事故が起こった。

 起こってないもう9割の出来事は、日付が未来となっている。

 未来の事ではあるが、絶対に起こることなのだろう。

 ここまで来ると、さすがに信じるほかなかった。

 (そこまで分かるんなら、宝くじの当選番号くらいかけよ、とも思ったが)


 だが……

 『私』から、というのは絶対に信じることができない

 だってこの手紙、もすごい綺麗な字で書かれているもの…

 私の字は汚い。

 どんなに頑張ってもこんなに綺麗にかけることはない。

 かつて字をきれいにしようとしたこともあるが、時間の無駄だった。

 ある人は『ミミズが這ったような字』、ある人は『これには解読班を呼ぶ必要がある』、またある人は『これは紛れもなく宇宙人の文字。宇宙人は存在する』とまで言った。

 さすがに最後のやつは殴った。


 たった一つの相違点。

 それだけだが、この手紙は私を語る偽物が書いたと断言できる

 もちろん10年後に字がきれいになる未来があるかもしれない。

 しかし、それならば字の事について言及があるはずだ。

 でもそれがないことはおかしい。

 つまり私ではなく、私を語る偽物が書いたのだ。

 証明終了。


 そしてもう一つ不可解な事。

 それは、これだけのことをしておいて、私にさせたいことが意味の分からない。

 『指定の日時に指定の場所に行くこと』

 そこで何が起こるかも、何をすればいいのかも書かれていない。

 意味不明である。

 なにかのイベントがあるのかとも思ったが、調べても何も出ない。


 もしかしたら、暗殺者がいて私を殺すつもりなのかとも思ったこともある。

 だけどそれにしては回りくどい。

 直に殺しにくれば話が早くて確実である。


 この手紙の差出人は何が目的なのか?

 それを理解するために、この場所に行くしかあるまい。

 行かないという選択肢は、私の中には無い。

 なぜなら、ここで行かなければ、死ぬまでずっとモヤモヤが晴れないだろうからだ。

 さすがに『ま、いっか』で済ますには見過ごせないことが多すぎる。


 指定の日付は来週。

 鬼が出るか蛇が出るか。

 それはその時になってみないと分からない

 期待と不安が入り混じりながら、その日を待つのだった。



 🕙 🕙10年後🕙 🕙


 今でもあのことを思い出す。

 あの手紙によって私の人生は大きく変わった。


 あの指定の日付に指定の場所に行くと、私は運命的な出会いを果たした。

 そこには新しく結成されるアイドルグループの宣伝ポスターが張られていた。

 私はそのポスターを見た瞬間、ハートを撃ち抜かれた。

 そこには、ストライクゾーンど真ん中の美男子が大きく映っていたのだ。

 そして死ぬまで推していくことを、その場で誓った。


 有休が取れない仕事はやめ、融通の利く仕事へと転職した。

 そして空いた時間をフルに使い、ライブや握手会は全て行った。

 何度も行ったので、完全に顔を覚えられたのは笑い話である。


 ファンレターも出した。

 さすがに汚い字のまま出すわけにもいかず、必死になってきれいな字を書いた。

 すると継続は力なりと言ったもので、ある程度キレイな字が書けるようになっていた。

 愛は偉大である。


 後で知ったのだが、宣伝ポスターはいろいろ事情があって、あの日あの場所でしか張られなかった。

 つまり、あのタイミングを逃せば推しに会えることは無かった、と言うことだ。

 テレビで見ることはあるかもしれないが、前職の毎日残業デーという状況下ではテレビを点けたかどうかすら怪しい。

 つまり、私に確実に認識させるためには、あの場所に向かわせることが最善だったのだろう。


 そして彼は今でもテレビで活躍している。

 あの時会った美男子は、年を取ってイケメンになった。

 だけどあの時と変わらない輝きで、私の人生を照らしてくれる。

 彼と出会わなければ、私の人生は今でも暗い物であっただろう。

 感謝をしてもしきれない。


 そして私は手紙を書いた。

 彼にではない。

 十年前の自分あてに。

 疑われないよう細心の注意を払い推古する。

 書くのは最低限、自分のことはほとんど書かない。

 字がきれいになった理由もだ。

 ネタバレしてはつまらないからね。


 最後に十年前に自分に届くと言われるポストに手紙を出す。

 ただの都市伝説だと思っていたが、実際届いたので本当だったらしい。

 なんでも疑ってかかるのはよくないな。

 なんにせよ、やれることはすべてやった。

 これなら彼と確実に巡り合うだろう。

 十年前の私よ。

 手紙を出した私に感謝するといい。

 そして彼に最大級の愛を捧げるのだ!



 あ、宝くじの当選番号書くの忘れた。

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