時計の針 2024/02/06

 旅の途中で倒れたところ、近くの村の人に助けてもらった。

 そこで山賊が暴れていることを聞く。

 血も涙もなく、近くを通る人間を見境なく襲うので、みんな困っているという。


 私は自分の剣術には自信がある。

 私は助けてもらった恩義で山賊を退治することにした。

 一宿一飯の恩義に報いるためでもあるが、手柄をあげたい気持ちがあったことも否定しない。


 もちろん村の人たちは無謀だと言って私を止める。

 自分たちが我慢すればいい事、死ぬことはない、と。

 優しい人たちである。

 だが私はなんとか村人から山賊のアジトの場所を聞き出し、そこに赴いた。

 だが――

 

「観念するがいい。貴様の命もここでお終いよ」

「くっ」


 私は今膝をついていた。

 私は剣には自信があった。

 だが、山賊は私より強かった。


 始めの一振りで刀は弾き飛ばされた。

 次の一太刀で切り殺されることを覚悟したが、なぜか切られることは無かった。

 その隙に刀を拾い上げ、山賊と対峙するも再び刀を弾き飛ばされる。

 そしてその時も次の攻撃が来ることは無く、再び刀を拾う。


 何度か切り結んだあと、私は気づいた。

 山賊は私で遊んでいるのだ。

 その事実に身が震える。

 山賊との差はそこまでなのか……


「気づいたか。そうさ、俺は手加減している。

 だが落ち込むことは無い。

 何度かやれば、一度くらい剣が当たるかもしれんぞ」

 絶対そんなことは無いがな。

 そんな意味を言外に含み、山賊は笑う。


 その後も私は山賊に切りかかった。

 その度に刀を弾き飛ばされ、そして拾わされる。

 何度挑もうとも、山賊には刀が届かない。


 勝てない。

 その言葉が頭を駆け巡り、一歩後ずさる。

「終いだな」

 そう言うと、山賊は私の刀を遠くに弾き飛ばした。

 次は無いということだろう。


 恐怖が体を支配する。

「なかなか楽しめたよ。じゃあな」

 山賊は持っていた刀を振りかぶり、私を切り殺そうとした、まさにその時――


「ポッポー、ポッポー、ポッポー」

 背中から鳩の鳴き声が聞こえる。

「なんだあ」

 山賊は鳩の鳴き声に驚いたのか、動きが止まる。

「なんだ、南蛮から来た商人から取り上げた時計かよ。間の悪い」

「南蛮……時計……」


 振り返ると巨大な時計が鎮座していた。

 それは見事な鳩時計であった。

 知り合いの商人に見せてもらったことがある。

 時間を示す南蛮のカラクリであると。


 そのことを思い出すと同時に、私はこの時計に勝機を見出した。

 うまくいくかは分からないが、この手段にかける。

 私は時計に飛びつき、時計の針をもぎ取る。


「貴様!」

 山賊が危険を感じたのか、振り上げた剣を振り下ろす。

 だが遅い。

 私は山賊の剣を時計の長針で受け止める。

 重い衝撃が腕に伝わるが、耐えれないほどではない。


「何!?」

 山賊は予想外の事態にうろたえる。

 私は山賊が態勢を整える前に、もう片方に持った短針で山賊の心臓を正確につく。


「馬鹿な……」

 その言葉を最後に山賊は地面に崩れ落ち、二度と起き上がることは無かった。

 こうして山賊は退治され、村に平穏が戻り、人々から感謝されたのであった。


⚔ ⚔ ⚔ ⚔


 これが日本で使われた二刀流の最古の記録と言われています。


 このこのエピソードからも分かるように、片方で敵の刀を防御し、もう片方で攻撃する。

 この攻防一体の構えが評価され、のちの時代に多く使われました。


 例えば戦国時代、織田信長好んでこの構えを使い、日本の戦争を変えたと言われています

 また明治維新の時にも、多くの侍たちに使われ、外国から来た黒船を何隻も沈めたことは、皆さんのご存じの通りです。


 最近までこの記録は偽物だと思われていましたが、他の資料が見かったことで研究が進み、この記録は本物であることが判明しました。


 では最後に一つ。

 分かっているとは思いますが、大嘘です。

 信じないでね。

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