タイムマシーン 2024/01/22

 私の彼氏はイケメンでお金持ちだ。

 頭もよく、誰もが知る名門大学に通っている。

 すでにいろいろな企業からオファーが来ており、将来を約束されたエリートなのだ。


 そんな彼だが、多少は驕った所があるものの、いつも優しく紳士的で、記念日も忘れたことがない。

 まさに完璧超人と言った風で、自分にはもったいないほどの人物だ。


 そんな彼だが一つだけ欠点、というほどの事じゃいけど、妙なことを言うのだ。

 『自分はタイムマシーンを持っている』と。


 いくら何でもありえないと思う一方で、彼が嘘をつくとも思えない。

 実物を見せてくれれば早いのだが、そんなものを簡単に見せてくれるのだろうか?


 長い間悩みぬいた末に、ダメ元で聞いてみると、すんなりOKしてもらえた。

 彼が言うには、『あれから話題にも出さないから信じてないのかと思った』。

 私が悩んでいたのは何だったのか……。


 そして本日タイムマシーンを見せてもらうために、彼の家を訪れた。

 彼の案内で綺麗に整頓された倉庫に入ると、奥に白いシートがかけてあるものが見える。

 初めて見た時の感想は、『薄い』である。

 バックトゥザフューチャーに出てくるデロリアンようなものを想像していたから、というのもあるけどこんなので時間旅行なんて出来るのか?

 もしかしてコンパクトに畳めるタイプ?


 彼に見てもいいかと聞くと、頷いてシートをはぎ取ってくれた。

 そこにあったのは、畳ぐらいの大きさの板に色々な箱がついている、なんだかよく分からないものだった。

「えっと、これがタイムマシーン?」

「そうだよ」

「そっか」


 私は少しがっかりした。

 確かに勝手に期待したのは私だが、これは無いんじゃないのか。

 だって、どう頑張っても子供のおもちゃの様にしか見えない。


「どう?」

 彼が笑顔で聞いてくる。

 私は返答に困る。

 だって、これは、なんと言うか――

「ドラえもんに出てくるタイムマシーン見たいだろ」

「ええ、言っちゃうの!?」

 まさか彼に言われるとは。


「僕でもそう思うんだから仕方がない」

 彼はイタズラが成功したかのように笑っていた。

 もしかしてからかわれた?


「ああ、ゴメンゴメン。君の反応が面白くて、つい。

 大丈夫だよ、これは本物のタイムマシーン――


 だと思っている」

「思っている?」

 不思議な表現だった。

 彼は私の心を見透かしたように、説明を続ける。


「これさ、小学生くらいの時かな、その時にもらったんだ。

 壊れたからって。

 うち廃品回収業者じゃないのにさ」

「そうなんだ……」

 彼にと取って思い出の品ということか。

 友達が作ってくれて、今でもそういうことにしてるって意味かな。

 小さいころの思い出は大切だもんね。


「これね、その友達を訪ねて未来から来た奴が乗ってたんだ」

 んん?変な話になって来たぞ。


「ていうか、それドラえもんじゃん」

「やっぱそう思う?」

「思う」

 やっぱりからかわれたか。


「子供の頃のこと、よく覚えていないんだ」

 まだ話は終わってないらしい。

「そのおぼろげな記憶の中に、これに乗っていろんな時代に行った記憶があるんだ」

「それは……」

「うん、言いたいことは分かる。

 アニメと記憶がごっちゃになっているんじゃないか、とね」

 そう言いながら、懐かしい目をしてタイムマシーン(?)を見ている。


「僕も実はそうじゃないのかと思ってる。

 これをくれた友達も、その時のこと覚えていないみたいで、実際よく分からないんだ。

 これを持っていた理由も覚えてない」

 彼は振り向いて私を見る。


「でもさ僕はこれを本物だと思ってる」

「友達がくれたから?」

「いいや、ロマンさ」

 彼は子供っぽく笑う。


「そんな顔初めて見た」

「カッコいいだろ」

「ん-ん、子供っぽくてかわいい」

「締らないなあ」

 そして彼は愛おしげにタイムマシーンを撫でる。


「今の僕じゃ無理だけど、これ修理したいんだ」

「その時は乗せてくれる?」

「いいよ」

 おお、言ってみるもんだな。

 将来が楽しみだ。


「将来子供が出来たら乗せてくる?」

 口が滑る。

 さすがに結婚を飛び越して、子どもの話はない。

 だが彼は、気にせず笑って答えてくれた。


「それじゃこれを大きくして、たくさん乗れるようにしないとね。

 3人しか乗れないんじゃ話にならない」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る