閉ざされた日記 2024/01/18

「まだ着かないのか?」

「もう少しですよ」

 俺たちは、男の案内によってとある建物にきていた。

 入ってから随分と歩いた気がするが、まだ着かないようだ。


「ここでないよね」

 幽霊が苦手な魔法使いが俺に聞こえるように囁く。

 長い間使われたいないのだろう。

 魔法使いの言う通り、暗くて埃っぽいのでいかにも『出そう』な雰囲気だ。


「大丈夫です。雰囲気だけですから」

 案内の男にも聞こえていたらしく、安心させるように大きな声で答える。

 だが魔法使いはそれでも怖いらしく、周りをきょろきょろしていた。


「たしかここを曲がれば――あっ、あれです」

 男が指を差したのは、巨大な何の変哲もない氷の塊だった。

 溶ける様子がないことをのぞけば……

 おそらく魔法で作られた氷なのだろう。 

 そしてその氷の中心には一冊の本が浮かぶように佇んでいた。


「あの氷に閉ざされた日記が、あの人の隠していたものです」

「それを手に入れれば、アイツを説得できるんだな」

「おそらく……」


 男は自信なさげに答える。

 始めに自信満々に言ったのは何だったのか。

 まあ、いい。

 

 どちらにせよ、俺たちにはほかに出来る事なんて無いのだから。


  □ □ □

 


 俺たちは魔王城に向かうため、この町を訪れた。

 この町は魔王軍からの防衛に作られた町で、通り抜けるには許可が必要だった。

 だが、ここの治安を任されているという役人が頑なにこの街を通り抜けることを許さなかったのだ。

 王の命令書を見せても、『規則で駄目』『前例がない』と言って、この町を通り抜ける許可を出さない。

 

 どんな説得にも耳を貸さず、俺たちは結局おめおめと宿屋に帰ってきた。

 部屋に入って仲間の魔法使いと、今後の相談をする。

 明日どうやって説得するか話し合い、最終的には暴力で脅すことも視野に入れて結論が出た時のことである。


 宿に俺たちに用があるという男がやってきたのだ。

 その男は頑固な役人の部下だと名乗った。

 俺たちは警戒したが、男は力になりたいと言うので話を聞くことにした。


 男は、その俺たちが役人と言い争いになってる場面を目撃していた。

 その役人はもともと柔軟な人間であり、最近の頑なな上司の様子に心を痛めていた。

 どうにかしたいが、自分だけでは何もできない。

 その時にやってきたのが俺たちと言うことらしい。

 

 また男は、役人がなぜ頑なになった原因の過去を話していたが、興味ないので聞き流した。

 大事なのは、この町をどうやって通り抜けるか、である。

 

□ □ □


 俺は氷の塊を叩いてみる。

 返ってくる感触は固く、力で壊すには難しそうだった。


「私もハンマーで壊そうと思ったのですが、思ったより硬く……

 かといって魔法も使えませんし、困っていたんです」

「なるほどな、しかしなぜ氷漬けに?」

「過去を忘れないためと、さっきも言った気がするのですが?」

「魔法使い。壊せるか?」

「魔法使い、この氷を溶かせるか?」

 男の追及が来る前にとっとと解決することにする。


 魔法使いは俺の言葉を聞いて、ニヤッと笑う。

「当ー然。いい腕してるけど、僕にかかればいちころさ」

 そういって、魔法使いは何かを呟くと、見る見るうちに氷は溶けていった。


 短い間に氷は全て溶け、後には日記だけが残った。

 俺はそれを拾い上げて、中身を読んでみる。

 だが、日記は数ページしか書かれておらず白紙だった。

「うーん。何も書いていないな。特に重要なことも書かれていない。無駄足だったな」


「いいえ、これでいいんです」

「どういうことだ?」

 男の言葉に信じられず、質問を投げる。


「本当に聞いていなかったのですね……。

 まあいいでしょう。

 あの人は、規則にうるさく中途半端なことを嫌う。

 あなた方もご存じですよね」

「そうだな。そういった印象を受けた。

 だがその日記には重要そうな事が何も書かれていない」

「だからこそ、この日記が役に立ちます。

 この三日坊主の日記で交渉すればいいんですよ

 彼の完璧主義にとって、許しがたいものですからね」

 

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