木枯らし 2024/01/17

 木枯らしが吹いて、葉っぱが地面を転がって行く。

 道路には葉が全て落ちた街路樹以外には何もない。

 まるで世界に誰もいなくなったかのような錯覚を覚える。

 その感覚に恐怖を覚えるが、向こうから歩いてくる男性が、それは錯覚だと確信させてくれる。

 だが寂しいという感情を想起させるには十分な風景だった。


 しかし冬になったというのに、まさか木枯らしが吹くとは……

 冬にもかかわらず春のような暖かい日が続き、あんまり冬のような気がしない。

 と思えば秋のように木枯らしが吹く。

 メディアが異常気象と言って騒ぎ立てるのも、無理の無い事なのだろう。


 待て待て待て。

 おかしいぞ。

 たとえ異常気象でも冬に木枯らしが吹くはずが無いのだ。


 木枯らしが吹くのは秋だけ、それも10月から11月にかけて吹く風をそう呼ぶ。

 そういうもの、と言うのではなく定義がきっちり決まっている。

 それ以外の時期に吹く風は木枯らしなどとは決して呼ばないのだ。

 なんで一月に吹いた風なんかを、木枯らしなどと思ったのだろう?


 理由は分からない。

 だが一つ分かる事がある。

 これは異変だ!!


『異変を見つけたら、すぐに引き返すこと』 

 頭にあるフレーズが浮かび上がる。

 気づいた瞬間に体を反転させ、全力で走り出す。

 遠くのほうを見れば、見慣れた通路。

 あそこに逃げよう。


 普段運動をしないため、すぐに息が切れる。 

 これから毎日ジョギングをしよう。

 そう決意していると、何かが後ろから何かが襲い掛かってくる気配が!


 本能的に危険を感じ、止まりたくなる欲求に抗いながら道路を走り抜ける。

 心臓が爆発しそうなくらい走り、ようやく通路に到着すると背後の気配は消えていた。

 どうやら助かったらしい。


 壁に手をついて息を整える。

 後を振り返れば、ただの壁があるだけ。

 通路なんて最初から無かったかのようだ。

 まるで夢を見ていた気分だが、激しい呼吸がそれを否定する。


 それにしても、最近流行っているというので、ゲームのプレイ動画を見ていて助かった。

 気配の感じ方から察するに、すぐ後ろまで迫っていたと思う。

 すこしでも判断が遅れていれば助からなかっただろう。


 だんだんと今までのことを思い出してくる。

 たしか見慣れない通路を発見し、好奇心から入り込んで、気づいたらあそこにいた。


 とてつもなく疲れた。

 ホッとしていると、あることに気づく。

 さっきの男性は何者なんだろうか?


 もしや何かに捕まってしまった人間なのだろうか?

 思わず背筋が寒くなる。

 だがそうだとしても自分には何もできない。

 自分が助かっただけでも良しとしよう。


 帰ろう。

 誰もいない通路を歩き出す

 遅い時間とは言え、誰も歩いていないと不安になるな。

 そう思っていると、足音が聞こえて少し安心する。

 何気なく音の方向を見ると、向こう側から見覚えのある男性が歩いてきた。

 

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